デビューから44年、世界的な漫画家となった今も漫画を愛しぬく高橋留美子の全貌とは あだち充のトリビュート・イラストレーションも収録

マンガ

公開日:2022/11/6

漫画家本vol.14 高橋留美子本
漫画家本vol.14 高橋留美子本』(高橋留美子/小学館)

「好きなことを仕事に」と聞くと夢のような話だと思いがちだが、実際に「好き」を趣味ではなく仕事にすると、当然のことながら苦労が伴って、時にそれは幻滅に近い感情になる。たとえばライターの場合、掲載媒体の方針や読み手のことを考えた編集者によって内容を大幅に変えるように提案されることもあり、私自身、そういうことがあると趣味と仕事の違いを実感する。知人の中には好きなことを仕事にしたせいで「好き」が「嫌い」になってしまった人もいる。

 一方で好きなことによる幸福感が仕事の辛さを大きく上回り、それが読者にも伝わって今も日本を代表する漫画家として活躍し続ける人がいる。1978年にデビューして初の連載作が80年代に社会現象を巻き起こし、2022年、令和版として再びアニメ化された『うる星やつら』の作者・高橋留美子だ。

 高橋さんの勢いは『うる星やつら』にとどまらず、その後『らんま1/2』や『犬夜叉』など数々のヒット作を生み出してその多くがテレビアニメ化され、現在も「週刊少年サンデー」(小学館)でダークファンタジー漫画『MAO』を連載中だ。

advertisement

 彼女の作り上げる物語は「るーみっくわーるど」と呼ばれることもある。

 2019年、高橋留美子は国際漫画祭でグランプリを受賞して名実ともに世界的な影響力を持つ漫画家となった。2019年は新作『MAO』の連載が始まった年でもあり、満を持して『漫画家本vol.14 高橋留美子本』(高橋留美子/小学館)が刊行された。

 内容は4万字にわたるロングインタビュー、高橋さんと同じく「週刊少年サンデー」を席巻した漫画家・あだち充などによるトリビュート・イラストレーション、高橋さんの影響を受けた著名人の対談・エッセイ・評論、特集『MAO』のほか、単行本未収録の読み切り漫画まで掲載されている。

 本を開くと『うる星やつら』から始まる連載作のフルカラーのイラストにまず目を奪われるが、その次のページにある高橋さんの仕事場も必見である。高校時代から所持している本も並べられていて少しだけ「るーみっく」のことがわかったような気分になれる。

 そしてインタビューが始まる。デビュー前の漫画との関わり、各作品への思いや裏話、そして高橋留美子という漫画家の中に漫画がどのように存在しているのか……そのすべてが詰め込まれている。

 インタビューの中で高橋さんは述べる。

(前略)私は、あとで自分が読んでも楽しめる漫画を描きたいわけですよ。なぜなら、自分がおもしろいと思う漫画でないと、多くの読者の方に楽しんではもらえないと思いますから。

 漫画を描くために机に向かうのは今も楽しいと話し、続く高橋さんに憧れていた漫画家たちの対談の中では「高橋さんに趣味を聞いたとき『漫画以外、おもしろいものなんかあるのかな……』と返事をした」というエピソードも。

「好き」を仕事にして、1978年から半世紀近くものあいだ好きなことで読者を魅了し、後進の漫画家たちにも大きな影響を与えた高橋留美子という存在が浮かび上がってくる。

 もちろん誰でもできることではないが、私は同時に、高橋さんの言葉やエピソードに普遍性をも感じる。

「好き」とは異なる仕事をしてジレンマを抱えている人も「好き」を仕事にした人も、もう一度「◯◯が好き」という初心に立ち返ると見える景色が変わってくるのではないだろうか。

 そのときに抱く気持ちは正反対かもしれない。「好きではないことを仕事にしているから趣味を楽しめる」と思う人もいれば、「好きなことを仕事にできる幸せをあらためてかみしめたい」と思う人もいるだろう。

 心から楽しんで漫画を描いて、その作品が反響を呼びファンが増え、読者にプラスの影響を与える高橋さんの姿は、私たちが仕事をするうえでの支えにもなる。

 この記事では紹介しきれないが、著名人たちが高橋留美子やその作品を語る章やあだち充などのトリビュート・イラストレーションも非常に味わい深く、新たな目線で「るーみっく作品」を読むきっかけがつかめる。

 大きな意義を持つ本書を、るーみっくファンや、高橋さんの漫画をまだ読んだことがない人にも勧めたい。

文=若林理央