『らんま1/2』『名探偵コナン』『犬夜叉』…あのキャラもこのキャラも、実は彼が演じていた!! キャラへの愛を惜しみなく語る、声優・山口勝平初の著書

アニメ

公開日:2022/12/13

勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史
勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』(山口勝平/主婦の友インフォス)

『らんま1/2』の早乙女乱馬、『名探偵コナン』の工藤新一、『犬夜叉』の犬夜叉、『ONE PIECE』のウソップ……数々のアニメ作品の人気キャラクターたちの声を担当してきた声優の山口勝平さん。19歳で役者を目指し、福岡から上京。24歳で声優デビューして以来33年間、声優業界のトップランナーとしてひた走り続けてきた。

 80年代から2020年代まで、山口さんが出演したテレビアニメや映画の中から50本、50キャラクターを厳選して語りおろした著書、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』(主婦の友インフォス)が好評発売中だ。全4章の構成で、各キャラたちを描いた挿絵もなんと著者自身が手がけている(これが普通にうまいのだ!)。

 はじまりとなる第1章「声優・山口勝平誕生」では、なんといっても『魔女の宅急便』のトンボ役に大抜擢された経緯と、同時期に『らんま1/2』の主役に選ばれたエピソードが印象に残る。当時の著者は劇団21世紀FOX(肝付兼太氏主宰)の団員であり、自分はあくまでも舞台役者、声優の仕事は役者人生の中のほんの1ページ程度となるのだろうと捉えていたのが意外だった。

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 それが、初のテレビ作品『らんま1/2』で160話以上にわたって乱馬役を演じきったことで、声優としてやっていこうと意識を改める。

 本書内で著者は自分の演じた全てのキャラを、愛情をもって語っているが、乱馬役は「最も大切なキャラクター」と述べている。乱馬を演じたことによって、少年役をやるにあたり「カッコよく演じない」と心がけるようになった点や、声の演技の面白さへの目覚め。林原めぐみ、日髙のり子ら同世代の共演者から受けた刺激。とりわけ、多くの声優を見出してきた録音監督・斯波重治氏から叩き込まれた厳しくも熱心な指導のくだりは胸を打つ。

 役者から声優へと己の道を切り替えて、色々なキャラクターに挑戦して役柄の幅を広げていく第2章(「つながり」)。ライフワークとなる『ルーニー・テューンズ』のバッグス・バニーとの出会いや、人形劇への参加を通して子ども向けの作品に興味が湧いた第3章(「子供たちのために」)。第4章(「さらなる挑戦」)では、より表現力を身につけるため50歳を過ぎて落語を学びはじめたこと、役作りに悩み抜いた異質の役柄『DEATH NOTE』エルへの思い、さらにBL作品の魅力と可能性にも言及している。年齢とキャリアを重ねるにつれ、守りに入るどころか、どんどん先鋭的になっていく著者の姿が浮かんでくる。

 著者が尊敬する先輩の野沢雅子さんとの往復書簡に、30年来の仲である盟友・高木渉さんとの対談も掲載。父と同じく声優となった長男・山口竜之介さんと長女・茜さんのインタビューも収録され、家族の目から見た「山口勝平」像も興味深い。

 著者は自身について語るのではなく、自身が演じてきたキャラクターたちの個性や長所、欠点まで含めてあたたかい眼差しで見つめ、愛情を込めて語っている。その語り口からにじんでくる優しさと鋭い観察眼、演じることへの尽きせぬ好奇心――。本書の副題が示すように、まさにこれは声優・山口勝平の歴史を綴った1冊となっている。

文=皆川ちか