糸井重里が仕掛ける「前橋BOOK FES」で、自宅に眠った本に新たな出会いを。「読書をもっとのびのび楽しんでほしい」という想いを込めた“本のやり取り”とは?

文芸・カルチャー

公開日:2022/10/25

 自宅に長年眠っている、もう読まなくなった本。捨てたり売ったりすることに抵抗があって、なんとなく本棚を埋めてしまっている、という人も多いのではないだろうか。

 そんな本たちを、おもしろく読んでくれる誰かの手に届ける“本のやりとり”が「前橋BOOK FES 2022」にて行われる。

 2022年10月29日(土)・30日(日)の2日間、群馬県前橋市にて初開催される「前橋BOOK FES 2022」。参加費1,000円さえ支払えば、誰でも出展者、あるいは本を受け取る人として「本のやり取り」に参加することができる。

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 出展者として自分の本をブースに並べ、道行く人とその本についておしゃべりしてもいいし、本をもらう人として気ままに通りを歩き、フェスで出会った本を持って帰ってもいい。もちろん、あげる本をもってこなくても、数量制限なく好きなだけもらってもOKだ。

 当日、会場を訪れなくても本を事前に送れるようになっており、既にたくさんの本が続々と会場に届いているらしい。

 「本のやりとり」に参加しない人も、つじあやのさんのライブや、古舘伊知郎さん、みうらじゅんさん、夢眠ねむさんといった方々のトークイベントを楽しむことができる。

 また、前橋地域の祭典「前橋めぶくフェス」も3年ぶりに特別開催される。前橋市全体を巻き込み、当日は全国から参加者が集まることになりそうだ。

 本記事では、このフェスが生まれた経緯や楽しみ方について、前橋BOOK FESのエグゼクティブ・プロデューサーである糸井重里さんにお話を伺った。フェスを通した糸井さんの読書に対する想いをぜひ多くの人に知ってほしい。

前橋BOOK FES 2022
ロゴデザイン 秋山具義  イラスト ヨシタケシンスケ

「もらうだけじゃなくて、あげる側になりたい」

ー前橋BOOK FESにおける「本のやりとり」は、誰でも読まなくなった本を提供する立場になれることが大きな特徴です。

糸井:根っこにあるのは「家にあって邪魔な本があれば、欲しい人にあげて生き返らせよう」という気持ちです。

 本を自由にやり取りできる形にしたのは「もらうだけじゃなくて、あげる側になりたい」っていう気持ちを、ぼくが11年前の東日本大震災で知ったからだと思っています。

 震災直後、何か力になりたいと思って気仙沼に行ったんです。そこで地元の人から「してもらってばかりはイヤだから、ごちそうさせて欲しい」と言われて。あの想い出が、ぼくたちの活動に影響を与えてるような気がするんです。

ー本を「あげる」ことと「もらう」ことが対等なのですね。

糸井:そうですね。本のやり取りは参加費以外無料なので、本を提供すること自体にメリットはありません。でも参加者が本を提供することで、他の人が持ってきた本に手を伸ばしやすくなると思ったんです。もらいっぱなしにならないというか。

 手ぶらで来て好きな本を持って帰るだけでもいいんだけど「本を置いていく人」にもなったほうがより楽しめると思っています。

糸井重里さん

読書をもっとのびのびと

ー前橋BOOK FESのホームページには、目指す形として“ふだんあまり本を読まない人も、興味本位で「へーえ」とか言って持って帰る”と書かれています。気軽に参加してほしいという想いを感じました。

糸井:本って、本来もっとのびのびと楽しめるものだと思ってるんです。でも、どこか「読書はいいことだ。偉いことだ」っていうニュアンスがくっいてるような気がして。

 ダ・ヴィンチさんにこんなこと言って申し訳ないけども(笑)。

ーいえ(笑)。分かる気がします。

糸井:もちろん本好きの人の楽しみを否定する気はまったくありません。スポーツでも「あの選手の守備が好き」とか「構え方が好き」とか、好きな人同士でしか通じない話は大変なおもしろさですからね。

 でも、みんながそうである必要はないと思うんです。読書をするから偉い、なんてことはありませんから。

ー本を読まない人が行っても楽しめるのでしょうか?

