明治大学で一番受けたい授業を持つ教授が教える、プレッシャーを逆活用して結果を出すコツ
公開日:2022/12/19
11月から12月にかけてサッカー・ワールドカップを夜な夜なご覧になった方も多いかと思いますが、「プレッシャーの中でいかに選手たちが実力を出しきれるか」というのは、どの試合にも通底している見どころだったかと思います。
では、その「プレッシャー」というのは悪いものなのでしょうか? サッカー選手にとっての実力というのは、多少のプレッシャーや困難を前提としています。観客目線であっても「良い試合」には「良い緊迫感」が必須です。こうしたことから分かる通り、プレッシャーというのは、うまく味方につければ実力を増強する要素となり得ます。
ご紹介する『「不安」があなたを強くする 逆説のストレス対処法』(堀田秀吾/講談社)の著者は、一聴するとネガティブ要素な「不安」が、実はQOL(Quality of Life=生活の質)を向上させるための重要な要素だというような「逆説的視点」の提示を得意としています。「明治大学で一番受けたい授業」に選出されたのも納得な、学術的エビデンスに基づく視点が本書にはシンプルにまとまっていて、著者が『日刊ゲンダイ』に2020年から連載してきた「科学で証明! 本当に信用できるストレス解消法」がもとになった構成となっています。
「逆説的」というのはどの程度なのかというと、「不安は知性の証拠」とまで著者は言い切ります。もちろん身を潰すような不安を抱えることは推奨されていませんが、リスクを取って、不安を起点にあれこれ努力したり対策を講じたりすることで、「進化」の兆しが自分の中に見え始めるということです。言い方を変えると、「不安の感情を抑えることが、よりよい結果や決断につながるわけではない」ということになるかと思います。
不安以外のトピックもご紹介しましょう。「積極的な『朝令暮改』はいけないことではない」という章(「朝令暮改」は、朝に命令を出して夕方にそれを変えるという意味)では、こんなマインドセットが提唱されています。
運ばれてきた料理を見て、「想像していたものとは違う。失敗したかな」と思って食べるのと、「想像していなかった料理が来たけど、私はこれと巡り合うためにチョイスしたんだろうな」と思って食べるのでは、幸福度は雲泥の差というわけです。
つまり後者の思考回路では、ある期待のもと自分でしっかり決定をして、その期待に沿わない結果が出た場合に「失敗してしまった」と思うのではなく、「あまり期待通りの結果が得られなかったけれども、自分が今この決定をしたということは何かを暗示している。そこからまた学び取らなければ」というふうに考えて、自分の下した決断を否定しないポジティブな捉え方ができるということです。このように「優柔不断」なのではなく「柔軟に決断・解釈する姿勢」もまた本書が説く「逆説的」スタンスの一例です。
考え方のコツだけではなく、すぐ自分の日常に導入できる実践的なアドバイスも本書には盛り込まれています。例えば、30分ほどの(一般的にはサボりのようなイメージのある)昼寝が仕事効率の向上に役立つこと、適度な雑音があるところに身を置くとクリエイティブになりやすいこと、肌身離さず携帯しがちなスマホを自分から離れた場所に置いて着信音も鳴らないように設定して集中力を高める、などといったことです。
想像してほしいのですが、スマホを見るために、わざわざ移動する―、それってとても面倒なことだと思いませんか? こうしたひと手間は、ダラダラ対策にはとても有効です。というのも、それを取りに行く際に、「今から自分はスマホを見ようとしている」と自覚することで、「本当にスマホをチェックする必要があるのか?」と、脳が違う働きをし始めてくれるからです。
ちょっとした空き時間に1トピック読み切れる形でまとまっているので、マインドセットという頭の奥深くにある地点に、単語帳のような気軽さで歩み寄りたい方にオススメの一冊です。一つの事例につき必ず一つはエビデンスや研究・実験結果が添えてあるので「本当に?」と疑わしいものは掲載されていなく、著者が「ここまでなら保証できる」という実証性の白黒も明確です。
文=神保慶政