『閃光のハサウェイ』で表現された、モビルスーツの「怪物感」の正体――小形尚弘(エグゼクティブプロデューサー)インタビュー
公開日:2023/2/5
2021年6月11日より全国公開され、興行収入22.1億円、観客動員108万人超(※2021年11月14日時点)を超える大ヒットを記録した『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』。本作は『機動戦士ガンダム』の生みの親、富野由悠季さんが1989~1990年に執筆した小説『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』全3巻(上・中・下)を映像化した作品だ。本作の主人公はガンダムシリーズで活躍してきたかつての英雄ブライト・ノアの息子、ハサウェイ・ノア。彼はマフティー・ナビーユ・エリンと名乗り、反地球連邦政府運動に身を投じている。なぜ彼はマフティーを名乗るようになったのか。そのドラマが緻密に描かれている。
本作の劇場版アニメ化をプロデュースしたのは、サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の小形尚弘プロデューサー。ガンダムシリーズの原点である宇宙世紀を舞台にした『機動戦士ガンダムUC』、『機動戦士ガンダムNT』、富野由悠季総監督作品『Gのレコンギスタ』を手掛けてきた、ガンダムシリーズのメインストリームを担っているプロデューサーだ。
はたして小形プロデューサーはどんな思いで、この作品を作り上げたのか。村瀬監督に依頼した経緯、そして『閃光のハサウェイ』が従来のガンダムシリーズと違うところ、第2部『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ サン オブ ブライト』に掛ける思いを語っていただいた。
村瀬監督のフィルムを作ることに全精力をつぎ込んだ
――『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ(以下、『閃光のハサウェイ』)』の公開から1年以上。興行収入のみならず、Blu-ray Discの販売成績も大きなヒットとなっています。ここまで、小形プロデューサーはどんな手ごたえを感じていらっしゃいますか。
小形尚弘(以下、小形):おかげさまで興行収入が22.1憶円を突破しまして、Blu-rayの販売も18万枚を数えることになりました。ここ十年来、さまざまな劇場版がありましたが、今回は数字にこだわってさまざまなプロモーション展開をしたことで、ひとまずガンダムシリーズとしてポイントを作ることができたと思っています。
――『閃光のハサウェイ』の本編の制作からプロモーションまで、小形プロデューサーがこだわったところはどんなところでしたか。
小形:まず、プロモーションに関しては粘り強くやったという感じですね。『閃光のハサウェイ』はコロナウィルスの感染拡大の影響で公開日を3回延期しているんです(当初は2020年7月23日公開だったが、2021年5月7日に延期、その後5月21日に公開予定となったが、最終的に6月11日に公開された)。緊急事態宣言が出るとか解除になるとか、劇場がどんな状況なのか。毎日ニュースとにらめっこしつつ、関係者のみなさんに柔軟に対応していただいて、公開日までプロモーションを続けていくことができました。
本編の制作については、村瀬修功監督のフィルムを作ることを大事にしていました。村瀬さんが考えていることをしっかりと映像に込めることができれば、必ず良いものになると思っていました。完成したフィルムには、もちろん想定を超えるところがいくつもあったんですが、村瀬さんが考えていたことを実現するということに関しては、なんとか合格ラインに達することができたのかなと。ここに関しては、第2部以降ももっとたくさん、村瀬さんの考えているものをフィルムに入れていきたいと思っています。
――そもそも小形プロデューサーは『閃光のハサウェイ』という作品をどんなアニメーション作品にしようとお考えだったのでしょうか。
小形:僕は中学生のころに劇場版『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』を見て、その流れで小説の『閃光のハサウェイ』を手に取って、その内容にショックを受けた世代だったんですけど、就職でサンライズに入社することになり、そのときからいつか『閃光のハサウェイ』をアニメ化したいと思っていたんです。『機動戦士ガンダムUC』によってもういちど宇宙世紀を再始動させるということができましたし、『閃光のハサウェイ』が宇宙世紀の時系列では『UC』、『機動戦士ガンダムNT』の後の物語ということもあって(『UC』はU.C.0096、『NT』はU.C.0097、『閃光のハサウェイ』はU.C.0105~)、ちょうどいいタイミングになりました。
