娘が心を病んで入院したとき、家族は…。摂食障害と強迫性障害に苦しんだ著者が漫画で描く、再生までの道のり
更新日:2023/12/1
10年ほど前、精神科病院に入院した。つい最近までこのことを、気を許した人にしか話さなかったのは、人間関係にひびが入ったり仕事に悪影響が出たりしないかと不安だったからだ。
しかし『高校生の娘が精神科病院に入りバラバラになった家族が再び出発するまで』(もつお/KADOKAWA)を読み終えたとき、こころを病んだことのある人が回復してから自らの経験を言語化することの意義を感じた。
著者のもつおさんは、高校時代に苛まれた精神疾患や入院に至るまでの過程を描いた『高校生のわたしが精神科病院に入り自分のなかの神様とさよならするまで』(KADOKAWA)の作者である。その続巻である本書は自身が摂食障害と強迫性障害に苦しんだ過去を振り返りながら、同時期の家族の思いにもスポットをあてている。
「精神科病棟に入院したことがある」と公言することに抵抗感のあった私は、読み進めていくうちに絡まった紐が解きほぐされていくような感覚になった。そして精神科病棟に入院した経験のない読者にとっても、もつおさんの経験はひとごとではないと気づいた。厚生労働省によると、5人にひとりがこころの病を患うといわれている現代、家族や友人が明日発症するかもしれないものなのだ。
もつおさんは両親と1歳違いの姉といっしょに住んでいた。家族が精神疾患を患っていた期間は、家族がそれぞれ自らの葛藤と向き合わなければならない期間でもあった。
母親は、もつおさんが何も食べていないと知ったとき、心療内科やカウンセリングルームに連れていく。それでも回復しない娘に寄り添おうとするのだが、周囲にいる人たちからの言葉に追いつめられる。
父親は無理に食べさせようとしても何も食べない娘にいら立ちながらも、回復を信じていたのだが友人たちといっしょに行ったバーの女将の言葉に衝撃を受ける。
また、高校受験の勉強をしていた姉は、もつおさんのことでケンカする両親やどんどん体が細くなる妹を見ることに耐えられなくなり体調が悪くなるのだが、両親には言わず「私はしっかりしなくちゃ」と無理をして、とうとう大学受験に影響が出てしまう。
これらは珍しいことではない。家族が精神疾患になった人たちは似た経験をしているだろう。通常、病院は治療をする場であり患者は回復して退院、もしくは通院を終わらせる。しかし精神科の場合は異なる。私の知り合いの精神科医は「精神科病棟は病気を治すためだけではなく、自殺を食い止めるためにもある」と言っていて、厚生労働省による調査では精神科の再入院率は退院後6カ月時点が約30%、1年時点が約37%であった。もつおさんにとっても退院してすぐ回復とはいかず、「入院したのにどうして」と家族は悩む。
こころの痛む展開が続くが、やがてもつおさんと家族は、ゆっくりと再生への道を歩みだす。ほかの精神疾患を患ったことのある人たちと同様に、もつおさんが完全に回復したと断言できるかはわからない。それでも彼女は前を向いて、一歩一歩踏み出すことで道を開いた。
もつおさんが本書を発表したことで、たくさんの人が救われた気持ちになるに違いないと私は確信している。
文=若林理央