わずか5行で衝撃体験…「文字だけの本」がニガテな人へのショートショートのススメ
更新日:2022/12/5
私は少年ジャンプ黄金期に小学生時代を過ごし、漫画ばかり読んでいた。文字だけの物語にふれるといえば、国語の教科書に載っているものだけ。絵がないと、進んで読む気にはなれなかった。
そんな私は、中学1年生のとき、部活の帰り道で友達に“ショートショート”なるものを勧められた。数ページ、ものによっては1ページ以下の話がいくつもまとめられた本らしい。さすがに数行なら、息を止めて水に顔をつけるくらいの覚悟で読めるかもしれない。文字だけの本もオトナになる過程では読めるようにならないといけない…と薄々感じていたタイミングでの紹介に、乗っかってみることにした。
友達が貸してくれたのは、『にぎやかな未来(角川文庫)』(筒井康隆/KADOKAWA)。SF要素がたっぷりの、オチが必ず読者を裏切ってくれる短編集。私はまず目次に目を通した。できるだけ短い話から読んでみよう…。そして、巻末のほうに掲載されている「到着」で目が留まった。ページ番号は220。次の話「遊民の街」は221。220ページを開いてみると、「到着」のタイトルに続いて、文が5行あり、紙面の左半分は真っ白に空いている。次のページからは、別の話「遊民の街」が始まる。
これが、友達が言っていた数行の話か、と思うと同時に、1行目に目がいく。
とつぜん地球が、なんの前ぶれもなく「ペチャッ」という音をたてて潰れた。
突然なんだ。次が気になる。
太陽も「ペチャッ」と(~中略)
3行目は
月も土星も、(~中略)
そして、5行目には、今まで想像もしていなかった宇宙観が広がり、あっけにとられてしまった。
わずか145文字。それだけで、頭の中に、これまでになかった不可思議な宇宙像が出来上がり、脳にこびりついた。このときの衝撃は、30年近く経った今でも忘れ得ない。
それから私は、筒井康隆氏の著書を読み漁り、星新一氏を知って、しばらくの間、ショートショートに明け暮れた。気付けば、文字を読むのに息を止めるくらいの覚悟は必要なくなっていた。そして、今では端くれながらちょっとした文を書く仕事をしている。
天にいる友達に、あらためて感謝したい。ありがとう。
文=ルートつつみ
(@root223)