――今回、『閃光のハサウェイ』を作るために最初にお声がけをしたスタッフはどなたでしたか。
小形:最初に、声をかけたのは村瀬さんですね。村瀬さんは『UC』のときに絵コンテ(episode 5、7)や作画(episode 3、4、5、7)、特典の表紙(劇場限定版Blu-ray Disc特典・シナリオ小冊子の表紙)などをお願いして、次は一緒にがっつりと作品を作りたいなと思っていたクリエイターさんだったんです。村瀬さんはオリジナル作品も興味が強い方だと思うんですが、お話をしていると過去に参加された劇場版『機動戦士ガンダムF91』にやりきれなかった思いがあるのではと感じて、『閃光のハサウェイ』は、『F91』の監督だった富野由悠季さんが執筆された小説が元となる作品でもありますし、ならば受けてもらえるかもと思い、村瀬さんにとお願いしたところ、引き受けてくださったんです。
――小形プロデューサーと村瀬監督の出会いは『UC』の現場になるのでしょうか。
小形:そうですね。僕はサンライズに1997年に入社したんですが、そのときにサンライズの第1スタジオへ配属されたんです。当時はOVA『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』の制作をしていて、第3話を進めていました。『ガンダムW』のキャラクターデザインは村瀬さんが担当されていたんですが、僕がスタジオに入ったときには、現場にいらっしゃらなかったんです。最初にスタジオにいるスタッフのみなさんにご挨拶をしたら、『犬夜叉』のキャラクターデザインをされている菱沼(義仁)さんと『機動新世紀ガンダムX』のメカデザインをされていた石垣(純哉)さんがいらして。菱沼さんが「村瀬修功です」と自己紹介をされたんです。石垣さんは笑っているんだけど、僕には何のことなのかわからない。いつか、本物の村瀬さんにお会いしたいなと意識する最初の瞬間になりましたね(笑)。でも、そのあとにサンライズの野球部に行ったら、そこに村瀬さんがいらして。そこで「ああ、この人が」と。あの野球部にはいろいろなクリエイターさんがいらして、とてもおもしろいメンバーでした。お仕事をお願いしたのは、そこからだいぶ時間が経って『UC』のときが初めてとなります。
――村瀬監督のフィルモグラフィを拝見すると、ドライでハードな作風の作品もあります。小形プロデューサーは村瀬監督の作風とガンダムシリーズがどんなマッチングになるとお考えでしたか。
小形:やはり村瀬さんのフィルムで印象的だったのは『虐殺器官』ですね。戦闘シーンがシャープで暗い画面になっていて、もしかしたら『閃光のハサウェイ』でもそうなるのかなと思っていたら、実際に暗い画面になりましたね(笑)。そういう意味では、ガンダムシリーズにおいては新しい映像になると期待していました。あと、全般的にドライなテイストのフィルムを作られる方だなという印象がありました。ガンダムシリーズはウェットな部分も必要だと思っていたので、脚本にむとう(やすゆき)さんに入っていただき、富野由悠季さんの小説のウェットさをうまく活かしていくことで、ドライさとバランスをとっていくことができれば良いなと。
それから今回作品を作るにあたって、村瀬さんと「ガンダムシリーズ初見の方が見ても楽しめるものにしよう」という話をしていました。もちろんガンダムファンにも観てほしいと思っていましたが、小説の上巻はモビルスーツ戦が少なくてドラマが多めなんです。あえてガンダム的な方程式に当てはめて戦闘シーンを増やすのではなく、小説の感覚をしっかりと受け継ぐことで、逆にガンダム初見の方も見ごたえのあるものにしようと。画の美しさに惹かれて観ていくうちに「『ガンダム』ってこういう話なんだ」とわかってもらえる作品になれば良いなと思っていました。
――映像としては、ハサウェイ・ノアとギギ・アンダルシア、ケネス・スレッグの出会いとドラマを描く、瑞々しいフィルムになりましたね。
