離れたいのに断ち切れない縁がある人へ。対人関係や恋愛、子育てにも影響を及ぼす「母という病」の乗り越え方
公開日:2022/11/19
日常のふとした瞬間で生きづらさを感じると、自分のダメなところ探しをしてしまう。だが、見つめ直す対象を自分の性格ではなく、生育環境に変えてみると、新しい苦しみの解決法が見つかるかもしれない。
『母という病』(ポプラ社)は、そんなことを教えてくれる一冊だ。著者は精神科医で、医学博士の岡田尊司氏。2012年に単行本、2014年に新書が刊行され、この度、カバーが新しくなったタイミングで、改めてベストセラーとなった本書を紹介する。そんな『母という病』は、母親との歪な関係が生きづらさを生む理由を解説。「母という病」を克服し、不幸の根を断ち切るヒントを授けている。
対人関係や恋愛、子育てにも影響を与える「母という病」
母親との関係に悩むことは心理的な問題だと思われやすいが、母子関係は単なる心の問題ではなく、生理的、神経的、身体的レベルにまで影響を及ぼし、人生を大きく左右すると著者は指摘。
特に、子どもの脳でオキシトシンというホルモンが分泌され、受容体がもっとも増える時期だと言われている、生後1歳半までは母子双方にとって、絆が育まれる、かけがえのない時間。そうした、親に依存するしかない時期に母親から全面的な関心と愛情を向けられなかった場合、世界や自分を無条件に信じることができる「基本的安心感」を育めないのだそう。
すると、常に居心地の悪さを感じる、何とも言えない空虚感に慢性的に苦しめられる、理由の分からない怒りにとらわれるなどといった特徴が現れるのだとか。
そうした特徴を、本書では「母という病」と表現。「母という病」に苦しむ人は、子ども時代には深刻な問題に至らず、一見順調に育っているようでも、青年期に入った頃から、バランスの悪い自己愛やアイデンティティの問題に苦しみ始めたり、対人関係で苦労したりすることがあるそう。
恋愛や結婚に対しても希望が持てず、親密な関係になることに二の足を踏んだり、逆に、ひとりでいることが不安で、パートナーを次々求めたりしてしまうことも。自分の抱えた問題を乗り越えられないまま、親になると、子どもを愛すことを困難に感じることもあるという。
本書では、実際に母親との関係に悩んできた当事者のエピソードや著名人が悩んだ母子関係、愛着形成にまつわる実験結果を交えつつ、「母という病」の根深さを解説。筆者自身、過干渉な母親との関係に悩んだことがあるからこそ、著者の解説にはハッとさせられることが多かった。
同じような気づきを得る人は、きっと少なくないはず。本書を手に、苦しみの原因を見つけてほしい。
「母という病」を克服するには?
では、「母という病」を克服するには、どうすればいいのか。著者いわく、その第一歩は受けてきた扱いや親から言われ続けてきた言葉に「おかしい」と疑問を持つこと。
「母という病」を抱えた人は、おかしいと思っても、反抗や反発が抑えられ、母親に逆らえず、良い子でい続けてしまうことが多いそう。だが、回復のためには母親を批判し、反抗する時期が必要だと著者は語る。
なお、我が子がそうした態度に出たら、親は守りに入らず、気持ちを受け止めることが大切。
子どもが反抗的になり、親を責めるようなことを言い出したときは、これまでのゆがみを正し、関係を修正しようとしているのだ。それは、親とのかかわりの区切りをつけて、自立へ向かおうとしているということだ。
著者は、子どもがどこで傷つき、何に矛盾や痛みを感じてきたかを自己弁護せずに受け止め、苦しみを共有して一緒に泣こうとアドバイスする。
一方、親が自己愛的であったり、子どもを所有物のように思っていたりする場合は、本音を伝えて関係を変えることが難しいため、適度な距離を取ったり、一旦縁を切って離れたりするのがよいそう。自分の中にある母親への執着に気づき、見切りをつけ、振り回されない人生を送ろうと、著者は語りかける。
他にも、本書内には、理想の自分にとらわれない生き方や「死にたい」という気持ちの克服法など、「母という呪い」に苦しむ人の心が楽になるヒントがたくさん綴られており、参考になる。
中でも、筆者に刺さったのは、自分と他人の思いを混同しないという助言。筆者は日常の中で他者と自分の境目が曖昧になり、「私の気持ちを勝手に決めつけないで」と反感を買ってしまうことがあるので、この助言をヒントに、自分と相手の気持ちを区別する練習をしていきたいと思った。
母を許したいのに、許せない。そんな苦しみと闘い続けている人にとって、本書は心強い味方になってくれるだろう。
文=古川諭香