イヌと人間は相思相愛なのか? 科学で明らかになりつつあるイヌの新事実
公開日:2022/12/18
私はイヌが大好きだ。疲れたとき、気づくとイヌの画像を見漁っている。イヌは愛らしい。その姿を見るだけで心が癒やされる。イヌを飼う友人から聞く「自分用に買ったクッションをイヌが気に入り、奪われてしまった」なんてエピソードにほっこりすることもしょっちゅうだ。
多くの人がイヌを愛している。そして、イヌの方もどうやら人間を愛しているらしい。科学的な実験や膨大なデータから、イヌが人間のことをどう思っているのかに迫るのが『イヌはなぜ愛してくれるのか「最良の友」の科学』(クライブ・ウィン:著、梅田智世:訳/早川書房)だ。身近な存在であるイヌの、意外な事実について紹介しよう。
イヌは人間が好きか?
こちらを見つめて尻尾を振ってくれるイヌ。思わず「私のことが好きに違いない」と感じてしまう。しかし、イヌには「人間が好き」という感情はあるのだろうか。本書によれば、動物学者は感情があるとは考えないそう。イヌが喜怒哀楽のような反応を見せても、言葉で意思疎通ができない以上、それが人間と同じものだと考えるのは危険。信用できるのは数値で表せる科学的な事実だけだ。
だが、こんな実験がある。飼い主とイヌそれぞれに心拍計を装着し、別の部屋で待機させる。飼い主は実験に緊張して心拍数が上がる。しばらくしてから、イヌを部屋に連れてくると、すぐ飼い主の心拍数は下がり、落ち着きはじめる。イヌも少し興奮していたが、飼い主と過ごすにつれて落ち着き、飼い主とイヌの心拍のパターンが同調した。
これは、人間では恋人同士でも起こる現象だという。言葉はわからなくても、イヌと人間は愛情でつながっているのかもしれない……と感じる結果だ。
MRIで見るイヌの気持ち
落ち込んでいたらペットのイヌがそばに寄ってきて、慰めてくれているように感じた……。こんな経験がある飼い主もいるだろう。実はこれ、行動実験によって実証されている。泣いている人間と、ハミングしている人間が並んだとき、イヌは泣いている人の方へ近付くことが多いそうだ。しかしこの実験だけでは、その動機となる感情まで理解するのは難しい。
人間は感情によって、神経やホルモン、脈拍などさまざまな反応が起きる。イヌが感情で動くなら、同じように反応があるはずだ。そう考えた学者たちは、イヌの脳をMRIで撮影した。その結果、イヌも興味のあるものを見ると脳を構成する神経細胞のニューロンが活性化することがわかった。泣いている人を見たときのMRIの実験はされていない。しかし、泣いている人を見て脳が刺激された結果、近付いていっていたのだと考えられる。感情に近いものがあるように思えてこないだろうか。
おかえり攻撃の原動力「オキシトシン」
帰宅したらイヌが勢いよく駆け寄ってきて大喜びで迎えてくれる。人間に向けて愛情を爆発させているとしか思えない光景だ。このとき、イヌの体の中ではどんな変化が起こっているのだろうか。上昇すると相手への愛情や執着心が高まる、愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシンを測定するという、イヌの気持ちに迫る実験を紹介しよう。
飼い主とイヌは25分間隔離されている。再会のときに飼い主が親密なふれあいをするグループ、ただ話しかけるだけのグループ、何もせずじっと本を読んだままのグループに分けて様子を観察する。結果、どのグループのイヌも再会したとき、オキシトシンが増加。そばにいるだけで愛情ホルモンが増加してしまうのである。
そして、ふれあいが多いほど、数値が持続する時間が長かったそうだ。さらに、飼い主とイヌが目を合わせると両者のオキシトシン量が増加するという結果も出ている。まさに相思相愛の関係と言えるだろう。
イヌに対し最新技術を用いた科学的な研究が盛んになったのは、実は1990年代後半から。まだ新しい分野であるため、これから明かされる事実もたくさんあるだろう。
最後に、本書の一番のおススメポイントは表紙に描かれたイヌのイラストであると伝えたい。この笑顔を見て手にとらずにはいられない、という愛らしさだ。本書を読めばイヌへの愛が深まり、表紙を眺めて癒やされる……なんともお得な1冊になっている。
文=冴島友貴