「1人でも生きていける」そう思った瞬間とは? 毒親から決別するまでを描いたコミックエッセイ 『毒親に育てられました3』著者・つつみさんインタビュー
公開日:2022/11/12
暴言、体罰、ネグレクト……。『毒親に育てられました』は、毒親である母に育てられた娘の地獄のような日々と、そこから抜け出すまでの実体験を赤裸々に描き、インスタグラムで話題となったコミックエッセイです。最終巻となる3巻が発売され、ここであらためて、著者のつつみさんに本作を最後まで描き切った気持ちと、読者へのメッセージを伺いました。
――今作で『毒親に育てられました』最終巻と伺いました。完結おめでとうございます! まず今のお気持ちをお伺いさせてください。
つつみ:ありがとうございます!『毒親に育てられました』1巻の書籍を発行してから約2年経ち、こうやって無事に最終巻を描き上げることができました。書籍を出すことができたのは、編集者様、デザイナー様、校正者様、対談や取材にご協力してくださった方々、本づくりに関わってくださった皆さま、そして何より、『毒親に育てられました』を読んでくださり応援してくださっている読者の皆さまがいたおかげです。自分の描いた漫画に、ここまで多くの方々が関わってくださっていること、皆さまとの出会いがすべて奇跡のように感じます。
『毒親に育てられました』という漫画は、自分の過去の体験談を描いたもので、過去の自分と向き合うために描き始めました。描き始めたころは過去を思い出すだけでも辛くて頻繁に泣いていました。
しかし、描き続けていくにつれて、自分の過去を客観視するようになり、どうしてこのとき私はこう思ったのだろう、どうして母はあんなことをしたのだろうと、考え続けました。そうしていくうちにいつしか、自分の過去がつらいものではなくなっていき、ありのままの自分自身を受け入れることができました。読者の皆さまからは本当にたくさんの応援のメッセージと感想をいただきました。すべての感想にいつも胸を熱くさせられ、感謝の気持ちで溢れています。
書籍を描き始めてからここまで、本当に多くのことを学び、気付かされ、読者の皆さまからはたくさんの愛情を分け与えていただきました。そんな皆さまへの感謝の想いも込めて最終巻を描き上げることができて、本当に幸せです!
――前の2巻で、主人公・つつみは「母よりも自分のほうが身体的に強い」と気づきます。ここでよい方向に行くかと思いきや、今作ではより精神的な攻撃がつつみを襲います。強制された「誓約書」、恋人や友人との付き合い方への介入など本当につらいエピソードばかりでしたが、高校時代を振り返ってみて、どのようなお気持ちですか。
つつみ:自分が高校生になって、母との取っ組み合いで自分が勝った時に「もうこれで母に支配されずに済む!」と当時の私は思っていました。でも、私と母との本当の問題は「身体的暴力」ではなく「心」の問題なんだと気付かされました。
目に見えてわかりやすい「暴力」は、なくなってしまえば問題が解決したように思えますが、母がこれまで私に植え付けてきた洗脳、侮辱、脅迫、過干渉、それらの「見えない心の支配」が私と母を硬い鎖で繋いでいて、私たち親子の関係が改善するどころか、悪化していく一方でした。きっと母も、私のことを「力」で支配することができないと分かったから、より一層「心」で支配しようとしたんじゃないかと思います。
実は当時の私も「ここまで精神的に追い詰められるくらいだったら、まだ殴られているだけの方がマシだった」と思ってしまうことがありました。もちろん暴力も本当に辛かったのですが、一瞬でもそう思ってしまうほど、心の支配というのは人間を狂わせる力があるんじゃないかと思います。そんな中で母と一緒に暮らしていた当時の私は、生きているだけでも本当に偉かったなと思います。
――短大で寮に入ることで、つつみと母の距離が離れ、心も身体もひとときの休息が取れるようになります。新しい友人にも恵まれ、つつみは改めて自分と母との関係を見直していくことに。短大時代の新たな出会いや、短大で学んだことなどが描かれており、読んでいて考えさせられました。この頃のことで心に残っている思い出など教えていただけますでしょうか。
つつみ:短大に入学し、寮で生活してアルバイトも始めてから、本当に一気に生活も価値観も人間関係も変わりました! 何か大きな転機があったわけではないのですが、生活してる中で起こる小さな出来事の全てが、私にとって温かく新鮮なものでした。
友人とお腹を抱えて笑ったとか、バイト先で仕事ぶりを認められたとか、好きなものを食べられるとか、母の存在を気にせず自分の好きな時に好きな場所にいられるとか、私のことを否定する人がいないとか、安心して朝目を覚ますことができるとか、静かな空間にいられることができるとか、自分が今一緒にいたいと思える人と一緒にいられるとか……そんな、当たり前のような出来事の全てが嬉しくて、胸がジワリと温まって、喉の奥がきゅーっと切なくなるような感覚がして、「ああ今私、幸せを実感しているんだ」と自覚して、また幸せな気持ちになれるような……そんな穏やかな日々を過ごしていました。
短大に入るまで、母からはひどい言葉ばかり浴びせられて育ったため、母から離れて暮らして他の人と接していくたびに「私のまわりの人たちってなんでこんなに優しいの!?」と驚きました。実際みんな優しい人ばかりでしたが、母と離れて暮らして初めて、母の異常さに気付けましたね。
