『PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL』小野ハナ監督が語る、第1期と異なる新シリーズの魅力「モルカーのピュアさを通して、皆さんの“頑張り”がわかる」
公開日:2022/11/5
『PUI PUI モルカー』第1期監督であり、新シリーズ『PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL』(モルカーDS)では原案・スーパーバイザーを務めるモルカーの“生みの親”・見里朝希氏から、バトンを受け取った小野ハナ監督。第1期の制作スタッフとしても参加した小野監督が新作に注ぎ込んだ力、思い、そして聞いているこちらまで切なくなってしまうほどのモルカー愛を、制作エピソードとともに語ってくださった。
(構成・文=河村道子)
――新シリーズの監督のバトンを渡される際にはどんなお話があったのでしょう。
小野ハナさん(以下、小野) 見里さんからは1期に使用した編集データと、アイデアメモなどが送られてきました。ご自身が個人作家でもあることから、当然「自分でやりたい」という動機でスタートしているアイデアがほとんどでしたが、そこで伝えられたのは「小野さんの本心をむき出しにして楽しんでほしい」ということでした。
――「本心をむき出しにして楽しむ」ことが見里監督からの“バトン”だったのですね。
小野 それが核心だったのだと思います。それでももちろんモルカーの枠組みの中で、ということにはなりますが。それまでの私は自分の作家性や世界観を全面に出した、本心をむき出しにした仕事のチャンスがあまりなかったんです。見里さんはそういう生き方をしていない、エンタメと創造に全霊ぶち込んでいる人間だと知っていましたし、第1期を見て「本当に楽しそうに作っているなぁ」と感じていたので、ここに温度差が生まれると作品が死んでしまうなと感じました。けれどそこへの不安より、楽しみだという気持ちの方が勝っていましたね。たくさんの物語を書けること自体が幸せでしたし、モルカーの世界観に対し、素直にたくさんの好奇心を持っていましたから。
――そんな小野監督にとってモルカーの魅力とは?
小野 個人的な視点から見ると、コンパクトでとっつきやすいし、明るく楽しい雰囲気を持ちながら、性別を問わない表現が心地よく、難しい表現は一切ないのに、世界を広く想像させてくれる、それでいて不意に思いっきり笑わせてくれる、元気の源みたいなところですね。作り手として魅力に感じるのは、コマ撮りという映画創成期から続くアナログな技術の良さを全面に出しながらも場面ごとには固定観念にとらわれない挑戦的な方法がとられているところ。パペット自体も劣化が怖いから触れてはいけない宝物というより、大胆なメンテナンス(ある意味で手術)を繰り返しながら一緒に生きていくような存在で、頑張ってるな、可愛いなと感じます。キャラクター設定自体が「小動物」と「車」という、相反する象徴性を持ったものが組み合わさっているので、それだけでもいろんな展開や存在を取り込むことができ、本当にいろんな側面において挑戦と創造が生きる作品だなと感じます。
――新シリーズの制作に向かうなか、スーパーバイザー・見里さんとはセッションを重ねられたそうですね。
小野 話作りのためのイメージをぶつけ合うなか、創造的な対話を重ねることができたと感じています。私の方からはログライン(脚本・ストーリーを一言で表した要約文のこと)とプロットの間くらいのものをたくさん出して、見里さんに想像してもらう形で進めました。最初はシリーズ全体の流れ、その次に各話のネタ、その後に各カットの盛り上がりを箱書きで、という感じで詰めて。そこで「このネタはいつか自分でやりたいからまだ出したくない」とか「この舞台は教習所じゃないけど大アリ」というような反応をもらいつつ、「じゃあ、こっちのネタは?」とか「そういえばこんなニュースもありましたよね、それを取り入れるとか?」というやりとりをしました。
――新シリーズの舞台は「ドライビングスクール」。舞台を固定してお話を作っていこうと思われたのは?
