大久保佳代子さんが40代から現在までを綴るエッセイが、“妙齢女子”にぶっ刺さる! 『まるごとバナナが、食べきれない』インタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2022/10/31

大久保佳代子さん

 お笑いバラエティ番組はもちろん、最近ではTikTokでの投稿動画などにも活動の場を広げ、人気を集めている大久保佳代子さん。この秋、そんな大久保さんのエッセイ集が刊行された。『まるごとバナナが、食べきれない』(集英社)だ。

 本作は、ファッション雑誌『Marisol』で妙齢女性の大共感を呼んだ連載を、大幅に加筆・改稿して単行本化したものである。大久保家伝統の祝い飯・ハムスターサイズのおいなりさんのこと、酒の力を借りてぐいぐいアピールしていた若かりし日の恋、OLと兼業だった彼女を育ててくれたという『めちゃイケ』の思い出飯……などなど、40代から50代へと移ろいゆく“妙齢女子”・大久保さんの心によぎる食卓の風景を、飾らずユーモラスな文章で綴っている。「食」をテーマに半世紀を振り返る本作を通して、大久保さんが感じた40代女子の変化とは? お話をうかがった。

(取材・文=三田ゆき 撮影=島本絵梨佳)

advertisement

1日3食、50年間食べてきた「食」にまつわる思い出を語る

大久保佳代子さん

──『まるごとバナナが、食べきれない』というタイトルから、すでに大共感です。

大久保佳代子(以下、大久保) 編集さんやライターさんが決めてくれたタイトルですが、リアルにまるごとバナナが食べきれないこの年代のことと、ちょっとシモっぽい感じがするところ(笑)、両方の意味があって、すごくいいタイトルになったなと思います。

『Marisol』での連載は、2カ月に一度、私とアラフォーの編集さん、ライターさんで集まって、美味しい料理とお酒を楽しみながら取材をして、まとめていただきました。「今日はこのテーマでしゃべりましょうか」と言われて、パッと「そういうテーマなら、こういうものを食べていたな」と料理名が出てくるときと、そうでないときとありましたが、これまでに1日3食、50年間食べてきていますからね。食の話には、なにかと思い出がつきまとっているなと感じました。

──大久保さんが42歳から50歳になるまで8年間の連載をまとめた本作ですが、どのような部分を加筆・改稿されているのでしょう?

大久保 8年のあいだには、やっぱり時代が変わっていますからね。今読むとキツすぎると感じられる言葉は書き直しています。それから、テーマによっては、今の気持ちや状態をライターさんにお話しして、書き下ろしを入れました。月に一度の雑誌連載が1冊にまとまることで、42歳から50歳のあいだの揺れ動きも見えるのではないでしょうか。その一貫性のなさも含めて、楽しんでいただけるといいなと思います。

──「私にとって40代は人生の分岐点でもあった」とも書かれていますね。

大久保佳代子さん

大久保 そうですね。出産のタイムリミットが40代半ばから50代にかけてのタイミングですし、体力が落ちるとともに、恋愛観も変わってきました。性欲がなくなったのが、47歳くらいのころですかね……自分で読み返して、「8年前ってこんなに元気だったのか」って驚いています(笑)。仕事に対してももっとガツガツしていたので、「『性欲が強い私』というイメージを出さなくちゃいけない」という責任感もあったと思うんですよ。それが50代に近づいてきて、いろんな意味で「無理しなくていいんじゃないか」と思えるようになってきましたね。

──私もアラフォーで、友人の結婚や出産、育児にともない関係が変わってきたなと感じていますが……きれいになっていく女友達を見て、「もっと太れ」と高カロリー食をすすめるエピソードには、「たしかにこの気持ちあるわ~」とうなずいてしまいました(笑)。

大久保 あそこまでひどい考え方をするのは、私ならではだと思いますけどね(笑)。数パーセントでも共感してくれるといいなと思っていたので、よかったです。あれってどういうことなんでしょうね、いくら仲がよくても、先を越されたくないっていう気持ちなのかなあ……いまだに同い年くらいの友達がいい恋愛をしそうだって聞くと、もやもやするところがあります。

 とはいえ、友達は大事にしないといけないなとも思いますね。この先、一緒に生きるパートナーができればいいのですが、できない可能性もあるわけで、そんなときに絶対頼りになるでしょうし。地元には、自分もこの先の人生でするだろう体験、たとえば親が亡くなるという出来事を、私より先に経験している同級生がけっこういます。いざ自分の番になったときに頼れるだろうな、必要な存在だなという感覚が、年々強くなっていますね。

 酒が同じくらい飲める友達も大切だし、誰ひとり肝臓を壊さずに、離脱することがないようにしていただきたいです。みんなでおたがいを見張りつつね、「飲み過ぎだよ」とか言って。