――就職して金銭的に独り立ちを叶えても、なかなか母との関係を修復できないでいたつつみでしたが、とうとう「決別」を決心します。つつみにとって勇気を振り絞った結果の決断となるわけですが、決別後のお気持ちをお伺いしたいです。
つつみ:母との決別をついに決意したあの日の出来事は、今でも鮮明に覚えています。それまでにも、何度も考えたことがありました。しかし決断できなかったのは、母と離れたくなかったからではなく、まだ私に心の準備ができていなかったからだと思います。本気で離れたいと思っていても決別を決意できないのは、人によって理由は様々だと思います。
金銭的余裕がない、頼れる人がいない、親からは絶対に離れられないという洗脳、決別してもまた親と関わってしまうんじゃないかと弱い自分が残っている気がする気持ち、もしかしたら親とやり直せるかもという期待、親からの更なる支配……そんな私が決意できたのは、もう自分が「1人でも生きていける力を持っている」と自覚したからでした。私のことを心から愛してくれる人たちがたくさんいる、私の居場所はたくさんある、そう気付かせてくれたのは、これまでに出会ってきた大切な人たちでした。母がいなくても、私は私らしく1人で生きていけるんだと思えたことが、決別を決意できた大きな理由でした。
決別してすぐの頃は、「逆になんで今まで母からは離れられないと頑なに思い込んでいたんだろう?」と、囚われすぎていた過去の自分を疑問に思いました。こうやって『毒親に育てられました』という漫画を描き始めてから、囚われていた過去の自分を理解できたような気がして、過去の自分を受け止め、愛せるようになりました。
――個人的にP137の「いつか自分のことを丸ごと受け止めて救ってくれる人が現れると思っていたけど、そうではなく、今まで愛情を与えてくれる人にすでに出会っていて、その人たちからもらった愛情が自分の中に貯金されている…」というくだりが、つつみの強さが現れたシーンだと思いました。ご自身では、「毒親」から自分を取り戻すことができた要因はどこにあると思われますか? またご自身の強さはどんなところでしょうか。
つつみ:幼い頃からずーっと母に心を支配され、私はどうしようもない出来損ないだ、私なんかが変われるわけがない、変われる瞬間があるとしたら、私のことを丸ごと受け止めてくれる人が現れたときだけだろう、と思っていました。漫画や映画などに出てくる救世主のような存在が自分の目の前にも現れてくれるんじゃないかって、心のどこかでそうずっと期待していたんです。救世主とまでは言わないけど、なんか自分の人生の価値観がガラッと変わるような出会いだとか、そんなこと起こらないかなーと小さい頃からぼんやりと妄想していました。でも、救世主はいない、そう理解した時にハッと気付きました。もう既に私は、私のことを受け止めてくれる人たちに出会っていたのだと。何で気づかなかったんだろう?何で今までの出会いを無かったことにしていたんだろう?と思ったのと同時に、私はいろんな人たちにこんなに大切に想われていたんだとわかり、やっと本当の愛に触れたような気がしました。そして、人の愛に気付いたその時点で、私自身も変わっていることに気付きました。ずっと自分のことを変われない人間だと思っていたけれど、人の愛に気付くことができる人間に変わったんだと、初めて自分の人間としての成長を実感しました。
私が思う「強さ」とは、人の弱さや痛みを理解し物事を中立的に考えられる心を持ち、他人の優しさを当たり前と思わず誠意を持って受け止めることができる。自分を信じて前に進むことができる。それが本当の意味での「強さ」なんじゃないかと思います。
私もそんな強さを持った人間になれるように、今生きています。そして、そんな強い人間になりたいと思って生きている自分がとても好きです。
――最後に、『毒親に育てられました』のファンのみなさん、またこれから手に取られる新規読者のみなさんへ、メッセージをお願いいたします。
つつみ:いつも漫画を読んでくださっている読者の皆さま、本当にありがとうございます。漫画を描きながら筆もおりそうになったことも少なくありませんでしたが、読者の皆様からいただく「いつも読んでいます」「これからも応援しています」「漫画を読んで救われています」といったたくさんの感想が、私が漫画を描き続ける一番の原動力になっていました。読者の皆さまがいるおかげで、こうやって漫画を最後まで描き終えることができました。何度も言いますが、本当に本当にありがとうございます。
そして、これから漫画を読まれる新規読者の皆さま。人と人との出会いが一期一会であるように、本との出会いも一期一会だと思います。読者の皆さまにとって「いい本と出会えた」と思っていただけるように、魂と想いを込めて描き上げましたので、手に取っていただけると幸いです。そして、この本との出会いによって、毒親とは何か、親子とは何か、愛とは何か、生きることとは何か……そんな風に人生の数分間だけでも何かチラッと考えてくださると幸いです。
そして『毒親に育てられました3』では、書籍用に100ページ以上描き下ろしました! ブログやインスタでは読めない描き下ろしがこの最終巻では読めます。魂と体力を削って必死に描いたので……是非読んでください!!
読者の皆さまがいつまでも幸せに過ごせることを祈っています。