グルメあり、イケメンあり、純愛あり、あやかしあり!? 浅草が舞台の大人気小説『浅草鬼嫁日記』のシリーズ完結記念! 作家・友麻碧インタビュー【前編】

文芸・カルチャー

公開日:2022/11/28

浅草鬼嫁日記 十 あやかし夫婦は未来のために。(上)
浅草鬼嫁日記 十 あやかし夫婦は未来のために。(上)』(友麻碧:著、あやとき:イラスト/KADOKAWA)
浅草鬼嫁日記 十一 あやかし夫婦は未来のために。(下)
浅草鬼嫁日記 十一 あやかし夫婦は未来のために。(下)』(友麻碧:著、あやとき:イラスト/KADOKAWA)

 2023年に活動10周年を迎える人気作家の友麻碧さん。初期三作品シリーズを作家人生における【シーズン1】と位置づけているそうですが、その締めくくりとなる『浅草鬼嫁日記』シリーズが完結となり、大きな節目を迎えられました。インタビュー前編では、『浅草鬼嫁日記』の創作秘話を中心に【シーズン1】を振り返っていただきます。また、2023年の春頃に公開予定のインタビュー後編では、10周年を迎える心境や【シーズン2】への意気込みなどをお聞きする予定です。あわせてお楽しみください!

※『浅草鬼嫁日記』シリーズのネタバレを含みます。

構成・文=高倉優子

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――シリーズ完結となる11巻『浅草鬼嫁日記 十一 あやかし夫婦は未来のために。(下)』(KADOKAWA)が刊行されました。まずは長きに渡る執筆、おつかれさまでした! 書き上げた今、どのようなお気持ちでしょうか。

友麻碧(以下、友麻):ありがとうございます。終わっちゃったな、寂しいな、というのが率直な感想です。『かくりよの宿飯』シリーズと同じく全10巻の予定でしたが、後日談が長くなりそうだったので上下巻に。ちょっと中途半端な数字ですが、全11巻で無事完結となりました。最後の一文を書き終わった時、もっと嬉しかったり、達成感があるのかな……などと思っていたのですが、思いのほかズーンと気落ちして1週間くらい鬱々としてしまいました(笑)。それだけ思い入れの強いシリーズだったのだと思います。

 本シリーズをはじめ、初期作品である『かくりよの宿飯』と『鳥居の向こうは、知らない世界でした。』は、友麻碧の作家人生における【シーズン1】と位置づけています。その締めくくりとなる『浅草鬼嫁日記』シリーズが完結したことは、作家人生において大きな節目になった気がしています。

――なるほど。【シーズン1】の大トリを飾る作品なのですね。それでは改めて、そのシリーズを振り返っていただきます。まず、着想したきっかけは?

友麻:『かくりよの宿飯』シリーズの執筆中に妖怪を調べる中で、「酒呑童子と茨木童子に夫婦説がある」というのを見つけ、ネタとして面白いんじゃないか、と思ったことがきっかけです。前世で人間に討たれるという悲劇の結末を迎えた鬼夫婦が、生まれ変わった今世では高校生らしく、わちゃわちゃと楽しそうに過ごしている……。前世と今世にギャップを出すことで、面白さや、謎解き要素、感動などが生まれるのではないかと考えました。

 このシリーズは、鬼夫婦それぞれが前世にまつわる「嘘」をついていて、それを暴くというのもテーマのひとつですが、その嘘を暴く過程で、前世の記憶を追いかけたり、前世の謎を解く流れができるな、と。

――デビュー前に、ウェブで書かれていた作品から派生した物語なのだとか。

友麻:はい。ウェブで書いていた作品の構造を生かしたらうまくハマりました。とはいえ企画の段階ではその構造について上手に説明することができず、他社に提案して2度ボツになってしまった過去があります。その後、富士見L文庫の当時の編集さんに「『カクヨム』で何か連載しませんか?」と言って頂き、無事『浅草鬼嫁日記』シリーズを書けることになったんです。あちこちで振られた企画でしたが、ちゃんと世に出せてよかったです(笑)。

――本シリーズの舞台として浅草を選んだ理由は?