しんどいとき、この本を読んでくすっと笑って、その1日をやりすごしてほしい

大久保佳代子さん

──愛犬を溺愛したり、好きな人に尽くしすぎてしまったり……メディアで見る大久保さんとは違う一面も見られます。

大久保 このエッセイって、ぜんぜんキラキラしてないじゃないですか。私もエッセイは好きですが、「人としてダメだな」と思う人のエッセイだったり、ダメダメな日々を描いていたりするものが好きなんですよ。ドキュメンタリーなんかでも、そういう人の日常を見るのがすごく好きで。そんなふうに狙って書いているわけではありませんが、そういう意味では、私の日常なんて思いっきり見下していただいてかまいませんし(笑)、「結局人ってそうだよな」みたいに思っていただけたらうれしいですね。テレビでも会社でも、いろんな人がキラキラがんばって楽しそうにやっていますが、日常って、冷蔵庫にあるくず野菜を片っ端から鍋に入れて煮込んだ、残飯みたいな見た目の手料理を食べて生きているっていう、その積み重ねだと思いますよ。

 今、“いい人”がもてはやされたり、「“いい人”じゃなきゃダメ」みたいな空気感がすごく強かったりするじゃないですか。でも人間って、そんなにいい人ばかりじゃない。私は、考えていることと言っていることが違うとか、人間の黒い部分をすごくおもしろいと思っちゃう人なので、エッセイでもそんなところが滲み出ているんじゃないかなと。そういう点でも、この本を読んで安心してもらえるといいですね。まあ、いくら悪い人が好きだと言っても、自分に対して黒いものを見せられるといやですけど(笑)。

──陰のある男が好きだったけれど、心配する必要のない「しっかり食べて健康な男」のほうがよくなったという話も、共感しかないです。この年になって、「他人に心配をかけるって迷惑なことなんだな」と思うようになりまして……。

大久保 心配をかけたり、惑わせたり、つまり他人に甘えるようなことはしちゃいけないんだなと思いますよね……。ところが人間、ひとりでは生きていけませんから、甘えなすぎてもいけないところが難しい。最近は、女友達を中心に、ほどよく甘えてもいいんじゃないかと思うようにもなりました。

 私も20~30代前半くらいのころは、恋人に犬のように腹を見せまくり、「なんでこんなに弱みを見せてるのになんにもしてくれないの!」ってキレていましたが……そういう時期を超えて、もともとそんなに甘えるタイプじゃないところが前面に出てきちゃったんでしょう。30代の後半は「まわりにカッコ悪いと思われたくないからがんばらなきゃ」と甘えられなくなっていたのですが、40代になると、体力、気力が落ちてしまって、「どう思われてもいいや」「甘えないとしんどいんじゃないか」と思うことが多くなってきた。「甘える」と言っちゃうと語弊があるかな、「本当につらいときに話を聞いてもらう」っていうくらいの意味でね。それまではひとりで対応していたことでも、ちょっと楽になりたいときは、「ごめん、話聞いてもらっていい?」と連絡してもいいんだと思えるようになりました。

大久保佳代子さん

──ひとりで本を開くことが好きな人には、甘え下手な人も多い気がします。

大久保 そういう人にも、「あんまりいいことないな、しんどいな」っていうときにこのエッセイを読んでもらって、くすっと笑ったり、「大久保さんもこんな感じなんだ」と思ったりして、その1日をやりすごせるような状況にしてもらえたらうれしいですね。

 私もこの年齢になって、結婚や出産をしておけばよかったという気持ちがないと言えば嘘になりますが、それって結局、ないものねだりなんですよ。40代でやってきたことに無駄なことはなかったし、今、こうして仕事をして、帰ったら楽しい晩酌が待っていると思えば、これはこれでひとつの選択肢として悪くないと思います。「いい」とは言いませんけど、「悪くない」。ずっとそんな感じで、「悪くなかった」って言いながら死んでいけたら一番いいですもんね。

 私の年齢だと、諦めるなら「おばさんだから」で通用するし、「おばさんだから」ってちょっと自虐的に言っても、まわりには受け入れてもらえると思うんですよ。でも、そういう状態にだけはなりたくない。足掻けるうちはちゃんと足掻いて、今の30代、40代の人が思っていることも、なんなら20代の人が感じていることも、ある程度は共有しておきたいです。

──食卓から振り返る大久保さんの40代とこれから、興味深くうかがいました。最後の質問ですが、今夜はなにを召し上がりますか?

大久保 言いたくないなあ……(笑)。実はさっき、いとうあさこさんから「ごはんしましょ」って連絡があって。あまりにも代わり映えしないから断ってやろうかなと思ったんですけど(笑)、ひさしく会っていないので、結局我が家でUber Eatsを取ることになっています。でもね、「なに食べたい?」って聞くと、「毎回でアレなんですけど、イタリアンか中華、どうっすかね」って。毎っ回、同じなんですよ! しかも、ひさしく会ってないって言っても、2週間くらいですからね(笑)。まあ一応、「おたがい変わらないね」って、生存確認しようと思います。

スタイリスト=野田奈菜子