読書家から熱い支持される書評誌『本の雑誌』誕生秘話。若き頃の椎名誠・目黒考二による奮闘が漫画で蘇る!

マンガ

更新日:2022/12/6

黒と誠 〜本の雑誌を創った男たち
黒と誠 〜本の雑誌を創った男たち』(カミムラ晋作/双葉社)

1976年の創刊以来、唯一無二のユニークな書評誌として多くの読書家たちから熱く支持されている月刊誌『本の雑誌』(本の雑誌社)。本についての個性的な読み物の数々と沢野ひとしさんのシンプルで味のあるイラスト…ページをめくるたびに「本への愛」がほとばしる同誌は、現在、作家や映画監督として活躍する椎名誠さんと北上次郎名義でも知られる書評家・目黒考二さんが中心となって立ち上げた。いまやビッグネームなお二人が、若き頃の「本が好き」という情熱を形にしたのが同誌の出発点なのだ。そこにはどんなドラマがあったのか――コミックス第1巻が発売され、双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」で連載中の『黒と誠 〜本の雑誌を創った男たち』(カミムラ晋作)は、そんな『本の雑誌』誕生当時の秘話を描いている。

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黒と誠 〜本の雑誌を創った男たち
黒と誠 〜本の雑誌を創った男たち

『黒と誠』が底本にしているのは、椎名誠さんの『本の雑誌血風録』(新潮文庫)と目黒考二さんの『本の雑誌風雲録』(角川文庫)。さらに関係者への取材などもプラスして、きっちり史実を追っていく。作画をつとめるのは読書好きのドヤンキーたちを描く異色の学園ギャグ漫画『どくヤン!』(左近洋一郎:原作)で読書界を驚かせているマンガ家のカミムラ晋作さんだ。

1970年代初頭、若くして業界雑誌『ストアーズレポート』の編集長として「みんなで本を作るという目標に向けて邁進する瞬間」を楽しんでいた26歳の椎名誠さんは、ある日、副編集長の菊池さんから「破綻した男」といわれる目黒考二さんを紹介される。「本が読めない」ことを理由に会社を3日で辞めてしまったという目黒さんは、椎名さんの会社が出していた求人に応募したいというのだ。実際会ってみると予想以上に曲者の目黒さんに、なぜか惹かれた椎名さんは、目黒さんの採用に向けて尽力。目黒さんは無事に入社するが、案の定すぐに辞めそうになる。そんな目黒さんに「1年だけおれに体をあずけてくれないか」と必死で引き止める椎名さん。その言葉を意気に感じてなんとかがんばる目黒さんだったが、半年ほど経ったある日、「いい天気なので会社を辞めたい」と退職を願い出る――。

黒と誠 〜本の雑誌を創った男たち
黒と誠 〜本の雑誌を創った男たち

一体、こんな不穏すぎる中から『本の雑誌』はどうやって生まれるのか? このほど発売されたばかりのコミックス第1巻では、こうした二人の出会いから、沢野ひとしさん、双葉社の敏腕漫画編集者・本多さんなどのキーパーソンも続々登場し、『本の雑誌』第1号を出版するまでが描かれている。バディもの的な面白さや、わちゃわちゃした若い疾走感など、漫画らしいエンタメ性もプラスされて、すでに『本の雑誌』の歴史を知っているという方はもちろん、その存在を知らなかった人でも新鮮に楽しめるのではないだろうか。

なお、巻末には「本の雑誌 現役社員座談会」のおまけ漫画もあり、現役の「中の人」だからこその興味深いコメントも紹介されている(ちなみにその「中の人」たち自身が『本の雑誌』最新号(12月号)で「『黒と誠』の謎と真実!」を特集中だ)。あわせて読めば、よりディープに楽しめるのは間違いない。

文=荒井理恵