友麻:福岡出身ということもあり、東京に大きな憧れがありました。その憧れを象徴するものが「東京スカイツリー」なんです。大学進学を機に上京し、初めて浅草へ遊びに行ったときに見たスカイツリーが、とても大きくて感動したのを覚えています。その感動がずっと心の中にあったので、スカイツリーが見える土地を舞台にしたいと思いました。当時、スカイツリーまで徒歩5分くらいの場所に住んでいて、浅草も生活圏だったこともあり「よく行く浅草を舞台にしたらネタも集めやすいだろう」くらいの気持ちで決めた気がします。

 酒呑童子や茨木童子の物語なら、京都が舞台になりそうなものなので、執筆初期の頃は「なぜ浅草?」と読者さんにつっこまれることもありました(笑)。後に作品の中に「なぜ浅草だったのか」という理由はちゃんと出てくるのですが、そのあたりは後付けというか、書き進めるうちに整っていった感じです。

浅草鬼嫁日記 あやかし夫婦は今世こそ幸せになりたい。
浅草鬼嫁日記 あやかし夫婦は今世こそ幸せになりたい。』(友麻碧:著、あやとき:イラスト/KADOKAWA)

――取材(ロケハン)などはしましたか?

友麻:取材というよりは、日常的に生活している中で出合ったものや食べたものなどを、その都度作品に反映させました。朝、昼、夕方、夜と、いろいろな時間帯に浅草や周辺の町をぐるぐる歩いて、町の雰囲気や空気感、匂いのようなものを、しっかり表現できたらいいな、と。あてもなくフラフラと歩いて、知らない場所まで行ってしまっても、空を見上げると必ずスカイツリーが見えます。それだけスカイツリーが巨大なわけですが、道に迷ってもスカイツリーを目指して歩いていれば、知っている道に出て、家に帰ることができました。自分の住んでいる町に、そういう絶対的な「象徴」のようなものがある……というのが非常に誇らしく、頼もしく感じていました。

 本シリーズでもたびたび、東京スカイツリーの描写が出てきますが、真紀や馨にとって第2の故郷である浅草には、東京スカイツリーはもちろん、浅草寺などの誰もが知る偉大な象徴があります。それらは私が道に迷ってもスカイツリーを目指して家に帰ることができたように、進学で京都に行った真紀や馨にとっても、いつか浅草に帰るための絶対的な目印になるのだと思います。

――真紀が大食いという設定もあり、芋ようかん、きびだんご、ジャンボメロンパン、メンチカツ、あげまんじゅう、手焼き煎餅といったおやつをはじめ、浅草に実在する名店・メニューも登場しますね。

友麻:作中で描いたご当地グルメはおすすめばかりです。多くの読者さんが聖地巡礼として浅草に遊びに行ってくださっていますが、そういう時に食べて楽しんでもらえたら、と。最終巻に出てくる「フルーツパーラーゴトー」は超有名店ですが、おそらく私が最もよく足を運んだ浅草の飲食店でもあり、満を持しての紹介となりました。

 季節のフルーツパフェが看板メニューで、メインの果実はもちろん、フルーツを使ったアイスやソースに至るまで本当に絶品です。真紀の住んでいたひさご通りにあるため、じつは真紀や馨にとっても、「近所にある、よく行くお店」という設定なのです。聖地巡礼の際にはぜひ足を運んでほしいですね。

――真紀と馨は、浅草から飛び出して、いろんな場所を訪れます。大まかにいうと「ほのぼのとした日常の」浅草編、「物語が大きく動く」お出かけ編といった感じでした。土地の選び方や、お出かけ編を入れた理由とは?

友麻:作中に出てくる土地は、酒呑童子伝説ゆかりの土地、興味深い伝承がある土地、自分が行きやすい土地、よく知っている土地などから選びました。京都はまさに酒呑童子と茨木童子の千年前の故郷な訳で、因縁の土地です。そこに行くことで前世の嘘が暴かれる……というのが、3巻のお話でした。ちなみに天橋立に取材旅行に行った日、雪が降って移動がとても大変でしたが、真っ白な天橋立の雪景色を奇跡的に見ることができて、とてもいい思い出になりました。また、7巻は「大分里帰り編」ですが、あれは私の祖父母の住んでいた田舎がモデルです。九州内陸の山に囲まれた田舎独特の雰囲気や、その土地に伝わる不思議な伝承など、少しホラーの要素もあり……。新鮮な気持ちで書きました。

 浅草をホームとしつつ、キャラクターがあちこちに出向くことで、日常の物語から非日常の物語に切り替えやすい、というのはあったのかなと思います。違う土地に行くからこそ浅草に戻って来た時に「ただいま」となるわけで、真紀や馨にとっての帰るべき場所、安住の地は、やっぱり浅草なのだというのを表現できたのではないかなと思っています。

――真紀と馨のキャラクターは、どのように肉付けしていきましたか?

