綾野剛「写真家がいなければ僕はこの世に存在しない」。操上和美との8ヵ月に渡る撮影がつまった全560ページの写真集『Portrait』インタビュー
更新日:2023/2/10
俳優・綾野剛さんは2022年1月に40歳を迎えた。先日発表された『Portrait』は、綾野さんの30代最後の姿を作品として残すべく、8ヵ月間かけて撮影された写真集だ。
撮影は、綾野さん自らの熱烈なオファーにより、日本最高峰の写真家・操上和美さんが務めた。
本作は、2021年5月から12月まで、月に一度、同じスタジオの同じポジションでポートレートのみを撮り続けるストイックな方法で撮影された。1万枚にも上った撮影カットから厳選された545枚が、全560ページという写真集としては異例の大ボリュームに収められている。写真は時系列順に並べられており、時間の経過やその時に演じている役による変化が感じられる一冊となった。
俳優と写真家。それぞれの世界で道を極めてきた二人の鬼気迫るセッションは、誌面からもヒリヒリと伝わってくる程だ。
本記事では、綾野剛さんと操上和美さんにインタビューを実施。撮影を行った8ヵ月間の裏側と、写真集『Portrait』に込めた想いに迫った。
(取材・文=金沢俊吾 撮影=干川修)
カメラマンがいなかったら、僕はこの世に存在しない
―この作品を操上さんに撮っていただくことになったきっかけを教えてください。
綾野剛:操上さんに初めて撮影していただいた時、「写真家・操上和美」にただただ惚れてしまったんです。そこからはひたすら片思いの日々でした。
その後、操上さんに食事に連れていっていただいた時に「一緒に何か作品を作れたらいいね」と仰ってくださって。「実現しませんか」とお願いしたのがスタートでした。
―操上さんのどんなところに魅力を感じたのですか?
綾野:とある雑誌の撮影のとき、操上さんは「感情表現ではない自分」を撮ってくださったんです。
お芝居は、あえて極端に言えば感情表現の駆け引きのようで。操上さんの写真には、感情を足しも引きもしていない、ただ存在している自分が映っていました。そしてなにより、操上さんの人間力や上品さ、そして愛情の深さにとても感銘を受けました。
―綾野さんは以前「素の自分を表現することに興味がない」と発言されていました。ただ存在している自分を作品にしようと考えたのは、何か心変わりがあったのでしょうか?
綾野:操上さんにしか見えていない自分を、操上さんは僕に教えてくださったんです。まだ知らない自分に操上さんを介して会いたい気持ちになりました。
映画やドラマを撮っている時も、今回のような作品を作るときも、ある種、写真家や撮影部がいなかったら僕はこの世に存在しませんから。
―操上さんは綾野さんのどういったところに魅力を感じていますか?
操上和美:綾野剛という人間そのものに魅力を感じました。その肉体やメンタルにチャーミングな魅力があったんです。
魅力を感じてしまったら、もう撮るしかないんですよ。それで、綾野さんにオファーいただいた時に、自然と「いいね、やりましょう」と返事をしました。
どれだけ撮影しても「もう撮るものがない」ことはない
―本作は月に1回、8ヵ月間の撮影が1冊に収められています。この形はどのように決まったのでしょうか?
綾野:操上さんと打ち合わせをスタートした時、ちょうど僕が39歳だったので「40歳になるまでに何か撮影できたらいいですね」という話をしました。
撮影スタートしたのが2021年5月だったので、誕生日の今年1月までに終わらせるには8ヵ月間だなと。シンプルにそういう事情です。
―8ヵ月も続けていくと、だんだん終わりたくなくなるんじゃないですか?
