クレヨンしんちゃんから学ぶ、「折れない心」のつくりかた。大人も子供も知っておきたい“苦しい気持ちの切り替え方法”をマンガで紹介
公開日:2022/11/28
ときどき、子ども向けのエンターテインメント作品に大人にも通じるエッセンスを見つけて驚くことがある。生きるうえで大切なことは、老若男女問わず同じなのだ……そんな事実を再認識させてくれる本を見つけた。『先生は教えてくれない!クレヨンしんちゃんの折れない心をつくる本』(臼井儀人:キャラクター原作、高田 ミレイ:まんが/双葉社)である。
臼井儀人原作の『クレヨンしんちゃん』のエピソードをマンガ家の高田ミレイが新たに作り出し、逆境の乗り越え方や悩んでいる時のメンタルハックを「折れない心」をテーマにわかりやすく解説している。子どもが楽しめるような内容でありつつ、大人もはっと気づかされる箇所がたくさんある一冊となっている。
大人もはっと気づかされる内容とは実際にどういったものなのか、いくつかエピソードを紹介したい。「マイナス思考は生きるために必要な能力」というタイトルのマンガでは、プラス思考のしんちゃんと、しんちゃんの友達でマイナス思考のマサオくんを兄弟に見立て、ふたりが母親の足の痛みを治そうと、となり町のお医者さんを連れてくるために冒険する。ふたりの冒険を通して、マイナス思考は決して悪いものではないことを示しているエピソードである。
プラス思考のしんちゃんは旅の早い段階に自分が持ってきた水をぜんぶ飲んでしまったり、草の上でいいからテントはいらないと言ったりする。しかしマイナス思考のマサオくんはそんなしんちゃんに水を大事に飲まなきゃと注意をして、雨が降った時のためにテントを準備する。最初はテントなんて必要ないと言っていたしんちゃんだが、その晩雨が降りテントはふたりの命を救うことになる。
マサオくんはマイナス思考だからこそ準備ができたのだ。解説文にはこう書かれている。
不安や悩みが芽生えてくるのは、成長しようときみが前向きに生きている証拠なんだ。
マイナスな気持ちは、未来の自分のためにもあったほうが良いものであることを本書は提示している。
また、ものごとがうまくいかない時は自分を物語やゲームの主人公にしてみようと提案する章もある。原作の『クレヨンしんちゃん』でも、しんちゃんがアニメの主人公・アクション仮面になりきるシーンがたくさん登場する。母親に叱られたり失敗したりしても、しんちゃんはアクション仮面になりきることによって前向きに逆境を乗り越えていく。
しんちゃんは、アクション仮面になることで自分を盛り上げてピンチを乗り切るのだ。しんちゃんはフィクションの人物だが、現実の世界でも自分が物語の主人公だと思えばピンチをチャンスに変えることができるはずだ。これは大人にとっても役に立つことなのではないだろうか。
また、他にも、本書は人生で直面するさまざまな逆境をどう乗り越えていくかにスポットをあてている。“受験の失敗はあたりまえのこと 不合格は挫折じゃない”や“SNSは、やりたくない人はやらなくていいもの”など、ふっと心が楽になるようなエピソードがたくさん収録されている。
筆者自身、10代のころに親の反対で夢をあきらめなければならなかったことを今でも引きずっていたのだが、“いやな過去を思い出したらすぐに打ち消そう!”という章で、過去を思い出しそうになったら自分が大好きなものを思い浮かべたらいいというメンタルハックを知り心が解きほぐされた。今、自分が大好きだと思っていることは、かならず未来につながっているのだ。
気持ちの切り替え方をわかりやすく紹介しているため、年齢に関係なく、読んでいると元気が出る。苦しみは誰もが経験するもの。悩まない人なんていないのだ。しかし悩んだ時にどのように行動するか、または考え方の方向をどこに向けるかは人によって異なる。迷った時に支えを求めている人がいたら、ぜひ本書を勧めたい。
文=若林理央