これぞ、東野圭吾のガリレオシリーズ入門! ジュニア版が登場

文芸・カルチャー

更新日:2022/10/17

ガリレオの事件簿
ガリレオの事件簿』(東野圭吾,うめさん/文藝春秋)

 累計1500万部突破の東野圭吾「ガリレオ」シリーズ。現在公開中の最新映画『沈黙のパレード』も観客動員数が111万人を突破するなど、何年たっても人気が色あせることのない同シリーズ。現在、ジュニア版も刊行されていることはご存じだろうか。その名も『ガリレオの事件簿』シリーズ(文藝春秋)。マンガ『東京トイボックス』などで知られる漫画家ユニット・うめさんの描いた表紙に目を惹かれる本作。タイトルは変わっているが、中身は複数の既刊から4つの短編をピックアップしたものなので、すでに読破済みの方はご注意を。ただ、短編のよりぬき方がとても秀逸なので「また読み直してみたいなあ」という大人の読者が手にする、ガリレオ入門シリーズとしても、うってつけだ。

 たとえば1巻『ポルターガイストの謎を解け』では、ガリレオこと天才物理学者の湯川学のもとに刑事・草薙俊平が謎をもちこむ「騒霊(さわ)ぐ」が第一話。続く二話は、草薙の後輩であり、ドラマ・映画では草薙以上に湯川とタッグを組む内海薫との出会いを描いた「落下(おち)る」が収録され、ドラマをきっかけに同シリーズを知った読者には、とても親しみやすい構成になっている。

 湯川が事件を解決する際に披露される科学の知識・実験は、ほとんどの子どもにとっては理解しづらいだろうが、そもそも大人だって専門的な話はちんぷんかんぷんであることが多い。むしろ、わからないことをわかろうとする好奇心は、子どものほうが強かったりする。子ども向けの体裁なのに、事件を通じて、意外と容赦ない大人の現実が浮かび上がってくる物語は、子どもたちの好奇心を満たし、自分の頭で考える力を養ってくれるだろう。その証拠に、「あの東野圭吾の小説がぼくにも読めて、楽しめるなんて!」「授業で習った現象を使った事件もあって面白かった」「女性の内海刑事が活躍して、かっこよかった!」という感想が小中学生から続々届いているという。

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 第2巻『幽体離脱の謎を追え』は、そんな子どもたちの声にこたえるように、事件の難易度やビターな展開がさらにアップしているように思える。母親が高齢女性が殺害された事件の容疑者となってしまった少女。母の無実を晴らそうとする少女は「水晶の振り子」が「真実を教えてくれる」と語るが…という不思議な短編【「指標(しめ)す」】。亡くなる直前にありえない場所に姿を見せた女性をめぐって浮かび上がる、複雑に愛憎のからんだ人間関係【「霊視(みえ)る」】。

 どちらも、なかなかに切なくてやりきれない後味を残す物語だが、第三話「爆(は)ぜる」に出てくる「いかなる理由があるにせよ、エントリーを忘れるような選手は試合に出るべきではない。また、そんな選手が勝てるはずもない。学問も、やはり戦いなんです。誰にも甘えてはいけない」(=だからどんな理由があっても期限は守らなくちゃいけない)というセリフのように、胸に刺さって刻まれ、今後の人生でふっとよみがえるような場面もきっと、あるはずだ。

 ジュニア版と体裁を変えることで、ガリレオシリーズの深みを、今一度確認できる作品にもなっている。

文=立花もも