小形:そうですね。最初に富野さんに「村瀬さんを監督にして、『閃光のハサウェイ』の映画化をやらせてください」とお話しに行ったときに、何本か提示された映画があったんです。そのひとつが、三角関係をモチーフにした瑞々しい作品だったんですよね。おそらく、そういう部分は村瀬さんも意識していたんじゃないかと思います。それを観つつ、村瀬さんといろいろな話をして。「ガンダムシリーズや富野さんの作品は群像劇を描くことが多いけれど、『閃光のハサウェイ』は小説に描かれている、ハサウェイ、ギギ、ケネスの3人のドラマをしっかりと描こう」という方向性を定めました。それは村瀬さんの得意とする、キャラクターの深層心理に寄り添っていく演出も発揮されるんじゃないかと思っていました。
――ガンダムシリーズの生みの親であり、小説の著者でもある富野由悠季監督のテイストは、どのように活かしていこうとお考えだったんでしょうか。
小形:富野さんの小説の地の文があるので、それを他の方がシナリオにしようとしてもフィルムには富野さんのテイストは残るだろうと思っていたんです。ですが、むとうさんにお願いして、一度富野さんのテイストを削ぎ落としたシナリオを書いてもらったのですが、そうすると作品のおもしろさが急激にしぼんでしまう。そこで富野さんのテイストを足し引きしながらも、初見の方が観ても楽しめるバランスにしてもらいました。最終的に、村瀬さんが絵コンテの段階で、もう少し小説のほうに寄せて戻したのが今回の第1部になります。
ロケハンによる取材の成果を富野監督の手法を使って表現した
――今回、村瀬監督と小形プロデューサーは、作品の舞台となるフィリピンのダバオへロケハンに行かれていますね。
小形:富野さんはロケハンに行かないまま小説を書かれていたんですね。ガイドブックなどを頼りに、旧日本軍の進軍ルートを調べながら小説を書かれていたと思います。昨今はGoogle Mapなどのサービスもあるので、我々も具体的に調べることができるんですが、やはり現地に行ってみなくてはわからない空気感があります。当初はスケジュール的にロケハンに行かないつもりだったんですが、たまたま制作中に行った焼肉屋の店長さんがダバオに詳しくて。ロケハンに行きたいと言ったら、案内するよ、とおっしゃってくださったんです。それで急きょ、ロケハンに行くことにしたんです。
今回ロケハンに行って良かったなと思ったのは、ダバオの地理感や雰囲気がよくわかったことでしたね。とくに村瀬さんがおっしゃっていたのは「ダバオは山が近くに見える」ということでした。ダバオは海と砂浜がある場所なんですが、山にも取り囲まれていて、それがすごく近くにある感じがするんですね。そういう遠近感は、実際に足を運ばないとわからないものでした。あと、気温や湿度みたいな空気感も、とてもよくわかりました。富野さんが完成した『閃光のハサウェイ』をご覧になったときに「熱帯の暑さが表現されていない」とダメ出しをしてくださったんですね。でも、実際のダバオは気候の良い土地で、日本のゴールデンウィークの時期くらいの気温が一年中ずっと続いている地域なんです。もちろん地理的には亜熱帯、熱帯地域なので富野さんのご指摘のとおり、映像に暑さを感じるようなムシムシしたフィルターを重ねるというアイデアも良いんでしょうが、逆にそういう表現をしないことが本物のダバオらしさなんだろうなと。そのあたりは今回、ロケハンに行った収穫でしたね。
――ダバオ市街の建物の描写には、ロケハンの資料が活かされているのでしょうか。
小形:ダバオ市街に劇中に出てきた植物園のモデルになっている公園があるんですが、その植物園から街中へ行くシーンは、まさしくロケハンで行った市街地がそのまま使われています。本作は未来の話なので、ロケハンで入手した写真などの資料に加えて、未来を感じさせるデザインや素材を混ぜることで、独特な未来感を表現しています。あとはロケハンで訪れた建物が木材やコンクリートの壁であったとしても、劇中で登場するときはあえて未来の素材に置き換えて考えています。この手法は、富野さんが使っているスタイルで『F91』ではスペースコロニー内にヨーロッパ風のデザインの建物がたくさん出てきますが、実はその建物の素材は未来の最新素材だったりするんですよね。スペースコロニーで暮らしている人々は地球的なデザインにあこがれていて、ヨーロッパ風のデザインを高級なものだとして考えている。それであえて建物がクラシックなデザインになっているという背景があるんです。
これまでのスタッフと新しいスタッフが力を結集した第1部の制作
――今回、村瀬監督を中心にした現場を作るうえで、どんな方をスタッフィングされましたか。
