「BOOK OF THE YEAR 2022」ランキング1位 担当編集者インタビュー/文庫部門 『いのちの車窓から』担当編集・村井有紀子
更新日:2022/12/15
『ダ・ヴィンチ』2023年1月号の特集は、本年の「本のランキング」を投票で決める「BOOK OF THE YEAR 2022」。ダ・ヴィンチWEBではこの特集に連動し、ランキング1位に選ばれた作品を担当する編集者へのインタビューを実施。
文庫ランキングで1位を受賞した『いのちの車窓から』(星野源)の担当編集、村井有紀子さんにお話を伺った。
(取材・文=なかそねなおみ)
「あらゆる方向に対して、思考停止せず、深く物事を考え続ける。2018年12月号『ダ・ヴィンチ』の“星野源と、思考。”という特集は、星野さんのそんな姿勢を見ていて生まれた企画でした」
こう語るのは『いのちの車窓から』の担当編集者である村井有紀子さん。雑誌『ダ・ヴィンチ』の編集者でもある村井さんは、2014年12月の連載開始当初から同タイトルのエッセイ担当編集を務める。
星野源さんの目に映る風景をそのまま描写する形で綴られた本書は、累計45万部突破(電子含む)のベストセラーに。10ページにわたる書き下ろしの「文庫版あとがき」を収録し、2022年初頭に文庫版が発売され、「BOOK OF THE YEAR 2022」の文庫ランキング部門では1位に輝いた。
音楽家、俳優、文筆家――3つの活動の柱を持ち、多彩な才能を発揮する星野さんにとって、書くことがほかの活動に影響を与えることはあるのだろうか?
「音楽家としてだと、例えばアルバムのプロモーション活動をする際に、そのアルバムに関するエッセイを先んじて書いていると思考の整理ができるらしく、取材の場などで言葉で伝えやすいとインタビューで伺ったことがあります。あるいは、ラジオという媒体ではなかなか説明されにくいことをエッセイに落とし込まれた回もありました(文庫未収録回分)」
フィルターを通し真っすぐ届けられる文章力
療養を経て星野さんが活動を再開した2014年から始まったエッセイ連載、『いのちの車窓から』。連載第1回目の原稿を受け取ったときは、あまりの完成度の高さと再び一緒に仕事ができることに泣くほど嬉しかったという村井さんは、星野さんの「嘘のない文章」に惚れ込んでいるという。
「ご自身の目というフィルターを通しながら、だれかの素敵なところを端正に書かれている。そして、星野さんの文章は毎回直すところがないほど抜群にうまいんです。それは第1回目からそう。構成力や締めの一文などドキッとするくらいお上手で。そのため、星野さんに関しては編集として基本的に何も言いません。例えば意見の鉛筆を入れたり、“こういうネタで書いてください”などと言うこともありません。その代わりに原稿を頂戴してから、“ここがいいな”と思った点をお伝えするようにしています。第一稿の感想メールを送るまでに8時間かかったこともありました(笑)」
さらに“本とコミックの情報マガジン”である『ダ・ヴィンチ』の編集者だからこそできたこともある。
「私がおすすめした本を読んでいただいたりもされるようです。自分が本を読んでいて、この作品、もしかしたら星野さんはお好きかな?と思ったら、ストックしてお伝えするように心がけています」
自分ができることを考える
文庫版が発売された際には、初回配本分限定で「『いのちの車窓から』特製感想文しおり」を封入。本の感想を手書きで書いたしおりの画像を、SNSに「#いのちの車窓から感想文」というハッシュタグ付きでUPしてもらうことで、文庫の宣伝・拡散になると考えた。また、本書のSNSアカウントから発信した、文庫発売日までの2週間・毎日投稿される日めくりカレンダーの写真(村井さんが毎日撮影してUPしていた)もファンの間で話題になった。
「本書から素敵だと思う一文を抜き出した、発売日までをカウントダウンした日めくりカレンダー(2週間分)を書店販促用に作成したんです。たくさんの書店さんで飾っていただけたのですが、こういう状況下では目にする機会も少ないかと思ったので、多くの書店の営業開始後、午後から夜にかけて、公式のTwitterアカウントでカレンダーの写真をあげようと考えました。ですので、例えば抜き出した文に“深夜”という言葉がある日は、夜景をバックにカレンダーを撮影したりと工夫をして、毎日楽しみながら考えさせていただきました。今日はこの一文が抜き出されたのか、ところであのバックは何?など(笑)、読者の方から反応をいただけてうれしかったです」
念願だった『NHK紅白歌合戦』出場や大ヒット曲を生み出した2014年から2017年までの怒涛の日々を綴った本作。星野さんが一つひとつ夢を叶えていった時期だったが、最後に今後の展望についてうかがった。
「著者はもう、ものすごく文才にあふれる方なので。私が編集者としてできることは何か。それを日々考えながら、ご提案していければいいなと思っています」
(次回、エッセイ・ノンフィクション・その他部門は16日(金)公開予定です)
村井有紀子
むらい・ゆきこ●『ダ・ヴィンチ』編集部に所属。担当した『おそ松さん』特集や星野源特集がいずれも重版。数々の芸能の分野で活躍する書き手の書籍を手掛けヒット。また長編小説『騙し絵の牙』(塩田武士:著)ではメディアミックス企画&編集も担当。