無力感、自責感、対人恐怖、思考停止…心身に起こる「うつの症状5+5」とは?/家族が「うつ」になって、不安なときに読む本

暮らし

公開日:2022/11/13

うつの症状5+5

 この感情プログラムの一斉発動(うつ状態)は、それぞれの感情プログラムの作用で、心身にいろんな変化をもたらします。

 次のような、体に起こる5つの変化と心に起こる5つの変化を「うつの症状5+5」と呼んでいます。

 

○体に起こる5つの変化

1.不眠(若い人の場合は過眠も)
寝つけない、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまう、悪夢を見る、お酒の量が増える、昼間眠くて仕方がないなど

2.食欲不振(若い人の場合は過食も)
食欲がわかない、食べてもおいしく感じない、やせる、食べ過ぎて太るなど

3.疲労感(負担感)
体が重い、だるい、疲れが抜けない、何をやるのもしんどい、我慢ができない、部屋が散らかる、やる気が出ない、洗濯や身だしなみを整えるのも億劫など

4.思考停止
仕事や勉強が進まない、頭がぼーっとする、考えがまとまらない、決められない、頭に霞がかかったようになる、ミスが増える、忘れ物が増えるなど

5.身体不調
肩こり、頭痛、歯痛、腰痛、腹痛、下痢、便秘、めまい、蕁麻疹などの身体症状など

家族が「うつ」になって、不安なときに読む本

○心に起こる5つの変化

1.無力感(自信の低下)
普段できていたことができない、自分がコントロールできない、自分は壊れてしまった、誰もわかってくれない、誰も助けてくれない、涙が止まらない、ため息、愚痴、むなしい、お金がない(と感じる)など

2.自責感(罪の意識)
周囲に迷惑をかけている、全部自分のせい、過剰に自分を責める、足手まといになっている、過剰な謝罪など

3.対人恐怖・怒り
人の目が怖い、人を避ける、すっぽかす、会話が減る、噂を気にする、悪口が増える、怒りっぽくなる、イライラするなど

4.不安・焦り・後悔
将来について過度に不安になる、否定的な予測ばかりしてしまう、些細なことが気になる、早くなんとかしなければと焦る、じっとしていられない、ソワソワする、落ち着いて休めない、後悔がとまらない、笑わなくなるなど

5.「死にたい」気持ち
居場所がない、生きる意味がわからない、消えたい、いなくなりたい、すべてを投げ出したい、失踪、自殺未遂、危険行為、自分のケア(治療など)をしなくなるなど

 

「症状」という意味

 症状というのは、どういうものかを説明しておきましょう。

 インフルエンザになると、熱が出たり、咳が出たり、関節が痛んだりします。これが症状です。その人本来の体力や体質に関係なく、インフルエンザという病気になると多くの人が同じ変化を見せるのです。そして、病気が治れば、またその人本来の姿に戻ります。

 では、精神疾患の症状とはどんなものでしょうか。

「感じ方、考え方、物の見方、受け取り方」が変わってしまうのが精神疾患の症状だと理解してください。

 うつの症状5+5で紹介したように、うつ病は、身体症状だけでなく精神症状もあるため、精神科の疾患と位置づけられているのです。

 身体的な症状なら理解しやすいのですが、精神的な症状は、本人の考え方、性格の問題と考えられやすいのです。その結果、精神的な症状を否定してしまうアドバイスが多くなりがちです。

 例えば、うつの症状で、自信が感じられない人に、「もっと自信を持ちなさい」と言いたくなります。

 しかしこれは、インフルエンザで熱がある人に「熱があると苦しいから、熱を下げなさい」というようなものです。

 正論かもしれませんが、できないことを言われると、本人としては、責められ、理解されず苦しいだけです。

 忘れてはいけないのは、「死にたい気持ち」も、うつの症状だということです。

 うつで死にたくなっている人に「どうして死にたいの? もっと命を大切にしなさい」というのは、インフルエンザで咳が出る人に「どうして咳を出すの? ほかの人に移すでしょ、咳をしたら症状が悪化するからやめなさい」というようなものです。

 本人もわかっていて、咳をすることが苦しくて、自分でもやめたい。

 でも、「できない」のです。

 周囲の人が「助けたい」という思いだけで強くアドバイスすると、本人を苦しめてしまいます。

 

別人モード

 この「うつの症状5+5」は、その人を安全に引きこもらせるための変化なのですが、その症状が強くなると、今までとはまるで違う人のように見えます。この状態を「別人モード」と呼んでいます。営業マンAさんの話を思い出してください。

 例えば、次のように、目の前の人が、今までとまったく別人のような態度や表情をしているのなら、うつの症状による「別人モード」になっているのかもしれません。

・やる気があり活動的だった人が、引き込もってばかりいる
・明るかった人が無口になり、笑顔を見せなくなる
・もともと仕事ができる人なのに、自信がないといって新しい仕事を引き受けたがらなくなる
・ミスなんてしたことのない人が、ミスを繰り返して、謝ってばかりいる
・社交的でムードメーカーだった人が、人を避けるようになる
・温厚だった人が妙にイライラして、突然大声を出す
・楽天的だった人が、不安ばかりを口にするようになる
・健康的だった人が疲れた様子で顔色が悪くなったり、痩せてきたりする
・快活だった人がぼーっとするようになり、約束をすっぽかしたりする

 これらの変化は、多くの場合、疲労困憊によるうつの症状のせいなので、疲労が回復し、うつの症状がなくなっていくと、以前の状態に戻っていきます。

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<第6回に続く>

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