無力感、自責感、対人恐怖、思考停止…心身に起こる「うつの症状5+5」とは?/家族が「うつ」になって、不安なときに読む本

暮らし

公開日:2022/11/13

 大切な人がふさぎ込んでしまった、苛々して攻撃的になった、まるで別人になってしまった…もし身近な人が「うつ」と診断されたら?

 下園壮太、前田理香著の『家族が「うつ」になって、不安なときに読む本』は、「うつ」と向き合うために知っておきたいポイントを、数多くのカウンセリングを行なってきた著者がわかりやすく解説しています。

 うつは「弱さではなく、単なる疲労」。どんな人でもかかりうる、心の疲労骨折のようなもの。正しく理解することで不安を取りのぞき、「うつ」になった大切な人に寄り添いながら、自分も大切にする方法がわかる1冊です。

 うつ状態になったときに体に起こる5つの変化と、心に起こる5つの変化を見ていきましょう。

※本作品は下園壮太、前田理香著の書籍『家族が「うつ」になって、不安なときに読む本』から一部抜粋・編集しました

※症状などは個人差があります。ご了承の上、お読みください。

家族が「うつ」になって、不安なときに読む本
『家族が「うつ」になって、不安なときに読む本』(下園壮太、前田理香/日本実業出版社)

これまでとは違うプログラムが発動する「別人モード」

理性的な自分でなくなる

 診察を受け、病名を聞き、インターネットでいろいろ調べてみても、一般の方は、なかなかうつ病の実態をイメージしにくいものです。

 そこで、私たちは、本人や周囲の方々が理解しやすいように、原始人の比喩を使った説明をするようにしています。

 先ほど、人間がストレス(不安や恐怖)を感じると、「生きるか死ぬか」の瀬戸際だと判断した脳が、驚きのプログラムを発動し、危機が去るとそのプログラムが終了する、とお伝えしました。

 では、通常の私たちは、どのようなプログラム(アプリ)で生活しているのでしょうか?

 現代を生きる私たちは、狩猟や採集、水くみなどの重労働をしなくても、生きていくことができます。猛獣や飢饉、暑さや寒さにおびえる必要もありません。

 ある程度先を見通すことができる社会のなかで、ルールを守りながら生活をしていれば、生命を脅かされることはほとんどないでしょう。

 そんな現代の生活のなかで必要なプログラムは、論理的に思考し、今やるべき課題に取り組み、客観的な事実やデータに基づいて将来をシミュレーションする「理性プログラム」です。

 この「理性プログラム」により、社会のなかでのメリット、デメリットを考え、総合的に利益につながるように判断しながら生きています。

 しかし、時として、この「理性プログラム」が停止してしまうことがあります。

 それが、「驚きのプログラム」をはじめとする「感情プログラム」が発動するとき。つまり、私たち人間が感情的になったときなのです。

 

うつ状態とは「感情プログラム」の一斉発動

 もともと「感情」は、人間に生命(安全、生存、生殖)を守る行動をさせるためのものです。

 例えば、恐怖は危険な場所や物から逃げるための感情。怒りは敵に対して威嚇したり反撃したりするための感情。そして恋愛は、パートナーを得て子孫を残すための感情です。

 そのなかで、命にかかわる状況に陥ると、危機対処のための「感情プログラム」が一斉発動し、「理性プログラム」を停止させ、生き残るための全力モードに切り替えるのです。

 もう一度、先の原始人、食料を求めて猛獣に遭遇したあの原始人を思い出してください。今、猛獣と出会ったところです。

 まず、「驚きのプログラム」が発動し、「逃げるか闘うか」の準備を整えました。その直後、戦うことになるのを想定して「怒りのプログラム」も発動します。

 握りこぶしには力が入り、顔を赤らめ歯をむき出しにし、威嚇のための大声をあげます。「自分は強い! 自分は勝てる!」という思考と共に、仲間が襲われていたら「仇をとってやる」という強い思いで頭がいっぱいになります。

 一方、逃げることになるかもしれないので、「恐怖のプログラム」も発動します。

 ある瞬間に猛獣の姿が実際よりも大きく、恐ろしく見え、「とても太刀打ちできない」と感じさせます。物音や気配に敏感になり、逃げる途中にも、後ろから追いかけてきているイメージが付きまといます。この恐怖心により、疲れ果てても逃げきることができるのです。

家族が「うつ」になって、不安なときに読む本

 ケガをしながらも、命からがらなんとか逃げおおせた原始人には「不安のプログラム」が発動します。

「血の匂いを辿って、猛獣が襲いに来るのではないか」と警戒心が大きくなり、襲撃に備えて、逃げる方法や身を守る方法をシミュレーションし続けます。

 また猛獣が活発に活動する夜は、眠ると危険なので眠れなくなります。

 猛獣を見ていない仲間が「猛獣を討伐に行こう」と誘っても、「無力感のプログラム」が発動している原始人は応じません。

 危険に近づかないことが一番安全なので、「自分は何もできない」「役に立たない」という思考になっているからです。

 一方で、失った仲間のことや自分のケガを思い、「自分がもっと何かできたんじゃないか」「自分に原因があったのではないか」「どうしたら防げたのか」と自分を責め、深刻に反省し続けます。これが「自責感のプログラム」です。

 そして、猛獣の脅威がなくなった後も、ケガが治り体力が回復するまで、安全に引きこもるために「悲しみのプログラム」が発動します。

 食欲や性欲、意欲や興味がなくなり、少し動いただけでも強い疲労感を感じます。外に出ず、じっと安全な洞穴に引きこもっていることが生き残る方法なのですが、それだけでは食料が手に入りません。そんな原始人が生き残るためには、仲間の助けが必要です。言語を持たない原始人は、涙を流したり、ため息をついたりすることで、周囲に救難信号を発したのです。

家族が「うつ」になって、不安なときに読む本

 原始人のケガは思った以上にひどく、なかなか治りません。「感情プログラム」による消耗で、疲れは増していきます。仲間は助けてくれますが「自分は生きていても仕方がないのではないか」と思い始めてしまいます。これが「絶望・覚悟のプログラム」です。自分が食べるより、子どもたちに食べさせたほうがいいんじゃないか、と生きていることを申し訳なく感じます。

 そんなとき、猛獣が目の前に現れたら……。原始人は自分の命を投げ打って、家族や仲間を助けようとしてしまうのです。

 大きな危機に直面して、これらの感情が一斉に発動した状態が、「うつ状態」だと思ってください。

 この例のような大きな危機に遭遇していない原始人でも、飢餓で弱ったり、大きなけがをしたり、仲間を失ったり、疲労困憊して動けない状態になったりしたときも、同じように感情が一斉に発動します。弱っている自分を守るための発動です。

 現代人の場合も、自分では気づかぬうちに「疲労困憊」→「感情の一斉発動」→「うつ状態」という流れが起こっているのです。

 

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