理不尽な職場で鬱屈を募らせるOLが小公女セーラに転生したら……? 『転生したら名作の中でしたシリーズ』の最新刊!
公開日:2022/11/16
平凡な日常が一転する転生系のコミックは、刺激的。主人公に自分を重ね合わせ、想像を巡らせたくもなる。そんな転生もの好きな方に、ぜひチェックしてほしいのが、「転生したら名作の中でしたシリーズ」(風町ふく/芳文社)。本シリーズは、誰もが知る名作をもとにした斬新な転生ものだ。
第1弾は児童文学作品『王子と乞食』を題材に、社畜の男性が顔のそっくりな王子と入れ替わるという、現代っぽさを加えたストーリーとなっていた。その第2弾が、フランシス・ホジソン・バーネットによる『小公女』をもとにした物語『小公女~転生したら名作の中でしたシリーズ~』(風町ふく/芳文社)。今作では、少しの生きづらさを抱え、「こんなことなら勝ち組のお姫様にでも生まれたかった」と願うOLが『小公女』の主役セーラに転生する。
理不尽な状況に屈するのが嫌いなOLが小公女セーラに転生!
主人公は、自称“いつもどこかで間違えてしまう”という、理不尽な状況に黙っていられないとある女性。そんな自分の性格もあり、仕事では我慢して耐える日々を送っていた。しかしある時、保身のために責任を後輩になすりつける上司に口答えし、目標だったプロジェクトから外され、キャリアアップが難しくなってしまった。
私っていつもこうだな――間違えてばっかりのくせに空気を読んでおとなしくするのがどうにも苦手
勝ち組のお姫様にでも生まれられたら良かったなあ――
そう自己否定をしていたところ、運悪く事故にあい、“運命の女神”によって『小公女』の主人公“セーラ”に転生させられてしまう。
セーラは、お金持ちの家のひとり娘。産まれた時に母親を亡くすも、父親によって大切に育てられ、何不自由のない生活を送っていた。
だが、セーラが進学を迎え、父親の事業の関係で親子は離れて暮らすことに。セーラはミス・ミンチン女子学院に特別寄宿生として迎え入れられる。だが、ミンチン院長はセーラの恵まれた育ちをよく思わず、学校の評判を上げるために利用しようと考えていた。
礼儀正しく、人当たりもいいセーラはすぐ、学院の人気者になっていった。だが、平穏な日々は突然、終わりを迎える。なんと、父親が逝去。さらに、父親が親友に裏切られたため、セーラには遺産がなく、一文無しになってしまったのだ。
これにより、ミンチン院長の態度は豹変する。一切の恩情はなく、冷たい態度でセーラに屋根裏部屋に住みながら下働きするよう命じた。
「無一文の貧乏娘に家と仕事を与えてやったんだから、感謝しろ」とお礼を言うよう迫るミンチン院長。それを受け、セーラの頭に浮かんだのは転生前に見た嫌な上司の姿だった。
恩を着せることで自分を傷つけようとしている人に弱みを見せたら、相手を喜ばせ、自分は見下されてしまう。そう思ったセーラは、院長に屈しない道を選択する。
ミンチン院長からの当たりはますます強くなったが、セーラは心を強く保ち、屋根裏部屋に住みながら一生懸命働き続けた。
そんなセーラを支えるのが、同じく下働きのベッキーだ。身分による扱いの差が激しいこの学園の中で、セーラは父親が生きていた頃からベッキーを対等な存在として扱い、優しく接していたため、2人の間には熱い友情が生まれていたのだ。
そうした心の拠り所もあり、なんとか辛い日々を乗り越えていたが、日を増すごとにセーラは周囲からよりむごい扱いをされるようになっていく。
それでも彼女は自分が置かれた状況を冷静に見つめ、人生を切り開いていこうとするが……。
『選択』を間違えれば たちまちバッドエンド 不幸のどん底へ突き落されるでしょう――
転生する際、女神が言ったこの言葉を胸に刻み、試行錯誤しながら人生を選択をするセーラ。彼女が下す決断は一体、どんな道に繋がっているのだろうか。
原作とは違った学びも得られる転生コミック
転生ものは世界観に入り込めないと置いてけぼり感をくらってしまうこともあるが、本作は絵本やアニメにもなった、多くの人が知る名作になぞらえて大筋のストーリーが進んでいくため、すんなり入りこめる。転生ものが好きな方はもちろん、名作に触れたいと思っている方も手に取りやすい作品でもある。
また、セーラが転生前の記憶を持っているからこそ、原作とは違った学びを得られるのも本作の魅力だろう。個人的にグっときたのが、父親がまだ生きており、裕福な暮らしを送れていた頃、セーラが“下働き”として畏まるベッキーへ送った助言だ。
「自分の立場」と「自分」を全部一緒にしないで
私とあなたは何も違わない ふたりともただの女の子
偶然生まれた場所が違っただけ
この言葉で自分の価値を考え直したくなったのは、きっと筆者だけではないはず。転生前の経験から、大人な視点でも物事を考えられるセーラの言葉は読者に生き方を見つめ直すきっかけも与えるのだ。
理不尽な状況から逃げるように転生したセーラ。しかし、新たな生では再度困難が待ち受けていた。彼女はどうやって苦難を乗り越え、転生前と転生後の自分に共通する、“理不尽な扱いを受けることへの葛藤”を乗り越え、断ち切るのか。この先の展開が楽しみになる。その心の成長に触れると、様々な気づきが得られ、読者の心もひとまわり大きくなるはずだ。
文=古川諭香