直木賞作家・今村翔吾の大人気シリーズ! 江戸の裏稼業「くらまし屋」の疾風怒濤の戦いが開幕

文芸・カルチャー

更新日:2022/11/15

風待ちの四傑 くらまし屋稼業
風待ちの四傑 くらまし屋稼業』(今村翔吾/角川春樹事務所)

 まるで四尺玉の花火が休むことなくあがり続けているような――。今村翔吾作品を追いかけ、読んでいると、そんな景色が浮かんでくる。山田風太郎賞受賞作『じんかん』、2022年1月に直木賞を受賞した『塞王の楯』、そこから1年も満たぬうちに刊行された『イクサガミ 天』『幸村を討て』『蹴れ、彦五郎』……。毎作、本を読むことの高揚感を教えてくれる作品の、最後のページを閉じるときの寂寥感といったら……。だがそんな読者のために、このあともずっと続いていく物語を、今村翔吾氏はちゃんと用意している。現在、シリーズとして書き続けられているのは、デビュー作『火喰鳥――羽州ぼろ鳶組』から現在11巻を重ねる「ぼろ鳶」シリーズ、そして2018年よりスタートし、このたび待望の8巻が上梓された「くらまし屋稼業」シリーズ(角川春樹事務所)だ。

「くらまし屋」とは、いかなる身分、いかなる事情であっても、銭さえ払えば、まるで神隠しにでもあったかのように必ず逃がしてくれると、江戸市中で噂される裏稼業。ただし、その依頼を受けてもらうには、条件として高額の報酬、そして「七箇条の掟」があり、これがひとつでも守られない場合は「この世からも晦(くら)まされる」という。

 やくざ者や浪人を相手にすることもある影の仕事だが、それを担う「くらまし屋」の面々は、はずむ会話も楽しい、気風のいい者たち。表稼業は飴細工屋で、失踪した妻子を探すため、この道に入った凄腕剣士の《堤平九郎》、はっとするほどの美形で元役者、どんな姿にもなれる変装の名人《赤也》、くらまし屋の拠点「波積屋」で働く20歳の女性《七瀬》は、口も達者だがそれ以上に頭が切れ、「くらまし屋」の軍師的な役割を担っている。

advertisement

 やくざ稼業から足抜けしたい者、故郷にいる重篤の母にひと目会いたいと奉公先を飛び出し、連れ戻されてしまった少女、「1日だけ、儂を晦まして欲しい」と依頼してきた老中……。第1巻『くらまし屋稼業』を皮切りに、“春夏秋冬”がタイトルに入る2巻から5巻、そして“花鳥……”という文字がタイトルに入る6巻『花唄の頃へ』と7巻『立つ鳥の舞』まで、くらまし屋は数々の難依頼を見事に、そして豪快にやり遂げてきた。

 最新刊『風待ちの四傑』では、“夜討ちの陣吾”と呼ばれる裏の世界で怖れられている男から、呉服問屋の大店「越後屋」に勤める比奈という女性を晦ましてほしいと依頼される。大店内の、ある秘密を図らずも知ってしまったことから、早くに親を亡くしながらも、ひとりまっとうに生き、懸命に仕事に励んできた女性の命が狙われようとしていた。今作では、くらまし屋はもちろん、敵方の裏の殺し屋たちに至るまで、己の仕事への矜持がクローズアップされ、心温まる人情の場面にもぴりっとしたものが加味される。

 そして何より余すことなく描き出されていくのが、壮絶かつ華麗な戦いのシーンだ。戦いの最中でも人の技を盗み、即座に体現する凄腕剣士、平九郎の戦いの場面は息つく間もなし! ストーリーは、暗黒街の凄腕たちと人智を超えた戦いをする「くらまし屋」たちと、極寒の「夢の国」に送られた謎の組織「虚」の一員である剣の遣い手、惣一郎の、ある者との戦いが、交互に出現していく。シリーズ既刊を読んでいる人なら、タイトルの“四傑”に、「平九郎と惣一郎、ひとりはきっとあの人、ではもうひとりは誰!?」と心躍ってしまうことだろう。

 シリーズ8作目を数えるが、この巻から読んでも存分に楽しめるところも読者の楽しみに寄り添う今村翔吾氏ならでは。だが、読んでいるうちに、夜討ちの陣吾、炙り屋、牢問役人・初谷男吏など、作中に登場する人々のこと、彼らのこれまでが知りたくなってくる。そして、前巻『立つ鳥の舞』で明らかになった赤也の過去、さらに平九郎がなぜこの仕事を始めたのか、ということもひもときたくなり、シリーズ全巻のページを開いてしまうこと必至だ。

 毎度、度肝を抜かされる“軍師”・七瀬の奇策に、今回も唸ってしまうノンストップエンターテインメント時代小説「くらまし屋」の世界へと、ぜひ飛び込んでほしい。

文=河村道子