ソフトバンクホークスを支えてきた本多雄一が語る、『選ばれる人』の持つ思考法とは

スポーツ・科学

公開日:2022/12/10

選ばれる人になるための習慣
選ばれる人になるための習慣』(本多雄一/KADOKAWA)

 プロ野球選手としてソフトバンクの黄金時代を支え、盗塁王、ベストナイン、ゴールデングラブ賞など数々の栄光を飾ってきた本多雄一氏。学生時代からずっとキャプテンを務め、ソフトバンクホークスでは選手会長も務めてきた人物だ。33歳で現役引退後は、異例の抜擢で即一軍コーチに就任し、当時のNPBで最年少コーチとなった。

 常に評価され指名されてきた本多氏は、自身の著書『選ばれる人になるための習慣』(KADOKAWA)でこれまで身につけてきた習慣についてこう話している。

ソフトバンクホークスを支えてきた本多雄一が語る、『任される人』の持つ思考法とは

「これまでの経験も今の環境も当たり前なんてことはひとつもない。僕の場合は大ケガの代償が習慣化への意識づけだったのかもしれない。両親が厳しかったこともあるが、多くの方々と出会いや環境の中で、その時折に身についた礼儀や挨拶といった習慣によって僕の今があると思います。もちろん習慣だけが全てではない。しかしこの習慣に一つひとつの積み重ねで結果的にプロの野球選手に選んでいただき、コーチという立場にも恵まれたと思っています」

 同書で本多氏は、選手としてコーチとして、そして社会人として継続してきた大切なこと、について野球人生を振り返りながら語っている。“選ばれる人”“任される人”になるための思考について、本書からその一部を紹介したいと思う。

advertisement

恵まれた出会いは、そこにある

 選手時代、僕にはたくさんの出会いがありました。アマチュア時代に指導していただいた方々、そこで僕を見つけていただいた方たち、プロの指名を決めてくれた方、プロ野球に入って指導や助言をいただいた監督、コーチ、先輩やスタッフの方々……。どれも、かけがえない出会いであり、僕の成長に不可欠だったと思います。

 恵まれた選手人生だったと思っています。

 でも、恵まれたのは僕だけだったのか、と考えると、そうでもない気がします。

 たしかに、プロに入って最初の監督は野球人にとって神様のような存在である王貞治さんです。最初に指導いただいたのも、名コーチの森脇浩司さん。

 プロ入り初めて影響を受けたのがムネ(川﨑宗則)さんだったことも、僕にとっては幸運でした。そして、その後も目の前には後に球界のレジェンドと呼ばれる方々がいらっしゃいました。

 しかし、これは決して僕だけが出会いに恵まれていたわけではありません。当時のホークスの全ての選手に与えられた、貴重な恵まれた環境でした。

 指導者や上司の存在を考えたとき、たしかに、実績のある方の言葉は重い。実際に数字として輝かしい成績を残してこられたのですから、信頼できるでしょう。相手を尊敬できる分、言葉が素直に入ってくるし、聞いている側が受け止めようとするからです。

 でも、そこまで実績のない人の、何気ない一言でハッと気づくこともあります。

 ドラマやマンガの世界では、劇的な出会いによって、すべてが変わるストーリーがよく描かれます。そこにあこがれて、
「自分には出会いがない」
そんなことを言う人もいます。

