フェルメール、ダ・ヴィンチ、北斎から“写真の見方・撮り方”を学ぶ!? 一流画家たちの技法をひもとく1冊
公開日:2022/11/17
絵画に使われている技法を読み解き、写真の見方や撮り方への理解を深めることができる書籍『名画から学ぶ 写真の見方・撮り方』(東京カメラ部、塚崎秀雄/翔泳社)が発売された。
フェルメール、ダ・ヴィンチ、北斎などが描いた名画の数々。それらの普遍的な価値や魅力を、写真の見方や撮り方に応用することができるように解説したのが本書である。
こちらを読めば、写真撮影の上達につながるのはもちろんのこと、絵画と写真の鑑賞入門にもなる。もちろん絵画やイラストを描くのにも役立つ一冊だ。
有名絵画の描写技法とそのしくみを解説
本書の構成を紹介していこう。基本的には、有名絵画に使われている技法の意味、技法を生かした見せ方のしくみを解説していく。まずは主題(メッセージ)を示すための基本技術として「サイズと向き」「コントラスト」「配色」「リーディングライン」。つぎに配置(構図)を示す技術「感情を表現する構図」「日の丸構図」「三角形構図」「逆三角形構図」「斜線・対角線構図」「S字構図」「黄金比構図」など。そしてビジュアルウェイト、リズム、奥行表現などの技術について紹介・説明が連なる。
その技法としくみが絵画でどのように使われ、その結果として鑑賞者がどのような印象をもつのか、どのような感性に訴えられるのかを知ることができる。さらに同様の技法としくみで撮られている写真を見て、撮影に描写技法をどう応用するのかを理解できるようになっている。
写真の見方・撮り方、そして与える「印象」を名画から学ぶ
ここでは本書で取り上げられている名画とその技法を2つ紹介する。
ジャック=ルイ・ダヴィッド『サン=ベルナール峠を越えるボナパルト』
ナポレオンが白馬にまたがり意気揚々と戦いへ向かう様子を描いた有名なこの絵は、ナポレオン本人も気に入り同じ構成で複数枚描かせたという。
使われているのは「斜線を生かして絵の印象を操作する」技法。絵の左上に向かって進む馬の体の位置とその角度が前半身と後半身ともに「斜線」と重なっており、ナポレオンと馬の双方が動きを感じさせる。そしてその動きの進行方向は、文字などを左から読むことに馴染みがあると(日本語では横書き)それに逆行する左向きのこの絵に対して「困難に立ち向かう」印象をもつのだ。
写真ではこの「斜線」を自然の風景や人工物に重ねるように意識する。風景に写る自然の地形やそこに咲く花などの配列を、斜線と重ねることで、リズム感のあるダイナミックな一枚に仕上がる。
ウジューヌ・ドラクロワ『民衆を導く自由の女神』
美術に詳しくなくてもこの「民衆の先頭に立つ女性」の絵画は見たことがあるだろう。1830年に起きたフランス7月革命をテーマに描かれたこの絵からは「ビジュアルウェイト」と呼ばれる、視覚情報から感じる「重さ」「強さ」に着目した技法が読み取れる。具体的には「安定を崩しつつ調和を保つ」という見せ方で、まず画面の中心を左右で等分すると「左にいる男性」と「右の女神とその隣の少年」が配置されているのが分かる。さらに左側は暗く、男性は中心から遠く配置されており重さを感じさせる。右は女神も少年も中心に近く、明るく描かれており軽さが出ている。この左右の描写によりバランスが取れて、見ていて気持ちいい調和が感じられるのだ。
この技法で写真を撮る場合には、主な対象物を左右どちらかに寄せて撮り逆の部分にも何かを写りこませ(配置し)てバランスを取る。また対象物やそのゾーンに光が当たり、その左右逆のゾーンには別の対象物を配置しつつ暗さを意識することで画面全体に変化とバランスを生むことができる。
どうして撮影テクニックを名画から学ぶのか。なぜなら絵画は写真より長い歴史をもっており、より多くの鑑賞・競争・研究がされているからだ。また写真と違い偶発性が少ない絵画は意図が明確。そこに描かれている点・線・色は全てに意図があり、それらを学ぶことに意義が生まれるからでもある。絵画の技法の意味を学んだ今、写真のもつ「印象」とは撮る側が決定しておくべきなのだと知ることができた。本書は自分の作品を「どう見られたいか、どう見せたいか」と考える助けになる一冊なのだ。
文=古林恭