小野 スーパーバイザーの見里さんからの希望によって最初に決まったというのが大きいですが、「いつもの場所」が生まれるということは、そこに色々な出来事やキャラクターを流し込むことができる点では魅力かと。見里さんからの決定が出る前には、私も教習所以外を舞台にした話をいくつか考えたりもしていましたが、その精査の前に見里さんの方から教習所のシリーズにしたいと申し出があった流れでしたね。あとは同じ美術セットを使いまわせるように場所を固定しようという作戦もあって、教習所に決まりました。それでも撮影前に教習所のセットを揃えることは難しかったので、教習所の不要な話も用意しました。
――「いつもの場所」を作ることで逆に、モルカーたちの世界がどんどん広がっていったのですね。
小野 そうですね、モルカーたちにはまだまだ行ったことのない場所があり、出会っていない人やモルカーがおり、また飛び込んだことのない時間というものがたくさんあるなと感じています。
――そして今シリーズでは、お馴染みのポテトやシロモたちの名前に“教習”が冠されています。教習所ではそれぞれのキャラクターたちの性格、気質のようなものも見えてくるのではないでしょうか。
小野 教習所でみんながどう過ごすのかは、場所とキャラクターの出会いによる偶然性みたいなものもあって、「いつものみんなだな」とも思っていただけると思いますし、「あぁ、頑張ってるな!」と思ってもらえるとも思います。私にとっては、ポテトたちは第1期から頑張っているモルカーであり、動き方やこの世界の楽しみ方を体現している先輩のような存在でもあります。
――そして今シリーズから登場してきた仲間たちも。教習を受ける新人モルカー・ペーター、ドライビングスクールで働くひー、ふー、みーに早くも注目が集まっていますね。
小野 新人のペーターはやんわりとした雰囲気で、引っ込みがちだったりもして、少し主人公らしくないかもしれません。それでも一人前のモルカーとして頑張る姿を描くためにペーターはぴったりだと思いました。ひー、ふー、みーは、それぞれの経緯で教習所にやってきていて、性格も違う。見た目は似ているかもしれませんが、中身はとっても個性的です。彼らのスピンオフが作れるのであればぜひ作りたいですね。あぁ、でもそれはもはや全てのモルカーに言えちゃうのですが……。
――第1期と異なる魅力はどこにあると思われますか?
小野 第1期は、我々現実世界の人間がモルカーという存在に初めて出会いにいくようなシリーズだったと思っています。モルカーの姿を見て、その魅力を知っていくような。今回は、モルカーという存在そのものには既に出会っているところからのスタート。時々ちょっと落ち着いて深い話もしているし、ちょっと勇気を出して新しい出来事に飛び込んでみたりもしている感じです。前作の反響を受けてスーパーバイザーの見里さんの方で新たに湧いてきた人間模様のイメージを取り入れたりもしているので、着眼点は少し変わっていると思いますね。
――人間模様、と言えば、モルカーたちがときに追い詰められる姿やピュアでぼーっとした彼らと対比して描かれる人間たちの下心などを通し、ちょっとブラックな要素、そして観ている自分のなかになぜかそれを感じてしまうのもこの作品の魅力です。
小野 純粋とか完全に明るいとか、絶対的なハッピー、極端に弱い存在って、そもそもちょっと怖いですよね。ただただ可愛く描こうとしても、その姿すら現実のこちら側から目を向けているから見えているわけだよなと思うので、そのピュアを取り巻くものや、その先にあるものについては連想してしまう。周囲との関わりの中で、「ただただピュアな存在」以外のものを見てしまうことは、つまりは現実世界に自分たちが暮らしている、ということだと思っています。砕いて言えば、「みんな毎日頑張ってるな」っていうことになるというか……。そうした視野の往来や世界観のリンクがうまくいくといいなと考えていました。世の中に生きている時間と共に存在してくれるといいなと。
――ストップモーションアニメ(コマ撮り)での撮影はいかがでしたか。制作のご苦労や裏話、その手法ならではの見どころをお聞かせください。
小野 やってみて思うのは、「シリーズものを作る」ということに日本のコマ撮り業界自体が慣れていなかったというのがあって、そこをどう乗り越えるかということがずっと大きな課題でした。全てのカットの隅から隅までを、まるでクリスマスのご馳走のように作り込むことには長けていても、毎日のお弁当を作ることには慣れていなかったというか。例えるなら、各コンビニの店長が、陳列棚の具合を、社長に直々に聞きに行っていたらいつまでも開店できない。業界の一般的な体制からは変える必要があったため、戸惑うスタッフもいたようでした。けど経験値の高い方が多く集まっていたので、積極的に工夫していただいたおかげで乗り越えられました。
