『おしりたんてい』スピンオフ! なかよし3人組のルームシェア新生活が始まる!/すずのまたたびデイズ はちゃめちゃパティシエしゅぎょう②

文芸・カルチャー

公開日:2022/12/6

すずのまたたびデイズ はちゃめちゃパティシエしゅぎょう
すずのまたたびデイズ はちゃめちゃパティシエしゅぎょう』(原作:トロル、文:井上亜樹子、絵:雛川まつり/ポプラ社)

おしりたんていスピンオフシリーズ第1巻。 主人公はラッキーキャットのすず! おしりたんていファイルシリーズから数年後。 ラッキーキャットの手伝いを続けるすずは、自分のやりたいことがわからず、もんもんとする日々。そんなとき、学生時代からの親友・あずきにさそわれ、もう一人の親友・グレねえと3人でルームシェアをすることに! あずきのかんちがいで実は超高額だった家賃を支払うために、アルバイトにあけくれながら、なかよし3人組の新生活(またたびデイズ)がはじまる!

すずのまたたびデイズ はちゃめちゃパティシエしゅぎょう

「ぎょ――ん♡」

「うわあああああ!」

 すずはさけんで、あやうくブランコから転げおちるところでした。

 けれどグレねえは、植えこみからあらわれたものの正体を、冷静につぶやきます。

「あずきじゃないか」

 よく見ると、それはあずきでした。

 あずきもまた、高校から付き合いの続いている友だちです。すず、グレねえ、あずきは、なかよし3人組なのです。

「やほー」

 あずきはショートカットのかみをゆらして、ガリガリと小豆の棒アイスを食べています。幕の内弁当のイラストが入ったTシャツには、植えこみでついたと思われる葉っぱが点てんとくっついています。

 すずはホッとしましたが、おどろかされたことがちょっとくやしくて、強い口調で言いました。

「あずき! びっくりさせるなよ! なんでそんなとこから出てくるんだよ!」

「うーん、道にまよったんだっけ?」

 あずきは自分のことなのに、すずにそうたずねます。

 公園の植えこみから出てくるなんて、どういう道のまよい方だろうとすずは思いました。でも、あずきの不思議な行動はいつものことなので、納得するしかありません。

 あずきは、小豆アイスをたいらげて言いました。

「そんなことより、きいてよ! あたしね、ルームシェアをしたいの!」

 すずとグレねえは顔を見あわせました。とつぜん、なんの話でしょうか?

 こまった顔のふたりを気にもとめず、あずきはひとりで続けます。

「だって、あたしとすずちゃんとグレねえの3人だけでおうちを借りて住むなんて、絶対楽しそうでしょ!? ううん、楽しいだけじゃなくって、ときにはきびしく、苦あれば楽あり、笑いありなみだあり! そんな生活をしたい! したいったらしたーいの!」

 あずきはいきおいよく、そうまくしたてると、すずにグッと顔を近づけます。

「ねえねえ、いいでしょ? ルームシェアしようよ! あたし、絶対やりたいの!」

 そう言うあずきの目は、キラキラとかがやいています。

 すずは言いました。

「……それがあずきの、やりたいこと?」

「うん!」

 あずきは頭がとんでいってしまいそうなくらい、力強く、何度もうなずいてみせます。その確信に満ちたようすに、すずはつぶやきました。

「あずきはすごいなあ!」

「え?」

「だって、『やりたいこと』がそんなにはっきり決まってんだもん。あたいもグレねえも、それがなんなのかわからないでいるのにさ」

 グレねえも同意するようにうなずきます。

 でも、あずきは、すずの言っていることの意味がよくわからないようです。

「……そんなことより、ルームシェア、するの? しないの?」

 すずは、少しまよいました。

 友だちだけでくらすなんて、そんなことができるのでしょうか?

 それに、両親はなんと言うでしょうか。

 けれど、グレねえはあっさりとあずきに言います。

「わかったよ。アンタのやりたいことに、まきこまれてやるさ。アタシのやりたいことが見つかるまでね。どうせほかに行く当てもない」

 すずは、まだまよっています。

 けれどそのとき、さっきグレねえに言われたことばがよみがえりました。

 ――もっと外の世界のことを知ったら、やりたいことが見つかるかもしれないよ。

 そのことばが、すずの背中をそっとおしました。

「あたいも……ルームシェアしてみようかな」

 ふたりのことばをきくと、あずきの顔がパアア……とばら色にかがやきます。

「わあああい!」

 あずきは、その場で大ジャンプしました。

 そのひょうしに、持っていたアイスの棒がふっとんで、すずのおでこにカツンと当たります。

「いでっ!」

 けれどあずきは気にもとめず、ポケットからなにかを取りだしました。

「じゃあコレ、ふたりのね!」

 見るとそれは、2本のかぎでした。おしりの部分が大きな輪っかになっていて、そこに赤いリボンが結んであります。

「なんだこれ?」

 すずがたずねました。

「ヤダな~。どう見てもおうちのかぎでしょ?」

 あずきは当然という顔をしています。

すずのまたたびデイズ はちゃめちゃパティシエしゅぎょう

 グレねえは、まゆをひそめて言いました。

「まさか、もうどこに住むか決めてあるのかい?」

「うん!」

 あずきはまた、頭がふっとんでいきそうないきおいでうなずきます。

 すずとグレねえは、一瞬ことばを失いましたが、ふたり同時に言いました。

「はやっ!!」

 どうやら、お引っこしはすぐのようです。

 

 それから、数日後のこと。

 ラッキーキャットのマスターの顔は、なみだと鼻水でぐちゃぐちゃになっていました。

 今ラッキーキャットの前には、あずきとグレねえ、それに不動産会社のサビオを乗せた車がとまっています。

 そう、今日は引っこしの日。すずも、ラッキーキャットとはしばらくの間さようならです。

 マスターは、もう何度目になるかわからないセリフを口にします。

「ああ、お前がいなくなるなんてさみしいなあ。本当に友だちだけで、くらしていけるのかい? もしこまったことがあったら、いや、なにもなくても、いつでも帰っておいで」

「大げさだなあオヤジ。引っこしって言っても、となり町なんだから、泣くことないだろ」

 すずはあきれ半分に言いました。

 マスターは、ふろしきに包まれた四角いものを、すずにわたします。

「おなかが空いたら、これを食べなさい。お友だちの分もあるからね」

 どうやら、お弁当のようです。

「ありがと!」

 すずは、それを受けとって、軽やかに車へ乗りこみました。

すずのまたたびデイズ はちゃめちゃパティシエしゅぎょう

「ごあいさつはすみましたか?」

 サビオがたずねます。すずがうなずくと、車は走りだしました。

 ふりかえると、どんどん小さくなっていくマスターが、いつまでも手をふっています。

 すずは軽く手をふりかえすと、さっそく、ふろしきを開きました。

 りっぱなお重のお弁当です。メインのオムライスには、ケチャップで「けんこうだいいち」と書いてあります。

 バックミラーにうつるマスターのすがたは、もう豆つぶほどの大きさになっていて、手をふっているのかどうかもわかりません。

 すずはじんわりと、目頭が熱くなるのを感じました。

すずのまたたびデイズ はちゃめちゃパティシエしゅぎょう

<第3回に続く>

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