SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第16回「昨日見た夢の話なんだけどさ」

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公開日:2022/10/27

「ねエ渋谷」

「ん?」

「聞いて聞いて」

「どした」

「昨日見た夢の話なんだけどさ」

「うん」

「なんか、友達の家で遊んでて急にその家のお母さんが怒ってくるのね。で、そのお母さんちょっとずつ顔が変わってきて私の叔父さんと同じ顔になってくるの。私それに気付いて笑っちゃうんだけど、あ、待って、これちなみに設定が小学生の時ね、私その時一番好きだった服着てたから覚えてて、赤いワンピースで肩のところに青い線がピーって入ってるの。私いつもその服着てたんだよね。で、なんだっけ、そうだ、ゆりちゃんのお母さんが、あ、友達ゆりちゃんっていうんだけど、そのお母さんの顔が、あはは、私の叔父さんなの。っていうか、顔っていうより全部叔父さん。で、なんでか叔父さん手にプラモデル持ってるの。意味わかんなくない? で怒ってたと思ったら急に誕生日の歌歌い出して、そのプラモデルをゆりちゃんにあげるの。そしたら私も何かあげなくちゃいけないことになって、で、多分そもそもその日ってゆりちゃんの誕生日じゃないから、私何も持ってなかったと思うんだけど、でもそれでゆりちゃん泣いちゃうのね。で、急遽私新幹線に乗せられて恵比寿に行かされるんだけど、ねエ、ウケない? なんで新幹線で恵比寿なの、逆に時間掛かりそう、まじ。で、席に座ったら、隣の席が滑り台みたくなってて、(中略)、で、でね、結局そのプラモデルがさ、実はそのウサギのだったの。例の木のところで休んでたウサギ。って、わかった瞬間に目が覚めたの。やばいよね。あ、チャイムだ」

「え?」

「じゃアね」

「は?」

 

 なのだ。二、三周周って、どうすることも出来なかった自分が悪かったのかもしれない、とすら思えてくるのだから物凄く強力だ。

 彼女の話が極端に下手だったのかもしれない。しかしこればかりは話題が良くないということに他ならないと思うのだ。どんな優秀なコックさんであっても、食材が傷んでいたら美味しい料理を作ることは適わないのだから、コックさんでもない料理未経験の人間が傷んだ食材を素手でちぎって渡してきた今回のような場合は、暴力の一種と言っても過言ではないだろう。

 あの時間はなんの時間だったんだ、とその晩眠りにつくまで引き摺った気持ちは、次の日が来てもなくなることはなかった。

 夢の話が始まったときに大いに警戒するようになったのと同時に、相手に話をするときは、受け取った側の気持ちも想像して話題を選ぶことに気をつけなきゃいけないなア、と私は思うようになった。

 

 ただ、一言だけ。魔法のような言葉が存在する。

 夢の話をしようとしている片鱗が見えただけで、急用を思い出してその場から逃げようとする『夢の話マジやばくね思想』の私であっても、食い下がってでも内容を聴きたくなる魔法の言葉。

「昨日、夢に渋谷くん出てきたよ」

 だ。

 これ言われた時だけ、滅茶苦茶気になる。「え、何してた、俺何してた」と食い気味に続きをせがんでしまう。それが例え夢の話であっても、人様の目に自分がどんなふうに映っているのかはやはり気になるのだ。

 結局、私は自分が好きなんだろう。いや、違う。みんな自分が好きなのだ、結局。

 どんな瑣末なことでも自分が一枚噛んだ途端に、誰しもが前のめりにならずにはいられない。自分を軸にそれぞれが回す地球に人の数だけ点在する己ワールド。そりゃ世界は狭いよ、そりゃ世界は同じさ、そりゃ世界は丸いって。でもただ一つではないんだろう。

 違う違う、そんなことが言いたくて書いたんじゃないはずだ。多分だけど全部木のところで休んでたウサギのせいだ。

 え?は?

<第17回に続く>

しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催。現在「都会のラクダ TOUR 2024 〜 セイハッ!ツーツーウラウラ 〜」を開催中。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中