あとストップモーションでは、当然ですがパペットが自分で軽快にジャンプしてくれることなんてないですし、太陽光もスタジオに置くことが可能な照明でそう見せなくてはなりません。そういう意味では、すべての動作や場の空気が見所です。あとはモルカーは1秒につき24フレームで動かしているんですが、重心移動も物理的に表現しているので、モルカーの声のタイミングや声音のニュアンスも、絶妙にリアルに沿わないとしっくり来ない。実際にモルモットさんに声優をやってもらっていることもあり、声音もリアルで多様です。ある意味生っぽい要素が多いというか、その上でコミカルな動きやファンタジーのような演出を取り入れるので、奥が深いと思いますね。
――実体としてのモルカーたちとの撮影の日々はいかがでしたか。
小野 モルカーは、発泡スチロールの芯に羊毛フェルトを刺し固めることでできているのですが、実は結構流動体なんです。中の発泡スチロールはフェルトを刺し固める際に何度も針に刺され、中で粉々になりますし、フェルト部分も毛が複雑に絡んで解けにくくなっているだけで固定されていない、つまり“固形物”ではないんです。動かす時も、針で毛の位置を動かして盛りあげたり、手でぎゅっと押しつぶしたりして表情を作っているので、同じ組織は二度と同じ位置に来ない。動的平衡とまではいきませんが、生身の感じがありますね。常に元気そうな表情で写ってくれているのですが、実はモルカーたちって繰り返しのメンテナンスを乗り越えているんです。そんなモルカーたちを見守っていただけたら嬉しいです。
――モルカーたちをまるで後押しするかのような作中の音楽も楽しみです。
小野 音楽も『モルカー』にとっては非常に重要な要素です。第1期と同様に全編フィルムスコアリングで、各話単位でなく、シーン・演技ごとに作曲してもらっていて、唯一無二の音楽がストーリーを彩っています。これは非常に豪華なことなんです。今回も素晴らしい音楽をつけていただきましたので、楽しんでいただけたらいいなと思います。
――日本はもとより世界中の人々が待ちに待っていた新シリーズについて、監督からメッセージを!
小野 この『モルカー』は、世界観やキャラクター設定として優れているだけでなく、日本のコマ撮り業界がシリーズ作品を安定して生産できるようになる進化のためのエネルギーを持っている作品だと考えています。今回は、『モルカー』の生みの親である見里さんを中心にしつつも、新しい生産体制を模索しながら、と言いつつめちゃくちゃ楽しんで作ることができた作品の一つになったと感じています。モルカーの世界の、また日本のコマ撮り業界においての、あるひとつの季節として楽しんでいただけたら幸いです。
『PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL』作品情報
■『PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL』 あらすじ
ある日、大騒動を起こしたポテトたちが連れてこられたのは…ドライビングスクール?!
まるでテーマパークのようなその場所で巻き起こる新しい出会い、ドライバーとの絆、試練…?
今度のモルカーはモルシティを飛び出して…? プイプイ!ワクワク!大暴走?!
■放送情報
毎週(土)あさ7時よりテレビ東京「イニミニマニモ」内にて放送中
■スタッフ情報
原案・スーパーバイザー: 見里朝希
監督: 小野ハナ(UchuPeople)
アニメーター: 小川翔大 高野 真 三宅敦子 垣内由加利
当真一茂 阿部靖子 小西茉莉花
美術: UchuPeople アトリエKOCKA パンタグラフ スタジオビンゴ
音楽: 小鷲翔太
音響: 小沼則義
声の出演(モルモット):つむぎ パイムータン
■『PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL』 ロングPV
https://youtu.be/wh1dfiE83Gs
■『PUI PUI モルカー』関連サイト・SNS
◎公式サイト:https://molcar-anime.com/
◎公式YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCkpdBZk3ulIbSTsAAzZH1dQ
◎公式Twitter:https://twitter.com/molcar_anime
◎公式Instagram:https://www.instagram.com/molcar_anime/
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