操上:それはもちろんあります。もっと撮りたいなと思いましたよ。
どれだけ撮影しても「もう撮り切った。これ以上撮るものはない」ってことはないんです。来月撮ったら、もっといいものが撮れるかもしれないじゃないですか。
でも、それはまた別のことにしないと永遠に完成しないですからね。
―結果として、写真総数545枚、全560ページの大ボリュームとなりました。
操上:叶うなら、もっと写真点数もページ数も増やしたかったです。ただそんなことしたら膨大な値段になってしまうので、売り物として現実的な落としどころがこのボリュームでした。
綾野:ボリュームにしても金額にしても「これ以上やったら、エゴに変わってしまう」というラインがありました。僕たちの想いが強いだけだと、受け取ってくださる方の気持ちが僕たちのそれを下回ってしまう可能性もあります。
受け取っていただいた時に完成するよう、操上さんとアートディレクターの葛西薫さんがそのバランスを取りつつ作品のクオリティも保った状態が、今回の560ページだったんです。
スタジオに入ると、無言でカメラの前に立つ
―撮影は全て、白金にある操上さんのスタジオで撮られたとのことでした。
操上:僕のスタジオで白バックを使って撮るという、最もシンプルな形にしました。綾野さんにはドラマなどの撮影の合間を縫って来ていただく形だったので、ロケよりも都心のスタジオの方が効率がよかったんです。
綾野:8ヵ月間、操上さんは照明、カメラ、壁紙を一度も変えませんでした。だからこそ、より経過が写真に表れたと思っています。
―撮影時はどのようにコミュニケーションをとられていたのですか?
操上:綾野さんは、スタジオ入ってきたらそのまま、マスクも外さず無言でカメラの前にぱっと立つんですよ。それで、まず全身を2、3枚撮って、それからハグして「じゃあ今日もやりましょうか」って改めてスタートです。
―スタジオに入って無言で立たれた時、綾野さんはどういった感覚だったのでしょうか?
綾野:「やったー、今日も操上さんに会えた」って(笑)。
―なるほど(笑)。撮影中は操上さんのディレクションはあったのでしょうか?
操上:撮影のために誘導するような言葉は、極力少なくしました。ディレクションすると、演技になっちゃうじゃないですか。「演技はしないでね」と最初から言っているから。演技じゃない、そこに存在する綾野さんを撮りたかったんです。
準備なし、ゼロの状態で臨んだ
―本作は8ヵ月の撮影カットが時系列順に並んでいます。毎月衣装も違いますが、月ごとのコンセプトはあったのでしょうか?
操上:いえ、コンセプトはまったくないです。全部、綾野さんが着てきたままの姿ですから。
綾野:5月の最初の撮影だけ北村道子さんが用意してくださったんですけど、それ以降は季節通りの私服でした。
―ということは、綾野さんがどういう姿で現れるか、お会いするまで分からないということですか。
操上:もちろんです。その姿を見て「あ、これが今日の綾野さんなんだ」と思いながら撮り始めました。でも、基本は顔だけを撮っていたので、何を着てこようがまったく関係ないです。
―撮影に際して、毎月どんな気持ちで臨まれていたのでしょうか?
綾野:毎回、ゼロの状態でした。
お芝居の場合は、しっかり準備をすることでその作品の魅力を引き出すこともできます。でもこの作品は、準備をしない、しようのなさで魅力に変わると判断しました。
操上:普段の撮影だともちろん、セットなど完璧に準備をします。
でも、今回の撮影に関しては「光を観察する」という、写真家としての毎朝のルーティンをするのみでした。
撮影って、基本的には観察と反射の繰り返しなんです。「反射」というのは、シャッターを押す瞬間のことですね。観察する、感じる、反射する。この3つが自分の中で回転してれば、その日の綾野さんのことが全部見れるんです。
―最大限にシンプルな撮影にすることで、その日の綾野さんをよりソリッドに捉えられたのですね。
操上:写真家は、撮影のタイミングで、自分の感覚を一番いい状態まで起動させることが大切なんです。今回で言えば、綾野さんが現れた瞬間にばしっとシャッターを切れるように自分をコントロールする。
「どんな姿でいつ来てもOK」という状態で綾野さんを迎えていました。
―1回の撮影はどれぐらいの時間をかけられたのですか?