小形:これまで村瀬さんの作品を支えてきた、美術の岡田(有章)さん(美術設定、美術ボード)であるとか、恩田尚之さん(キャラクターデザイン、総作画監督)といった方に参加していただきました。あと、今回、新たに参加していただいたスタッフとしてはpablo uchidaさんがいます。彼はもともと『Gのレコンギスタ』を作っているときに安田朗さん(メカニカルデザイン)から「めちゃめちゃ上手い人がいる」と紹介されたんです。それで描いているものを見せていただいて、『G-レコ』でイメージボードを描いてもらったんです。富野さん(『G-レコ』総監督)との相性も良かったんですけど、村瀬さんも相性が良いだろうなと。それで『UC』で現場に入っていただいていた村瀬さんにuchidaさんを紹介して、キャラクターをお願いしたんです。
――pablo uchidaさんとのお仕事はいかがでしたか。
小形:村瀬さんはひとつひとつしっかりとこだわられる方なので、どんなものに対しても一発OKということはなくて、何度も稿を重ねて推敲される方なんですけど、キャラクターデザインに関してはuchidaさんのアイデアがかなりそのまま反映されたものになっていると思います。
――とくに、ギギは瞳の表現なども含めて、新鮮なキャラクターデザインになっていましたね。
小形:『閃光のハサウェイ』の小説には、美樹本(晴彦)さんのキャラクターが存在しています。でも、村瀬さんの映像は実写に近い志向があるので、リアルな方向性のキャラクターにしたほうが良いだろうと。ギギとケネスに関しては、少し方向転換をさせていただきました。とくにギギは、uchidaさんのデザインが大きな方向性を定めてくれましたね。印象的な瞳の見え方などディテールの表現は、恩田さんと村瀬さんが具体的に決めてくださっています。
――ケネスとハサウェイのデザインについてもお聞かせください。pablo uchidaさんと村瀬監督の間で、どんなやり取りがあったのでしょうか。
小形:美樹本さんが描かれたケネスは、シャアに引っ張られている印象があったんです。おそらく富野さんにも、シャアの意識があったんじゃないかと思います。でも、今回の作品では初見の方にも楽しんでいただくためにも、シャアからデザインのイメージを離したほうがいいんじゃないかと。それと軍人としての荒々しさや冷徹さみたいなものが欲しいということで、いまのデザインになりました。デザインを発注するときに、俳優の長瀬智也さん(元TOKIO)が出演するドラマが放送されていて、「彼のような感じがいいよね」と村瀬さんがおっしゃっていましたね。ハサウェイはuchidaさんが「ブライト(・ノア)さんとミライ(・ヤシマ)さんの間に生まれた子」ということをかなりあらためて強く意識して描いてくれました。これまでのガンダムシリーズに登場してきたハサウェイと印象は大きく変わっていないと思うんですが、微妙な調整をuchidaさんが行った結果が、今回のハサウェイには込められていると思います。
――キャラクターのキャスティング面では、どんな方々にお願いしようとお考えでしたか。
小形:村瀬さんのリアリティのある映像に合わせて、ハサウェイ、ケネス、ギギの3人はそれぞれキャラクターの年齢感に近いところを、素の部分にお持ちの方がいいだろうと考えていました。とくにハサウェイは心情面を深く描くことになるので、青さであったり、大人のフリをしているけど未熟な部分があるといった部分を出せる人を、オーディションで選考しました。その中でも、小野(賢章)さん(ハサウェイ役)のお芝居はナイーブな表現が魅力的だったんです。最初のアフレコのときは、小野さんもガンダムシリーズの主人公ということで、硬めのお芝居をされていたんですが、「もっと等身大のナイーブな感じを出してほしい」ということで録りなおさせていただきました。そうやって試行錯誤を重ねながら、等身大のハサウェイを演じていただきました。
――ギギ役の上田麗奈さんのお芝居はとてもインパクトがあるものでしたね。
小形:そうですね。ギギに関しては、どんな役者さんが良いのか、あまりはじめ想定をしていなかったのですが、オーディションで上田さんがほかの役者さんとはまったく違うアプローチをされていて、富野さんの書くヒロイン像って、強くてカッコいいという方向性になりがちなんですけど、上田さんはかわいいけれど、それが逆に怖さにつながるようなお芝居だったんです。それで一発でギギ役は上田さんだな、というキャスティングになりました。
――諏訪部順一さんが演じるケネスについては第2部以降を楽しみにしております! 音響面でインパクトがあったのは、澤野弘之さんの音楽です。『UC』『NT』に続き、澤野さんを起用されたのはどんなきっかけがあったのでしょうか。