友麻:前世が悪役な鬼夫婦だからこそ、共感しやすいキャラクターになるように心掛けました。序盤にコミカルな学園シーンや日常シーンを描き、ふたりに楽しく掛け合いをさせることで、後にやってくる残酷な前世の追憶が、ぐっさり刺さるのでは……と。1、2巻はそのための助走のつもりでひたすら日常を積み上げ、3巻で「じつはこういうお話でした!」という種明かしをしたかったという感じです。

浅草鬼嫁日記 三 あやかし夫婦は、もう一度恋をする。
浅草鬼嫁日記 三 あやかし夫婦は、もう一度恋をする。』(友麻碧:著、あやとき:イラスト/KADOKAWA)

 真紀はジャイアン気質で活きのいいヒロインですが、抱え込んだ前世の秘密がたくさんある、じつはとてもミステリアスな主人公です。一方、馨はしっかりした常識人のヒーローでありながら、前世で最初に死んでしまったことで自分の死後のことを何ひとつ知らないというキャラクター。要するに、前世では妻が夫をひたすら追いかけ、今世では夫が妻の前世の秘密を必死に追いかける、という、千年かけた夫婦の追いかけっこの物語なのです。出会いから始まる初々しい恋愛ものの真逆をいく、出会って千年経つけど、じつはお互い知らないことばかり。しかもパッと見は高校生という、なかなか変わった属性を持つカップルです。そんな真紀と馨は私から見ても、憧れる主人公でありヒーローですね。

――親友の由理、眷属をはじめ、個性の強いキャラクターが数多く登場します。書き分けが大変だったのでは。ちなみに一番好きなキャラクターは誰ですか?

友麻:キャラクターの描き分けが大変だったと思うことは、じつはあまりなく……。ただ、書きながらそのキャラクターのことがわかっていくというか、物語に教えてもらうというか、「ああそういうことだったんだね」という感覚に陥る瞬間はありました。もちろん、どのキャラクターもある程度設定を作ってから登場させますが、そのキャラクターの本当の性格、本質、願いのようなものは、書いてみなければ見えてこないな、といつも思います。

 最も「よくぞ友麻から生まれてくれた」と思ったキャラクターは【来栖未来】でしょうか。酒呑童子の首を落とした源頼光という英雄の生まれ変わりです。当初は「源頼光の生まれ変わり」という属性を持つ人物は、いつか出てくるだろうとは思いつつ、どういう性質にすればいいのかとても迷いました。シリーズ序盤では、いくら考えても真紀や馨の復讐の対象でしかなく、ただの悪役としてのキャラクター像しか思い浮かびませんでした。でも3巻を書いたあと、唐突に、パッと雷に打たれたように思いついたのが【来栖未来】でした。この時、何気なく彼に「未来」という名前をつけた自分を褒めてやりたいです。名前が「未来」だったからこそ、終盤の流れが整ったのだと思っています。そういう意味で、私がこのシリーズで一番好きなキャラクターは、来栖未来ですね。

――それでは、読者に人気だったキャラクターを教えてください。

友麻:主役の真紀と馨(茨木童子と酒呑童子)かなと思いつつ、その他だと私にもよくわからなかったので、事前にTwitterで聞いてみました(笑)。その結果、主役の親友である由理と、真紀(茨木童子)の眷属である凛音が人気でしたね。次点で、水連と叶先生。過去をさらけ出したキャラクターは人気が高い気がします。

浅草鬼嫁日記 四 あやかし夫婦は君の名前をまだ知らない。
浅草鬼嫁日記 四 あやかし夫婦は君の名前をまだ知らない。(上)』(友麻碧:著、あやとき:イラスト/KADOKAWA)
浅草鬼嫁日記 八 あやかし夫婦は吸血鬼と踊る。
浅草鬼嫁日記 八 あやかし夫婦は吸血鬼と踊る。(下)』(友麻碧:著、あやとき:イラスト/KADOKAWA)

 由理は主人公夫婦を見守る優しい親友キャラだったはずが……じつは主人公夫婦含めて周囲の全てを化かしていたという秘密を持つ人物。妹の若葉とのエピソードや関係性は、個人的にもお気に入りです。また、真紀(茨木童子)の眷属だった過去がある凛音は、王道イケメンのルックスとツンデレな性格、真紀への一途な片思いなどが読者さんに支持された理由かなと思います。

――シリーズ通して、数え切れない名言が登場します。個人的には11巻で凛音が真紀に言った「貴方が生きている限り、俺は、あなたの眷属だ」が切なくて心に残りましたが、先生ご自身で気に入っている台詞はありますか?