操上:撮影時間は短いですよ。長くても2時間ぐらいじゃないですかね。
綾野:最初の5分ぐらいは、自然とカメラの前に立てるんですよ。段々と「表現しなきゃ」という感覚になってくるんです。
初期の頃、2時間のうち最初の5分で息切れしてしまって「こんなに表現に頼って生きていたのか」と落ち込んで帰ったのを覚えていますね。
操上:撮影がスタートすると、まずは「お、今日もいいね!」と思ってシャッターを切ります。そうすると、シャッター音によって綾野さんも刺激されて、シャッターを切るたびに、どんどん変化をしていく。肉体は動いていなくても、確実に変化していくんです。
カットセレクトは「今日の俺はこれが好き」で決める
―2時間の撮影を全8回。膨大なカット数になったと思いますが、作品にするにあたり、どのようにセレクトしていったのか教えてください。
操上:カット数自体は、収録した545枚の何十倍、1万枚近くもありました。もちろん、どれを選ぶかによって内容が変わってくるわけですが、セレクトって難しいんですよ。選び方の基準が毎日変わるんです。
だから「今日の俺はこれが好き」と選んでいかないと決まらないんですよね。
―セレクトする日の感覚を信じるのですね。
操上:そうですね。完成品を作らないと、永遠に終わらない作業になってしまうので。
例えば役者さんが演技をやった場合は、いいテイクっていうものがありますよね。でもこの撮影は演技をやってないんだよ。存在を撮ってるわけだから。いいテイクかどうかっていうのは、その日の自分のコンディションで選ぶしかないんです。
―良い悪いの判断は、どういった基準で行うのですか?
操上:それは「この絵が好き、この絵は好きじゃない」とか「この光が好き、この影が好き」っていうのと同じです。絵画や外の光、木の揺れ方を見るのと同じ。「これよりも、あっちがいいな」ってあるじゃないですか。
今回選ばなかったなかにも、いい写真がいっぱいあるかもしれない。でもそれは、もう一度やったらダメなんです。そのときの感覚で落としたんだから、そのまま落としておくんです。ギリギリまでセグメントした結果として残ったのが、この作品なんです。
綾野:僕は写真のセレクトには一切関わっていません。この作品は、僕を撮って、写真を見つめ続けた操上さんの時間の集積なんです。
愛おしい時間の報告書
―最後に、『Portrait』は綾野さんにとってどんな作品になりましたか?
綾野:操上さんと僕、そして関わったすべてのスタッフによって作り上げた、愛おしい集積の報告書。
結果として545点の作品になりましたが、8ヵ月総数1万枚が、この作品を受け取ってくださるみなさんに伝わっていただけたらと。
―操上さんはいかがでしょうか?長いキャリアの中でも、これだけ1人のポートレートを取り続けたことはないと思いますが。
操上:綾野剛という1人の男と、カメラを通して一緒に旅をできたことが最もうれしかったですね。作品は結果としてまとまっただけで、僕はこれを仕事だとは思っていないから。
綾野:仕事というよりは、生活という感覚でしょうか。
操上:もちろん、この2人旅をこうやってまとめていただけたことも、とてもうれしいです。世界広しといえども、1人の人間だけでこんな分厚い写真集ができたのは史上初なはずですからね。
(綾野剛さん)スタイリスト:申谷弘美 ヘアメイク:石邑麻由
衣装:Tシャツ¥14,300(RESURRECTION)、パンツ¥121,000(DUELLUM TEL:03-5447-2100)(全て税込み)
【オリジナル特典など】
通常特典 すべての購入者様に特製ポストカードをプレゼント(撮影風景動画 QR コード付き)。
ネット書店および全国書店にて絶賛予約受付中
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※通常特典のみです
限定特典 綾野剛モバイル(会員限定|https://ayano-go.jp/)よりご購入いただいた方/直筆サイン(綾野剛)をお付けいたします。
イベント オンライントークショー開催予定(綾野剛・操上和美出演)
※指定の書店サイトよりご購入いただいた方から、抽選で300名(予定)をご招待。詳細は後日お知らせいたします。
※特典は予告なく変更になる場合がございます。予めご了承くださいませ。