読むと、家族のために料理を作りたくなる。福岡の人気スパイス専門店主宰・吉山武子さんのエッセイ『80歳のスパイス屋さんが伝えたい人生で大切なこと』

暮らし

公開日:2022/12/1

80歳のスパイス屋さんが伝えたい人生で大切なこと
80歳のスパイス屋さんが伝えたい人生で大切なこと』(吉山武子/KADOKAWA)

 今のように「スパイスカレー」がブームになるずっと前、「スパイス」という言葉も一般的ではなかった時代、スパイスと運命的な出会いをして、スパイスの虜になってしまった女性がいる。

80歳のスパイス屋さんが伝えたい人生で大切なこと』(KADOKAWA)は、40年間「スパイス料理研究家」として活動を続けてきた吉山武子さんの自伝的エッセイであり、スパイスについての知識が深められる本でもあり、スパイス料理のレシピも楽しめる1冊だ。

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吉山さんがブレンドした香り豊かなオリジナルスパイスには定評がある
吉山さんがブレンドした香り豊かなオリジナルスパイスには定評がある

 福岡県久留米市で自営業の夫の手伝いをしている、ただの料理好きな主婦だった吉山さんは、40年前にスパイスカレーと運命の出会いをした。その香りの豊かさとおいしさに、「衝撃を受けた」という。

「こんなカレーは食べたことがない。ぜひみんなにも食べてもらいたい!」。それからは、「スパイスを世に広めること」を自分の使命に掲げ、料理研究家となり、スパイスブレンダーとして、スパイスひと筋に人生を駆け抜けてきた。

 そのスパイスへの愛と、「家庭料理は、家族への愛」という強い信念に、胸を打たれる。

 スパイスに魅せられた吉山さんは、スパイスについて研究し、自分の「オリジナルスパイス」を開発。あちこちで「移動料理教室」を開くようになる。

 しかし最初のうちは、スパイスというと「辛い」「刺激がある」「薬のようなもの」というイメージがあって、なかなか理解してもらえなかった。また一般的な欧風カレーのようにとろみのあるカレーではなくサラサラしているので、「こんなのカレーじゃない」と言われたことも。

 なんとかスパイスの素晴らしさを知ってもらおうと頑張る吉山さんの奮闘ぶりに、ワクワクさせられる。

 そんな吉山さんが、生まれ育った久留米に、オリジナルスパイスを扱う専門店「TAKECO1982」を開店したのは、なんと73歳のとき。

 80歳の現在でも夫の介護の合間に店に立ち、お客さんたちと元気に久留米弁でコミュニケーションをとっているという。

「TAKECO1982」の前で。左が著者。右は社長である姪のみどりさん。
「TAKECO1982」の前で。左が著者。右は社長である姪のみどりさん。

 本の最初から最後まで一貫して伝わってくるのは、「料理することは愛すること」という吉山さんの信念。

「家族の食事を作るという仕事に、もっと誇りを持ってほしい」「夫や妻の愚痴を言う時間があったら、たまねぎでも炒めて」といった彼女ならではの人生哲学にも、ときどきハッとさせられた。

 読み終えると、なぜか温かい気持ちになる。そして猛烈にスパイスたっぷりのカレーを食べたくなる! いつか武子さんを訪ねて、この素敵なスパイス屋さんに行ってみたいと思った。

取材・文=臼井美伸

【著者プロフィール】
吉山武子
1942年生まれ。スパイスブレンダー、スパイス料理研究家。福岡県久留米市にあるスパイス専門店「TAKECO1982」主宰。40年間、スパイスを通じて料理をつくる愉しみ、食べるよろこびを草の根運動的に伝えてきた。「辛いだけのスパイス」ではなく、「香り豊かなスパイス」使いで、子どもでも食べられる家庭料理のレシピに定評がある。