友麻:同じく凛音の言葉ですが、8巻で凛音が来栖未来に言う「貴様の片思いなど知るか!! オレは千年、報われてない!!」ですかね。割と読者さんたちにもいじってもらうことが多く、この作品を色々な面で象徴している台詞かと思います。あやかしは一途、一度愛した人を忘れられない、という前設定があるのですが、千年もの間、報われない片思いをしてしまった男の、ぶっちゃけた心の叫びっていいですよね、と。私は長く片思いしている男性を書くことがままあるのですが、この手のキャラクターがメインヒーロー以上に読者さんに愛されたりします。よく「友麻 碧の金髪キャラと銀髪キャラには気をつけろ」と言われますが、この片思いポジションにくるのが、だいたい金髪か銀髪だからだと思います。今後ともおおいに読者さんたちには、金髪キャラと銀髪キャラに気をつけていただけたら……と思っております(笑)。

――登場すると嬉しい、癒しのキャラクター「手鞠河童」と「おもち」について教えてください。

友麻:手鞠河童は、亜種を含め私の作品に高確率で出現するキャラクターで、「あいつらはどこにでもいる……」と私自身が思っている節があります。別のシリーズになってもちょこちょこついてきてくれて作品を盛り上げてくれる、友麻碧の健気な相棒(もしや眷属?)という感じでしょうか。あざとくもたくましい、愛らしくもあつかましい最弱妖怪ですが、現世を生き抜く知恵があったり、意外と有能で働き者なところもあったりして、彼らの行動や言動は書いていてとても面白かったです。

 一方、おもちは純粋無垢でひたすら可愛い、ペンギンの雛です。真紀と馨は前世で夫婦でしたが、実の子どもはいませんでした。そんな真紀と馨にとって、おもちは我が子同然の存在です。どこにでも出現する手鞠河童と違って、おもちは浅草鬼嫁日記シリーズだけの癒しキャラです。「ぺひょ~」の緩い鳴き声とともに、作品を可愛く盛り上げてくれました。

――続編を望む声も多いと思います。今後、浅草から京都に舞台を移した作品を執筆する可能性は!?

友麻:ひとまず「浅草鬼嫁日記」の本編はここで完結かなと思います。酒呑童子の首を巡ったお話が終着しましたし、浅草鬼嫁日記というのがメインタイトルである以上、浅草を旅立つことで彼らのお話は終わったんだな、と。それでも人生は続いていく……ので、京都での彼らの生活もチラッと覗いてみたいと私自身思っています(タイトルはどうすればいいんだろうと思いながら……)。はっきりとしたことは言えないのですが、いつか京都編を書けたらと思うので長い目でお待ちいただければ幸いです。「かくりよの宿飯」同様、長く楽しんでいただけるコンテンツにしたい、と思っております。

 もしまだこちらのシリーズを読んだことがない方がいらっしゃったら、もし鬼とかあやかしに興味があるなら「とりあえず3巻まで読んでみて! それでダメだったらやめてもいいから!」とお伝えしたいです(笑)。他シリーズとの繋がりも多い作品なので、そういうところからも興味を持っていただけたら嬉しいです。

―――最後に、「浅草鬼嫁日記」シリーズのファンへのメッセージと、今後の抱負をお聞かせください。

友麻:改めまして『浅草鬼嫁日記』シリーズを読んでいただき、本当にありがとうございました! 初期の「カクヨム」での連載から数えると、7年ほど続いたシリーズでしたが、最後まで多くの読者さんたちが熱心に応援してくださったことを心から感謝しています。シリーズ通していろんな事件や出来事が起こりましたが、最終的に物語の核となったのは「青春の終わり」や「人生の選択」という誰もが抱えるテーマでした。真紀たちが大好きな浅草を離れることは、すごく大きな決断だったようにも思えますが、実際は皆が通る道であり、ありふれた人生の一幕という気もしています。もし皆さんが人生の岐路に立ったとき、少しでも「いってらっしゃい」と背を押せるような、励みになる物語になっていたら幸いです。私自身も真紀や馨、浅草のみんなから「いってらっしゃい」と背を押してもらい、【シーズン1】を締めくくることができました。

 いよいよ【シーズン2】に突入です。まずは2023年春ごろに『メイデーア転生物語』シリーズの最新巻(6巻)を発表しますのでお楽しみに! そして【シーズン2】の友麻碧にもどうぞご期待ください!

※インタビューの後編は2023年春頃の公開を予定しています。