小形:『UC』『NT』に参加されたことで、『宇宙世紀ガンダム』といえば澤野さんというカラーが付いてしまったところもあると思うんですが、澤野さんと一度仕事すると、やめられなくなってしまうのですよね。劇中で澤野さんの音楽が流れると、映像も引っ張られて数段レベルが上がるというか。村瀬さんのフィルムは、少し引いた視点で描かれているんですが、澤野さんの音楽が視聴者の気持ちに寄り添ったものをズバッと音楽で表現してくれるんです。『閃光のハサウェイ』においても、Ξ(クスィー)ガンダムが発進するときのハサウェイの回想からつながるシーンは、澤野さんの音楽が全てを持って行きますよね(笑)。澤野さんの音楽は、映像とのシンクロ率がすごく高いところが魅力です。
制作フローを変えて、新しい作り方で挑む、第2部「サン オブ ブライト」
――今回、村瀬監督とフィルムを制作されてみて、大変だったところや印象に残っているところはどんなところでしたか。
小形:全部が大変でした(笑)。先ほどもお話したとおり、村瀬さんは手放しでOKを出すことはほとんどないんです。村瀬さんからあまりリテイクが出なかったのは、笠松(広司)さんの音響面と、ギギ役の上田さんの演技ぐらいでした。それ以外のセクションは、村瀬さんと現場で行ったり来たりをして、試行錯誤を重ねています。村瀬さんの頭の中にある映像は普通の考えの二段三段上を行ってますので、完成したフィルムを見て、ようやく「ああ、こうなるのか」とわかったスタッフは多かったんじゃないかと思います。そして想像以上の映像を見て、報われたという想いを感じていたんじゃないかと思っています。それくらい、村瀬さんの頭の中を再現することは難しい。村瀬さんの考えていることや狙いを汲み取って、映像、音、芝居、音楽にしていくことはとても大変でしたね。
――やはりこれまでのガンダムシリーズとは制作も含めて、違う感じがあったんでしょうか。
小形:そうですね。『閃光のハサウェイ』の現場は、これまでのガンダムシリーズとはまったく違うやり方で作っていました。これまで僕らは2Dの手描き作画で作品を何十年も作ってきましたが、『閃光のハサウェイ』は3Dをベースにしているんです。まず3DCGで空間を組んでおいて、そのフィニッシュが手描きの2Dになっている。だから、まずは3DCGを作って、その3DCGをガイドに使って、レイアウト(画面の構図を決める設計図のひとつ)を描いていくんです。そういう制作フローは僕らもやったことがありませんでしたし、村瀬さんがやろうとしていることの理解が及ばなかったところでもあります。
実は、制作を終えた村瀬さんが第1部につけた点数と、富野さんがつけた点数がいっしょだったんです。もちろんふたりとも違う角度で評価をしているとは思うのですが、その点数を次は超えていきたいと思っていますね。
――そういった部分も含めて、第2部の制作はいろいろな変化を迎えることになりそうですね。
小形:そうですね。第2部では制作フローを第1部のときとは全部変えて、スタッフと一緒に考え方も変えて臨んでいます。第2部から参加していただく新しいスタッフの方々は、そういった新しい体制で入ってもらっていますので、村瀬さんが考えていることが第1部よりも多く映像に入れられるのではないかと思っています。そういうところにシリーズを重ねていく良さがあると思いますし、僕もまた新たな手法で出来上がっていく第2部の映像を楽しみにしています。
――なるほど。第2部『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ サン オブ ブライト』が楽しみです。
小形:シナリオはすでに一度上がっているのですが、監督が絵コンテの準備のためにシナリオを調整して、現在は絵コンテ作業を進めてもらっている状況です。先ほどお話ししたように、今回は3Dをベースにする作り方をしていますので、設定などもどんどん作業を進めています。おそらく、第2部は3部作の中で小説と一番違う印象になるのではないかと。第1部とも違う手触りの作品になると思っています。
――第2部はどんな作品になりそうですか。お話しできる範囲でお聞かせください。
小形:第2部はハサウェイにとってはターニングポイントになる物語になると思います。ハサウェイの過去や内面もよりクローズアップされて、第1部で前振りしている伏線も色々みえてくることになります。ハサウェイの父・ブライトさんも登場しますし、是非みなさま期待して待っていただけるとありがたいです。
取材・文=志田英邦
小形尚弘(おがた・なおひろ)
プロデューサー。バンダイナムコフィルムワークス所属。主なプロデュース作品に『Gのレコンギスタ』『機動戦士ガンダムUC』『機動戦士ガンダム サンダーボルト』『機動戦士ガンダムNT』などがある。