人気ギャグ漫画家が描くうつ病のリアル。外出や仕事もままならず、やがては“希死念慮”に怯える日々に…
公開日:2022/10/20
2017年時点で127.6万人(平成30年版厚生労働白書)にも上るうつ病の患者数は、外出自粛が求められていたコロナ禍でさらに増えたといわれている。日常生活がままならなくなるうつ病は、本人だけではなく、家族の生活も一変させる可能性がある。
キャリア30年以上のベテラン漫画家・相原コージさんの新刊『うつ病になってマンガが描けなくなりました 発病編』(双葉社)は、相原さん自身の実体験をもとにした漫画だ。ギャグ漫画家ならではの視点で自身の経験をコミカルに描いた作品だが、いわゆる“普通”の日常を過ごしていた相原さんがうつ病を患い、やがては“死”にとらわれていく展開は、うつ病の怖さを赤裸々に伝える。
思い当たるきっかけ。横断歩道の青信号の意味すら迷うほど判断力も低下
本書は全12話で構成されている。第1話「喪失」の冒頭で、相原さんは「私はマンガが描けなくなってしまった」と切実な一言をつぶやく。
作業台で放心状態のまま宙を見つめる相原さんの姿は切なく、“もし自分も同じ状態に陥ったら…”と身につまされる。
思い当たるのは、第2話「前兆」で描かれる全治3ヶ月におよぶ右足の骨折だった。自宅療養を経て無事に完治した矢先、コロナ禍の「緊急事態宣言」が発令されてしまい、半年近くも家へこもる羽目に。次第に、相原さんは夜になっても眠れない日々が続くようになった。
病院へ通いはじめても、いっこうに症状は改善しない。第3話「落ちる」ではその詳細を描いているが、相原さんの体重は「64kg→56kg」と「8kg」も減少し、楽しんでいたはずの「映画やドラマ」が見られなくなった。さらに、仕事もままならなくなった日常では、明らかな判断力の低下も見られた。
横断歩道の青信号を見ても「ちゃんと人が歩く絵になってる 渡っていいんだよな」と迷うようになり、外出すらも「やっと」の状態に陥っていた。相原さんの体験は、うつ病が日常生活に“どれほどの支障をきたすのか”をありありと伝えている。
日々、頭には「自殺」する自分の姿が浮かぶ。決行した相原さんだが…
相原さんの頭には、次第に「自殺」のことばかりが巡るようになる。第4話「念慮」では、その葛藤が描かれている。
自殺に意識が向かないようにと、数字を書き続ける工夫もした。しかし、ビルから飛び降りる自分、首を吊る自分が頭によぎる生活から抜け出せない相原さんは、いつか自分が自殺したときのために「いろんなパスワードをメモったノート」を机の目立つところに置くなど、次第に、身辺整理までするようになった。
やがて、一緒に住む妻に迷惑をかけられないと思った相原さんは、ついに、自殺を決行することにした。第5話「トリガー」では、ドアノブにかけたロープで、首吊り自殺を試みる相原さんの姿が描かれているが、何度試しても意識がなくなる寸前に正気へ戻り、結局、死にきれなかった。
妻や息子に支えられながらもうつ病の症状から抜け出せない相原さんは、やがて、精神科病院の閉鎖病棟へ入院することになる。その後の顛末は、2023年発売予定の続編『うつ病になってマンガが描けなくなりました 入院編』で描かれる。
コミカルな作風だからこそ、うつ病というシリアスなテーマの現実がより浮き彫りになっているのは本書ならではの特徴だ。相原さんの体験談は、うつ病を経験した人だけではなく、日々悶々としている人など、多くの人の心に響くだろう。
文=カネコシュウヘイ