糸井:楽しめると思いますよ。どういう人が集まるかまったくわかりませんけど、「タダなら高そうな本をくれ」みたいな人がいても愉快だなと思っています(笑)。

ーそんなことが起こっても良いんですか?

糸井:このフェス自体、主催者も参加者も愉快犯みたいなところがありますから。

 わざわざ本を持って地方都市に集まるってだけで、時間も労力もかかりますよね。それで「タダで本持っていていいよ」って、えらいことだと思うんです。そんなフェスが実現してしまうこと自体が、もう愉快なんですよ。

本との楽しい出会いのために

ー当日はたくさんの本が前橋に並ぶと思います。膨大な数のなかから、どうやって好きな本を探せばいいのでしょうか?

糸井:会場には、ボランティアスタッフさんがたくさんいます。例えば図書館の司書、学校の先生、マニアックな本好きたちもスタッフいるので、ぜひ話しかけてみて「おもしろい本ありませんか?」と聞いてみてください。そこからきっと楽しい出会いがあるはずです。

ーホームページを拝見しましたが、本のやり取りに参加しなくてもフェスを楽しめそうです。

糸井:アート展示や音楽ライブ、フードエリアもありますから、本に興味がなくても楽しめます。だから、ぜひ軽はずみな気持ちで来てほしいですね。

ー前橋全体を巻き込むような、大規模なフェスになりそうですね。

糸井:初めてのことだから上手くいかないこともあるかもしれません。でも未完成のなかから、来た人が何か見つけてくれたらうれしいです。

 少し話が逸れますが、前橋市は2年前から「めぶく。」というビジョンを掲げているんです。このキャッチフレーズはぼくが付けたのですが、今回のブックフェスもまさに芽吹いてくれるといいなと思っていて。

ー芽吹く。

糸井:芽吹くって、まだ土からちょっと顔を出しただけなので、気付かずに踏んじゃうぐらい脆い状態なんです。だけど見る人がみれば「この芽がいつか実をつけるぞ」とか「大きな木に成長するな」って想像できるはず。

 ブックフェスでも、ぜひそんな芽を見つけてほしいんです。いまは小さくても、きっと少しずつ大きくなっていくと思うので。

ーまだ始まったばかりのプロジェクトで、これから大きく展開していくからそれを楽しみにしていてね、という感じでしょうか。

糸井:そうですね。前橋で芽吹いたこのフェスに来た人が「ちょっとウチも真似してみようかな」とか、そんなふうに違う場所で種を植えてくれたらいいなと思っています。

前橋BOOK FES 2022

「前橋BOOK FES」
「本で元気になろう」を合言葉に、前橋市のまちなかで、
本と人、人と人、人とまちが出会う、新しい形の「本のフェス」

https://www.maebashibookfes.jp/(公式サイト)
https://www.1101.com/n/s/mbf2022/index.html(ほぼ日特設サイト)

■日時:2022年10月29日(土)、30日(日)10:00~17:00
■場所:前橋市のまちなかエリア
( 前橋中央通り商店街 、前橋弁天通商店街、前橋プラザ元気21など)

●「本のやり取り」
自分の家の本棚で眠っている本、誰かに読んでほしい本を持ち寄り、
本を真ん中におしゃべりを楽しんだり、自由に本を渡したりもらったりできます
*参加にはパスポート1000円をお支払いいただきます

●「本、ことばをテーマにしたトークイベント、ワークショップ」
当日は中央通り(前橋中央通り商店街)で行われる「本のやり取り」とあわせて、前橋プラザ元気21ホールでは「本のイベント」を実施。
エグゼクティブ・プロデューサーを務める糸井重里がゲストを迎えるスペシャルトークには、古舘伊知郎さん、スペシャルサポーターのみうらじゅんさん、夢眠ねむさんなどが出演。
また、親子でたのしめるワークショップや、著名人の蔵書を展示するコーナーも。

●中央広場ステージでは音楽ライブも実施、
スペシャルサポーターのつじあやのさんも出演します。