 でも、本当はもう、出会っていることも多い気がします。

 出会いの先で人を敬い、大切にすることでその恵まれた環境に気づけるはずです。それがまだできていない間は、気づけないことになります。

 気づけないのも理解できます。

 僕は自分が親になってはじめて、両親の言ってくれた言葉の意味がわかってきました。
「もっと早く気づけば…」
「あのときにやっておけばよかった」

 子どものころに勉強しなさいと言われていたその言葉の本当の意味を、あるときに理解したという方も多いでしょう。

 でも、過去は変えられません。

 ならば、振り向いても仕方ありません。大事なのはその過去をどう捉えるかであって、それ次第で未来を変えることができるということです。

 そして、その後悔を繰り返さないために、目の前の出来事や出会いを大切にし、耳に入ってくる言葉の本質と向き合うことが重要だと考えます。

 助言を素直に聞く人、ちょっと聞く人、聞かない人、いろんな人がいます。

 聞かない人は、出会いを待っているのかもしれませんが、その出会いはすでに起きているのかもしれません。

 その人が経験することで、その助言が後になってわかるときもきます。
 ずっと、そんなことを繰り返すのです。
 だから、経験して、気づくことを大事にしてほしいし、自分の立場や立ち位置を考え、自己評価してほしい。

 自分を知って、自分の道を自分で歩いてほしい。

 恵まれた出会いがあったと、いつか言えるようになるはずです。

自分を知って、自分の道を自分で歩いてほしい

悪い習慣ほどすぐに身につく

 習慣が大切であることは、誰しも小さいころから言われ続けてきたことで、理解はしているはずです。

 しかし、習慣という概念は人それぞれ違い、答えがぼやけやすいものです。

 そして、価値観や考えは、日々の生活や経験によって小さく変化していくもの。気づかない間に、別の考え方をしていることさえあります。

 よい習慣を身につけるのが困難であることは、何度か説明してきました。そのためには、未来を描き、そこに喜びを見つけ、そのビジョンを実現するために目の前の負荷を乗り越えていくという作業が必要です。

 それがよい習慣になっていくわけです。

 ダイエットを例にすれば、未来の自分をイメージし、変わった自分でやりたいことがハッキリしている人ほど、毎日の運動を続け、飲食などを律していけるもの。未来を信じているから自分を強く保てるのです。

 つまり、よい習慣というのは、自分で意図して身につけるもの、と言い換えることもできます。

 しかし、世の中には、その障壁となることも多い。人間というのは、潜在的に楽をしたいところがあるからです。

 もちろん常に自分を締め付けて生きる必要はありません。楽しいことを見つけ、それに没頭する時間があってもいいですし、息抜きも、遊びも何も悪くありません。

 でも、やるべきことがあるときに、楽な方向に逃げてしまう。ちょっとくらいいいだろう、と思ってしまう。なんとなく、それを続けているうちに、それが当たり前になってしまうのです。

 そして、何か問題が起きたときにはじめて気づく。

「ああ、悪い習慣が身についてしまっていた」

 よい習慣は意図して努力を続け、刷り込むようにして身につけるのに、悪い習慣は、意図せずにすぐに身についてしまうのです。

 だからこそ、努力を続けている中に訪れる小さな岐路で、方向を見失わないようにしたいのです。小さな妥協をしていないか、それを続けてしまっていないか、そんな視点です。
小さな逃げや妥協は、気づきにくいもの。毎日、たった1センチ動いても、景色の変化には気づきません。それが積み重なって大きく動いてしまっていても、昨日との違いが少ないので、やはりわからないものなのです。

 自分がブレてしまわないためにも、よい習慣を大切にし、あるべき自分を再確認するのです。ただし、何かのきっかけがなければ、その視点にはなかなか立てません。よい習慣が生んでくれたものに感謝し、ときには自分をほめてあげましょう。

 そうすることで、方向を見失っていないことを再確認するのです。

 よい習慣は、悪い習慣から自身を守ってくれる防波堤でもあるのです。

よい習慣は、悪い習慣から自身を守ってくれる防波堤でもあるのです

【著者プロフィール】
本多雄一
1984年11月19日生まれ。福岡県大野城市出身。2005年より福岡ソフトバンクホークスに入団。ソフトバンクの黄金時代を支えたリードオフマン。現役時代の主なタイトルは盗塁王2回、ベストナイン1回、ゴールデングラブ賞2回。愛称は”ポン”。多くのファンに惜しまれながら2018年に現役を引退し、2019年より内野守備走塁コーチを務める。2012年より嬉野市観光大使としても活躍している。