幸田露伴『五重塔』あらすじ紹介。ラストの大嵐のシーンは圧巻! 五重塔建立に身を捧げた大工職人の物語

文芸・カルチャー

更新日:2023/7/12

 幸田露伴の『五重塔』が、どんな内容か知りたいけど、ハードルの高さを感じて読むのを躊躇している方もいるかもしれません。確かに文語体で書かれた小説は読みにくいですよね。そこで本稿では、実際にあった五重塔の再建をモデルにしたというストーリーをわかりやすく紹介します。

五重塔

『五重塔』の作品解説

 著者の幸田露伴は夏目漱石、森鷗外と並び称される、日本近代文学を代表する作家です。

『五重塔』を執筆したのは1892年(明治25年)で、当時の露伴はわずか24歳。『運命』と合わせて幸田露伴の代表作とされ、これら文語体作品で文壇での地位を確立しました。

 自身による建立に固執する十兵衛の狂気にも似た執念と、築き上げられた五重塔が大嵐に揺さぶられるシーンが高く評価されており、十兵衛が源太と共に評される結末にはカタルシスを感じずにはいられません。

『五重塔』の主な登場人物

十兵衛:「のっそり」と蔑まれている大工
源太:棟梁として名高い大工
朗円上人:人々から慕われている高名な僧侶

『五重塔』のあらすじ

 時は江戸時代。腕は確かながら「のっそり」と愚鈍さを蔑まれていた大工の十兵衛は、谷中感応寺に五重塔が建てられると聞き、この仕事を成し遂げたいという熱望に駆られる。急ぎ発起人である朗円上人のもとへ赴いたが、既に高名な棟梁である源太の仕事に決まっていた。しかし、十兵衛の境遇に同情した上人は、二人で話し合いをして決めるよう諭す。共同建立など、あらゆる譲歩案を出す源太だが、十兵衛は頑なに拒否。やがて源太は怒りの言葉を吐き捨て立ち去ってしまう。

 しかし内心、葛藤していた源太は「上人様に決めて頂ければ、どちらに決めても一切のしこりは残しません」と願い出る。すると上人は、十兵衛も同じ話をしていったことを源太に告げる。そして「可愛がってやれ」という上人の言葉に涙し、十兵衛が五重塔の建立を担うことになった。

 宴の席で源太は役立ててほしいと十兵衛に五重塔の寸法書や下絵を渡すが、十兵衛は頑として受け取らない。それを聞き激昂した源太の弟分の清吉は、十兵衛の耳を削ぎ、肩に重傷を負わせる。だが、それでも休むことなく仕事に励む十兵衛の熱意が他の職人たちにも伝播し、ついに五重塔は完成する。

 ところが、落成式を前に暴風雨が江戸を襲う。五重塔に上り身一つで嵐と対峙する十兵衛。ついには暴風雨を耐えきった五重塔には、一寸一分の歪みも生じていなかった。落成式の後、上人は「江都の住人十兵衛之を造り、川越源太郎之を成す」と銘を入れた。これは五重塔の棟梁の座を譲った源太への報いであった。これには十兵衛も源太も言葉はなく、ただただ平伏して上人を拝むだけだった。

<第42回に続く>