ヒトとサルの最大の違いとは…? 「国」のなりたち、「お金」の概念をまるっと解説! /東大生が日本を100人の島に例えたら面白いほど経済がわかった!④
公開日:2022/10/27
人類が発明した便利なシステム「国」
そういった問題を解決するのが「国」です。
「国」は、社会にルールを与え、「適切な役割分担」と「適切な分配」ができるように機能します。
人類は長い歴史の中で、この「適切な役割分担」と「適切な分配」のために、偉い王様がひとりで全部決める君主制、役割や分配をすべて国で決め平等に分ける社会主義など、さまざまな形の国家システムを導入してきました。
そして現在、日本を含め多くの国が採用しているのが、「民主主義の法治国家」というシステムです。
「民主主義の法治国家」とは、シンプルにいうと「“絶対ルール(憲法)”を守る範囲内で、細かいことは選ばれた代表者で話し合って決めるシステム」です。
君主制のように、「ヒトを一番偉い存在」とする国家システムは、王様が無能だと破綻します。たとえばその王様が「魚が苦手だから、漁師が魚をとるたびに厳しい罰金刑を科す」などと言い出せば、漁師がいなくなってしまいます。
そんなことが起こらないように「ルールを一番偉い存在」にして、そのルールに従ってヒトが国を運営するようにしたのです。
ヒトは間違える生き物です。ヒトラーを熱狂的に支持し、ユダヤ人への差別を容認したのも他ならぬ国民たちでした。
だから「人の命を勝手に奪ってはいけない」「一部の人に不当な扱いをしてはいけない」「差別をしてはいけない」などのよほどのことがないと変えることができない強固なルール(憲法)を定めているのです。
国を実際に動かすための「公務員」
「国」というシステムを「実際に動かす人」として、公務員がいます。
公務員は、警察や教員、市役所職員など、国のシステムを動かす仕事をします。加えて「国が管理した方が良い公共性の高い仕事」や「儲からないけど、大切な仕事」も公務員に割り当てられます。道路や下水道に関わる仕事や、自衛隊や防災に関わる仕事などです。
たとえば津波は100年に一度くらいしか起こらないため、みんなのための防波堤を作る仕事はお金を稼ぎにくく、自由市場ではなり手が現れません。
でも国民の命を守るためには大切な仕事なので、国がやるのです。
また現実の日本には、肩書上は公務員ではないけれど、公務員とほぼ同じ立場である「みなし公務員」がたくさんいます(100人の島ではわかりやすさを優先して「公務員」とひとくくりにしています)。
たとえば日本銀行の職員は公務員ではありませんが、「法令により公務に従事する職員とみなす」(日本銀行法第30条)と定められています。
基礎研究(日本の技術発展のため。すぐにお金になるかわからない研究)をしている理化学研究所の職員や国立大学の教授などもみなし公務員です。
なぜ「すぐにお金になるかわからない研究」を国でまかなっているのかというと、「すぐにお金になるかはわからないけど、いろんな新しいことを研究している人たち」を自分の国に確保していた方が、生活を良くしてくれる新技術が生まれる確率が高く、国全体としてみるとプラスだからです。
特に日本は資源が少ない分、技術の力によって豊かさを享受している国なので、科学技術の発展を続けられるかどうかは死活問題です。
ちなみに筆者は執筆時点で東大の博士課程の研究者ですが、他の先進国の制度に比べて日本はあまりにも研究者の待遇が悪いので、もうちょっと状況が良くなってほしいなあと思っています(科学研究費をあまり削減しないでください…。「結果が出そうな研究にだけ予算をつけよう」というのは、「宝くじの当たりくじだけ買えばいいじゃん」というのと一緒なので…)。
というわけで、このようにヒトは「国」というシステムと、「お金」というアイテムを導入し、役割分担と物資分配を効率化することで、何万人もの群れが力を合わせることを可能にしました。
ホモ・サピエンス(ヒト)は一個体では弱くても、何万何億という個体が、言葉で経験を継承しながら、「巨大な塊」として効率よく生き延びてきたため、ゴリラにもライオンにも生存競争で勝つことができました。「国」や「お金」は、ヒトを強くした発明品だったのです。
ところで「お金というアイテムを導入する」と言いましたが、一体どうやって導入するのでしょうか?
私が「新・日本円」という自作の紙切れを作って、あなたに渡すことはできます。
でもあなたはその「新・日本円」と書いてあるだけの紙切れに価値を感じることはできないでしょう。
一方で、現実の日本では「一万円札という紙切れには価値がある」とみんな感じています。
どうすれば「この紙切れは価値がある」とみんなが認識し、国中で流通されるようになるのでしょうか。
次のチャプターで説明したいと思います。