シリーズ第4弾の舞台は北海道。人生の岐路に立った人々に三毛猫マスターが癒しと幻想的な料理を提供する『満月珈琲店の星詠み』

文芸・カルチャー

公開日:2022/12/22

満月珈琲店の星詠み~メタモルフォーゼの調べ~
満月珈琲店の星詠み~メタモルフォーゼの調べ~』(望月麻衣:著、桜田千尋:絵/文藝春秋)

 何かと忙しい時期だからこそ、時間を作って読みふけりたい。そう思わせるのが、「満月珈琲店の星詠み」シリーズ(望月麻衣:著、桜田千尋:絵/文藝春秋)。

 本シリーズは幻想的で美しい桜田千尋氏のイラストから着想を得て生まれたインスパイア小説。三毛猫のマスターと星遣いの店員が、極上の料理や星詠みで人生に疲れた人を癒すストーリーが人気を博し、シリーズ累計30万部を突破した。

 第4弾となる『満月珈琲店の星詠み~メタモルフォーゼの調べ~』(文藝春秋)でも、おなじみのキャラクターたちが大活躍し、読者の心を温めてくれる。

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テーマは「破滅と再生」 北海道を舞台に“満月珈琲店”が極上の料理を提供

 第4弾の舞台は北海道。これまで山羊座に滞在していた冥王星が水瓶座に移動するため、その直前に勉強会をしようという三毛猫マスターの提案により、星遣いたちは札幌に集結。冥王星・ハデスの到着を待ちわびる。

 冥王星は、破壊と再生を司る星。冥王星に着目した本作は「決して元には戻れない変容」がテーマだ。神出鬼没な満月珈琲店との出会いを機に、元の自分と決別して新しい人生を歩むことにした人々の短編物語が収録されている。

 その中でも心に残ったのが、シリーズ2作目である『満月珈琲店の星詠み~本当の願いごと~』(文藝春秋)に登場した鈴宮小雪のアフターストーリー。

 小雪には、忘れられない思い出がある。それは1年前のクリスマスに満月珈琲店に遭遇したこと。三毛猫のマスターから本当の願いごとについて聞かれ、ずっと父親に許されたかったことに気づいた。

 小雪の父親はクリスマスプレゼントを買うため、閉店間際の玩具店に入ろうと急ぎ、事故死。小雪は、ずっと自分を責め続けてきた。

 だが、満月珈琲店で誰にも言えなかった本音に気づけたことを機に、自分を許してあげようという気持ちに。これからはもう少し自分を大切にして、素直に生きよう。そう思い、「本当の願いごとを忘れない」という決意表明を書いて部屋に飾っていた。

 そんなある日。派遣の契約が切れるタイミングとマンションの契約更新時期が重なったことから、小雪は実家に戻り、就職活動をスタートする。

 なかなか就活が上手くいかず、心が疲弊していた時、好きな作家の作品が映画化されることとなり、その特設サイトで不思議な体験談が公募されていた。

 小雪は、満月珈琲店での体験を投稿。それを機に、同じ体験をした同志たちと出会う。紅茶専門店を営む“マダム”も、そのひとり。

 高台の洋館に住むお嬢様だったマダムには、思わぬ出来事から幸せが崩れた過去がある。死を考えるほど追い詰められたマダムは愛猫のミーコや満月珈琲店に命を紡がれたのだ。

 元の暮らしには二度と戻れないほどの悲劇に見舞われたマダムは、一体どう人生を立て直したのか。そして、マダムとの出会いを機に、小雪は自分の人生をどう変えていくのだろうか。おなじみの幻想的な料理を楽しみながら見届けてほしい。

 そして本作に記されている、一見関連がなさそうに思える短編物語が1本の線として繋がった時、あなたの涙腺はきっと崩壊するはずだ。

 生きていると、突然吹き付けてきた嵐によって足元がぐらつき、幸せな暮らしが奪われてしまうことがある。不安定な時代の中で自分をとりまく環境や世の中の変化を受けて生き方を変えざるを得なくなり、困惑することも少なくない。

 だがそんな時、小さなきっかけから人生の捉え方を変えることができたら、思い通りにならない人生とも前向きに向き合える気がする。本作は、まさに“小さなきっかけ”となる作品。苦しみを持った日々を送っている人に届くことを願う。

 また、巻末には作者の猫への愛情が詰め込まれた短編小説「幸せなシモベ」を収録。こちらも疲れた心に効く作品なので、併せて楽しんでほしい。

文=古川諭香