千利休や維新の志士たちが持っていた頭のよさは「情緒に流されない力」だった/本当の頭のよさを磨く脳の使い方
更新日:2022/12/7
今日の正解が、明日は不正解かもしれない時代。不透明な世の中を生き抜くためには「本当の頭のよさ」が必要かもしれません。
脳科学者の茂木健一郎さんは「情緒に流されない力」「地図を読み換える力」「アニマルスピリッツ」「妄想する力」の4つが「本当の頭のよさ」の源泉だといいます。
『本当の頭のよさを磨く脳の使い方』では、アインシュタインからイーロン・マスク、マーク・ザッカーバーグまで、歴史に名を残す天才や世界的起業家たちを分析し、脳科学から「本当に頭がいい人」になる方法を解き明かします。
問題を正しくとらえて解決する「情緒に流されない力」はなぜ必要なのでしょうか。
※本作品は茂木健一郎著の書籍『本当の頭のよさを磨く脳の使い方』から一部抜粋・編集しました
「本当の頭のよさ」は日本的でないものから生まれる
「はじめに」で、いま、必要な「本当に頭がいい人」が持っている力は「情緒に流されない力」「地図を読み換える力」「アニマルスピリッツ」「妄想する力」の4つだと提示しました。
まずは、「情緒に流されない力」がなぜ必要なのかについてお話しします。
僕はケンブリッジ大学で研究員として働いていた時期があります。その後はソニーのコンピュータサイエンス研究所のリサーチャーをしています。さて、イギリスのケンブリッジ大学と日本のソニーの研究所、この2つは全く違うもののように見えるかもしれませんが、実は共通点があります。
それは、日本の人からすると、ものすごく変わった人ばかりいるということ。
ケンブリッジなんて、それこそノーベル賞やそれに匹敵するような賞をもらった学者の先生がゴロゴロいるわけです。その先生たちがみんな思い思いの格好で自転車なんか乗っていて(構内は広いですからね)、目が合うと「よう」と手を上げてくれたりするわけですが、なんだかすごく、変なんです。
想像してみてください。たとえばニュートリノ観測に世界ではじめて成功し、カミオカンデ、スーパーカミオカンデをつくったノーベル物理学賞受賞者の小柴昌俊先生が、そこらへんをふらふら歩いていて、知り合いでもない20代に「よう」とか言うでしょうか。日本ではまずあり得ない光景です。
ソニーの研究所でも、たとえばミーティングのときに、話している人のほうを向いてじっとしている人なんかいません。
まだノートパソコンがバイブルみたいな厚さだった時代にみんなノートパソコンを持っていて、ミーティング中もずっと画面を見ていたりする。あいさつだってろくにしない。多分、日本の普通の会社なら始終叱られどおしだろうな、という感じの人が集まっている。
でも、その人たちが何か特定のテーマについて話し合うときなどはものすごくスマートなんです。相手を尊重しつつ、論理的に議題を共有、検討することができる。30年前は僕だってまだ若くて、要するに若造なわけですが、日本なんていう地の果てから来た若造に、あるいは研究所でも下から数えたほうが早いくらいの若い後輩相手に、まるで長年の親友と語り合うかのように、しかも無駄なく、要点を押さえ、理路整然と話してくれる。これが本当の知性だと思うのです。
ケンブリッジ、ソニーの研究所と、いわば「本当の知性の集合体」のようなところにいた僕は、ある日、その外側の世界に出て驚きました。
たとえば政府の公聴会や委員会での杓子定規で、お役所的な答弁。
テレビに出るようになってからは、テレビ局の旧態依然とした仕事のやり方やパワハラ・セクハラ的な人間関係、同調圧力で笑いを取ろうとするコメディのセンス。
何より「民意」といえば格好がいいですが、国民の感情的な反応で変わってしまう政策やメディアの論調。
「あれー? 日本って、まだこんな感じなんだ」と思ったわけです、正直なところ。
これはまずいぞとも思いました。日本の大学の学生と話しても、ケンブリッジの学生とは全然違う。こんなことで世界と渡りあえるのかな……と疑問を感じてから20数年、あれよあれよという間に国際社会における日本の存在感は薄れてしまいました。
なぜだろうと考えたとき、その原因には「日本的なもの」とそれに基づいた日本の教育があるということは明白でした。