『リュウジ式悪魔のレシピ』『わけあって絶滅しました。』…敏腕編集者たちの叡智が詰まった、“ゼロからわかる”本作りのススメ

文芸・カルチャー

更新日:2022/12/2

いつもよりも具体的な本づくりの話を。
いつもよりも具体的な本づくりの話を。』(北尾修一/イースト・プレス)

 記事のタイトルと、紹介されている本のレビューを読もうと各リンク先からボタンを押し、このページへ辿り着いてこの文章をお読みいただいているあなたはおそらく本が好きで、書店へもよく足を運ぶ方だろうと思う。もしかしたら「自分で本を出してみたい」と考えている方や、出版社でより良い本作りをしたいという向上心をお持ちの編集者かもしれない。『いつもよりも具体的な本づくりの話を。』(北尾修一/イースト・プレス)は、まさにそんな人のための一冊だ(もちろんそれ以外の方も最後までぜひどうぞ)。

 本書は百万年書房という出版社をひとりで立ち上げた編集者の北尾修一氏が聞き手となり、2020年7月から2021年4月まで各社の凄腕編集者を招聘してノウハウを聞き出す連続トークイベント「いつもよりも具体的な本づくりの話を。」のエッセンスを凝縮したものだ。このトークは当日限りで、配信やアーカイブ化もされなかったため、参加者以外は知り得ない門外不出の内容であった。

 登場する編集者は、『リュウジ式悪魔のレシピ』(リュウジ/ライツ社)を担当した大塚啓志郎氏、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(山田真哉/光文社)を担当した柿内芳文氏、『わけあって絶滅しました。』(丸山貴史:著、今泉忠明:監修/ダイヤモンド社)を担当した金井弓子氏、『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(國友公司/彩図社)を担当した草下シンヤ氏、出版社「生きのびるブックス」を立ち上げた篠田里香氏、『はじめての』(島本理生、辻村深月、宮部みゆき、森絵都/水鈴社)を担当した篠原一朗氏など、本や書店が好きな方なら「ああ、あの本の!」となる本を企画・編集した方ばかりだ。

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 しかし「ミリオンセラーを出す!」「ベストセラーになる!」「必ず売れる本を作る!」という鼻息の荒さはほぼない、というのが本書の特徴である。あくまで「本を作る(企画、編集、販売まで)とはどういうことなのか」が具体的に、順を追って懇切丁寧に解説されるのだ。

 本とは何か、編集者とは何をするのかという基礎から始まり、企画の立て方、企画書の書き方、タイトルの考え方、依頼する作家への手紙の文例、出版契約書について、本の構成の組み立て方、締切の設定や事実関係の確認、ビジネスとして不可欠な予算の組み方、デザイン・装丁に関すること、入稿や校正などの編集作業、プロモーションについて、さらにはトラブルシューティングまでを網羅し、「本を作る行程」をしっかり見せ、そこで必要となる敏腕編集者たちの貴重な体験から導き出された解決法が伝授される。この発言が膝を打つことしばしで、中でも『一日がしあわせになる朝ごはん』(小田真規子:料理、大野正人:文/文響社)を担当した谷綾子氏のタイトルをめぐるやり取りは痛快だった。まず本のタイトルが浮かび、アイデアがあったそうだが……

 編集会議では、「一日がしあわせになる」という部分がふわっとしている、弱いと思われていました。そこで「実用的な情報を入れてほしい」とか、いろいろ言われましたけど「入れます」と言って、会議さえ切り抜けられれば、後は好きにしちゃって大丈夫かなと(笑)。

 かように無事企画を通し、結局最初のタイトルで決定したそうなのだが、これはもう圧倒的にやり方がズルい。しかしせっかくのアイデアを、上から目線の偉い人やリスクを嫌がる人たちがあーでもないこーでもないと手出し口出ししてダメになる、ということはどんな仕事にもある。自分が「面白い」と思う企画を通すには、このくらいの胆力が必要なのだ。また著者の北尾氏は、自分が作る本でどうしても一度使いたい一文があると本の中で書いているのだが、それをきっちりと本書で達成している“仕掛け”にも完全にしてやられた。そして自分が読みたい、面白い本を作るための思考法は、本好きや本を作る人だけでなく、働く人すべてにも効いてくる内容だ。正攻法だけではとても思いつかない、「なるほど、こういう考え方があるのか!」という気づきも詰まった一冊であった。

文=成田全(ナリタタモツ)