本屋大賞2018受賞『かがみの孤城』が劇場アニメ化! 原作ファン限定イベントで、小説紹介クリエイター・けんごさん×原作担当編集が作品の魅力を語る《イベントレポート》
公開日:2022/12/24
2018年に本屋大賞を史上最多得票数で受賞したことでも知られる、辻村深月さんの『かがみの孤城』(ポプラ社)が劇場アニメとして全国公開中です。監督を『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』などで幅広い層に支持される原恵一さんが務め、アニメーション制作は『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』など、多くの青春アニメを手掛けるA-1 Picturesが担当。中学生という多感な時期の繊細な感情を息が詰まるほどリアルに描き出し、特に終盤ではファンタジーならではの壮大な展開が待ち受けている原作の魅力を十二分に引き出す布陣で、最高のアニメーション映画が出来上がっています。
2022年12月14日には、原作小説ファン限定のイベントとしてトークショー付き特別試写会が開催。小説紹介クリエイターとして活躍するけんごさんと、原作の担当編集者であるポプラ社・吉田元子さんのトークショーの様子をリポートします。
(取材・文=原智香)
7歳から93歳まで……。幅広い年代に届いた原作誕生の瞬間
けんごさんがインタビュアーとして、吉田さんに質問する形で行われた今回のトークショー。けんごさんがまず「『かがみの孤城』はどうやって生まれたのか」と、原作が誕生した経緯について質問すると、吉田さんは「『かがみの孤城』は辻村さんが初めてポプラ社で書いてくださった作品で。ポプラ社は児童書を長く出版してきている会社なので、辻村さんは『ポプラ社で出すのであれば、大人だけの物語よりは、デビュー時に書いていたような10代の人たちの物語を描きたい』と考えてくださったんです。その中でも『学校に行けていない子どもたちを出会わせたい』という部分から進んでいきました」と当時を振り返った。
また、実は本作終盤の鍵となる設定は、執筆当初はまだ決まっていなかったことも回顧。「作中の夏休みの話が終わったくらいの段階で、辻村さんに喫茶店でお会いしたときに『(主人公の)こころたちが、どこから来たかわかりました』と言われて。話を聞いたときは、比喩ではなく本当に鳥肌が立ったのを覚えています」とその時の衝撃を語り、けんごさんも「書いていく中で、それこそこころたちと対話をしながら作り上げた物語なんですね」と感嘆の声をあげた。
自身のSNSで原作を紹介したときも、非常に反響が大きかったというけんごさん。「作品を読んで自分を変えたいと思って、不登校だったけど学校に行きました」というメッセージが届いたことも明かした。その上で刊行後の反応について問いかけると、吉田さんは「7歳から93歳まで、本当に幅広い年代の方から読後の感想が届いている」と予想以上に広い世代に作品が届いた実感があると回答。中でも特に印象的だったのが、70代男性の方からの「自分のことが書いてある物語だった」という感想だそうで、「おそらくその方が学生だった時とは環境はまったく違うと思うのですが、感じていた気持ちが同じだと思ってくださったのかなと」と嬉しそうに語った。
そして本作の主人公と同年代の中学生から「自分も今しんどい思いをしているけど、この作品を毎日お守りに学校に持っていっています」というメッセージが届いたとも紹介。「単行本しか出ていない時期で、(本が)重かったと思うんですけど」と、その気持ちに胸を打たれたと明かした。
吉田さんは思わず走り出して……? 本屋大賞受賞の瞬間
けんごさんは、原作が2018年に史上最多得票で本屋大賞を受賞したことも紹介。「刊行時から本屋大賞を意識していたか」と聞くと、吉田さんは辻村さんの過去作も本屋大賞にノミネートされていたことから「ノミネートされたらいいなとは正直思っていた」と当時の気持ちを告白。ノミネート後も作品自体への自信はありつつも、「他の作品も、各出版社さんから同じような気持ちで刊行されているというのもわかるので。(大賞を取れるかは)わかりませんでした。『いい線いけるんじゃないですか?』なんて言われると、『そんな無責任なこと言わないでよ!』と思ったり(笑)」と会場を笑わせた。
受賞を初めて聞いた瞬間については、「夜に、私ではなく営業の人間に電話がかかってきたんです。その時、たまたま本作に関わっているメンバーが一緒にいるタイミングで。でもその中には他社の方もいらっしゃったので、その営業の方はすぐに私たちに報告できず。しばらくひとりで(喜びを)嚙み締めていたそうです(笑)」と回想。「私はフロアを走って、辻村さんに電話しに行ったのですが、ふたりで泣いてしまいました」と、臨場感たっぷりに語ってくれた。
最後の質問として、けんごさんは、今回のトークショーが決まってから、ぜひ吉田さんに辻村作品の魅力について聞きたいと思っていたとアプローチ。「僕は辻村作品が大好きで。特に地の文がお上手で、説明力であったり、登場人物の感情をうまく表現する力だったりがすごい作家さんだなと思っているんです」とまず自身の想いを熱く語った上で、吉田さんに質問。すると、「まさに今おっしゃったところは本当に素晴らしいところですよね。(ご来場されている原作ファンの)みなさんの中にも、同じ思いを持っていらっしゃる方も多いんじゃないかなと思うのですが、私たちが言語化できない気持ちを綴って『私こういう時、こういう風に思ったんだ』と思わせてもらえる」と吉田さんも同じく熱量の高い回答をし、会場全体も深く頷いた。
吉田さんは続けて、「もうひとつは、ストーリーテリング、物語の構成の力強さというか。辻村さんは一見、ミステリーとわからない作品も書かれていますが、ご自身としてはやはりミステリー作家と自認されていまして。謎の部分を魅力的に見せながら、最後にあっと驚く展開が待っている作品も多いですし、強い物語を創る方だなと感じています。また『闇祓』のように“黒辻村”と言われる作品でも最後には人への信頼、温かさがある。ただ真っ暗では終わらないところも、辻村さんの魅力だと思います」と語ってくれた。
辻村さん原案・こころたちのその後を描いたポストカードも登場
司会者がふたりへ、「今回の映画をどんな方に観てほしいですか?」と質問すると、けんごさんは「映画が好きな人はもちろん、普段映画館に足を運ばない方にもぜひ観てほしいです。舞台となるお城の壮大さや、映像表現の素晴らしさに感動しました。今はどこでも気軽に映画が観られますが、本作は映画館で観ないといけない作品だと思いますね」と観たばかりの本編の魅力を含めて語ってくれた。吉田さんも「主人公は中学生ですが、どんな世代の人にも『自分の物語だ』と思ってもらえる作品なので。家族と一緒にとか、いろいろな人に観てほしいです」と改めて作品の魅力を強調。
そして最後には、映画館の入場者プレセントとして数量限定で配布されるポストカード(2セット×3種類、ランダムに配布予定)を、けんごさんだけが見せてもらうというシーンも。このポストカードは、“本作の登場人物のその後のシーン”として辻村さんが新たに考えた案を、原監督とキャラクターデザインの佐々木啓悟さん(A-1 Pictures)がともにアイデアを膨らませ、描き下ろした。恐縮しながらも、一足先に内容を確認したけんごさんの口元には微笑みが。改めて劇場に足を運ぶのが楽しみな一幕となった。
映画『かがみの孤城』
原作:辻村深月
監督:原 恵一
脚本:丸尾みほ
主題歌:優里「メリーゴーランド」
出演:當真あみ、北村匠海、吉柳咲良、板垣李光人、横溝菜帆、高山みなみ、梶裕貴、麻生久美子、芦田愛菜、宮崎あおいほか
配給:松竹 12月23日(金)全国公開