「々」は何と読む? 国語辞典の編集者が“悩ましい”と思う言葉のあれこれ

文芸・カルチャー

公開日:2022/12/9

悩ましい国語辞典
悩ましい国語辞典』(神永曉/KADOKAWA)
さらに悩ましい国語辞典
さらに悩ましい国語辞典』(神永曉/KADOKAWA)

「々」は何と読むのだろうか? 色々、人々、などと前の字を続けていることを表す時に使う“あれ”だ。

 年末年始は、挨拶文など文章を書くことが多い時期だなあと、『悩ましい国語辞典』(神永曉/KADOKAWA)と続編の『さらに悩ましい国語辞典』(神永曉/KADOKAWA)という文庫を読み直していたところ、上の疑問が掲げてあったのだ。本書の著者は、36年以上にわたって国語辞典の編集に携わってきた神永曉氏。氏が辞書を作る中で感じた、“悩ましい”言葉たちを集めたものになる。

 さあ、ベテランの辞書編集者を悩ますあれこれを見ていこう。

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「々」は何と読むのか?

「々」の読み方といわれると、いつも使っている字なのに、読めない。

 著者によると、これは「のま」と呼ばれる「記号」とのこと。漢字ではなく、「記号」だ。記号だから辞書には載っていないのだ。

 ところが、著者のもとには、読者から「々」を見出しとして載せてほしいという要望が、少なからず届くという。著者は悩む。

「々」は「のま」と呼ばれ、パソコンでの入力は「どう」「おなじ」「くりかえし」「おどりじ」と入れると出てくる。だが、記号なので「読み」がない。読みがないから、国語辞典のどこにも入れようがない。漢和辞典も、載せていないものが多いという。

 結論:「々」は、漢字ではなく記号だから読み方はなし。呼び方は「のま」。

「◯ヶ月」の「ヶ」は、カタカナの「ケ」か?

「1ヶ月」と書く時の「ヶ」は、ひらがな「か」とカタカナの「ケ」のどちらを使えばいいのか、という質問を受けた著者。彼はまた悩む。

 実は、「ヶ」はカタカナではなく、文字でもない。一種の符号であり、「カ」と読むことができる、という何とも定義の定まらない存在だ。悩んだ結果の著者の答えは、次のようなものだ。

 結論:「1ヶ月」「1か月」のどちらも正しい。だが、国や公共団体が出す文章では、「か」を使うことになっていることに注意。

学校の時間割、「1時間目」か「1校時目」か「1時限目」か?

 辞書には載っていないが、「学校方言」というものがあるらしいと、著者はこの日も“悩ましい”。

 あなたの通っていた学校は、「1時間目」だっただろうか? それとも「1校時目」だっただろうか?

 著者は千葉県出身で、小学校では「◯時間目」を使い、中学校では「◯時限目」を使っていたそうだ。だが、ある時、山梨県や島根県邑南町では「◯校時目」を使うということを知り、共通の言葉ではないことを意識したという。より詳しく調べてみると、「校時」は「東北・山梨・中国地方・長崎・宮崎・鹿児島などで多く使われる」という論を発見。

 小学校の午前中にある休み時間の呼び方も、「中休み」「中間休み」「業間休み」と地域色があるという。他にも「学校方言」には、文具や用具の呼び方、学校内の係の名称、授業の始まりの時の号令のかけ方にも表れるそうだ。一生の思い出と共に記憶に根付く言葉であるにもかかわらず、辞書には載らない言葉のオンパレード。意外だ。

 結論:どれも正しく、地域による。「学校方言」か。

 年末年始に向けて読み直した本書だが、勉強というよりも、かっちりと定義できていないものの面白さに注意が向いてしまうという楽しい時間だった。プロである著者でさえ“悩ましい”のだから、言葉の世界は意外に揺れのあるものなのかもしれない。意味が時とともに変化していったり、記号が漢字のような顔をして使われていたり……。

 どうやら、わたしたちは日々、やわらかで変なものを、話し書いているようだ。

文=奥みんす