井ノ原快彦主演でドラマ放送中! 女性受刑者が刑務所から脱走!? 交代で見張りを続けた住民同士の関係にも変化が! サスペンスありの群像劇

文芸・カルチャー

公開日:2022/10/27

つまらない住宅地のすべての家
つまらない住宅地のすべての家』(津村記久子/双葉社)

 昔のドラマや映画の中には「ご近所さん」がそれぞれの家庭の事情を察し合って、支え合って暮らす風景が出てくるが、特に都内では、いまどきはお隣さんとも挨拶くらいのお付き合いしかないことも多いもの。一体、近所に住んでいるのはどんな人なんだろう? すぐ近くにいるのに顔しか知らない隣人の存在って、考えてみるとちょっとミステリアスかもしれない。現在放送中のイノッチ(井ノ原快彦)主演のNHK夜ドラマ『つまらない住宅地のすべての家』(10月10日スタート、全24回)は、そんなご近所さんたちの抱える「秘密」の不穏さがじわじわしみてくるホーム・サスペンス・ドラマだ。

 原作は津村記久子さんの同名小説『つまらない住宅地のすべての家』(双葉社)。津村さんといえば、2009年に『ポトスライムの舟』で芥川賞を受賞し、以来、数々の文学賞の常連となっている人気作家だ。本作は『小説推理』(双葉社)で連載されたのち、2021年3月に単行本化され、今回のドラマ化にあたって再び注目をあびている。

 舞台は近隣にスーパーとコンビニが1軒ずつ、高齢者多めという、どこにでもありそうなとある町。路地を挟んで10軒の家が立ち並ぶ住宅地に、ある日、刑務所から女性受刑者が脱走したとのニュースが飛び込んでくる。そして、その逃亡犯が住宅地に来るかもしれないと思った自治会長は、町の安全を守るために住民総出で見張りをしようと提案する。思いつきにも近い提案だったが、路地の住民たちは流されるままに同意し、交替で見張りをすることに。果たして女性受刑者は現れるのか――。

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 物語のキーになるのはもちろん逃亡犯なのだが、実はご近所さんたちがそれぞれ抱える「秘密」の存在が、路地の気配にさらに不穏さをプラスする。自治会長は妻が出て行ったことを隠して息子と二人暮らしをしているし、育てにくい中学生の息子に悩む夫婦は彼を閉じ込めるための倉庫を準備している。幼い姉妹のいる家では母がネグレクトに近い状態で彼女たちを放置しているし、一人暮らしの青年が世間への逆恨みから、なんとその姉妹の妹の方を誘拐しようとたくらんでいる…ほかのご近所さんもちょっとワケありというかクセがあって、誰もがちょっとずつおかしい。そこに逃亡犯をめぐる緊迫感があいまって、なんだかひどく心がざわつくのだ。

 面白いのは、そのなんともいえない不穏さが、町内会長の思いつきのような「見張り当番制」によって少しずつ変化していくことだ。時間つぶしに他愛のない話をしたり、夜食を囲んだり、逃亡犯をめぐる変な興奮状態を共有したりする中で、それまでは挨拶くらいしかせずにぎこちない関係だったご近所さんも、少しずつ軽く和やかな感じに変わっていく。どこかちぐはぐだけど、なんとなくユーモラス。それは「お互いの顔」がちゃんと見えてくる安心感から生まれるものなのかもしれない。

 果たして逃亡犯の目的はなんなのか? というか逃亡犯はどうなるのか?――平和な住宅地の平凡(!?)な人たちが相手なだけに、そうしたサスペンス的な面白さまで不思議なじわじわ系なのも独特の味わいだろう。ご近所さんの群像劇としても楽しめるし、後味もなんともさわやか。あなたも「今度、ご近所さんにちょっと話しかけてみようかな?」なんて気分になるかもしれない。

文=荒井理恵