身近な存在なのに謎だらけ!? まだまだ夢が詰まっている「脳」の秘密

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公開日:2022/12/29

すべては脳で実現している。
すべては脳で実現している。』(毛内拡/総合法令出版)

 脳について考えることはあるだろうか。私たちは毎日脳を使って生きている。椅子から立ち上がるだけでも、脳が指令を送って体を動かしているのだ。私たちを生かしているのは「脳」と言っても大げさではない。だが、改めて脳について考える機会はそうないだろう。

 脳科学研究者たちの世界では、日進月歩めまぐるしく新しい説が生まれているそうだ。その研究によって、かつては精神論・根性論だと思われていたことが、実は脳科学的にも合っていると分かったり、SF作品みたいな技術が実現しようとしたりしている。

 そんな脳に関する研究を分かりやすく教えてくれるのが『すべては脳で実現している。』(毛内拡/総合法令出版)だ。本稿では最新の脳科学を身近に感じられる「脳の話」を紹介しよう。

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「プラセボ効果」は効果アリ!

「これは非常によく効く薬です」

 そう言われて飲み続けたら病気の症状が良くなった。しかし、それはただのビタミン剤だった……。そんな話を聞いたことがあるだろう。プラセボ効果と呼ばれる、思い込みによって起こる現象だ。よく聞く話ではあるが、実際に脳の中で何が起きているのかは、長年謎のままだったそう。

 最近の研究によって、脳の「島皮質」に変化が起きていることが分かった。島皮質とは、痛みを感じると活性化する部位。薬と思い込んでビタミン剤を飲むなど、プラセボ効果を狙った実験を行った脳では、この島皮質があまり活性化しなかった。

 つまり、病気や怪我自体は変わっていないのに、「薬を飲んだ」という思い込みのせいで、痛みを感じる脳の部分の動きが実際に鈍くなったのである。「病は気から」は根性論ではなく、本当に起きる現象だったのだ。

 ただし、思い込む力は人それぞれ。起こりにくい人もいるので注意が必要だ。

それは老化の始まりではなく、正常な脳の証

 昨日の朝食を覚えているだろうか。パンかご飯かは覚えているぞ、という人でも、「おかずの卵は目玉焼き? 卵焼き?」まで聞かれると意外に曖昧だったりする。これが物忘れ、老化の始まりか……と思ってしまうかもしれないが、安心してほしい。「細部を忘れる」のは正常な脳の働きなのである。

 脳は、自動的に省エネモードで活動するそう。話の大筋だけを記憶して、細部は忘れてしまう。そうすることで、記憶のための容量を使いすぎないようにしているのだ。脳にとって大切なのは、「卵を食べた」という大筋。細かい部分は「お弁当にいつも卵焼きをいれるから、朝食時には切れ端の卵焼きが残っている」という経験から補填して「卵焼きだった」と答えを出している。より少ない記憶で、ある程度正確な答えを出すための仕組みだ。老化ではなく、むしろ若さを保てている証と考えていいだろう。

未来の老化防止は、脳インプラント!?

 目が悪ければメガネやコンタクト、耳が聞こえにくければ補聴器……と、人間は体の機能を道具によって拡張もしくは補完してきた。近い未来では脳機能も拡張する時代になるかもしれないと、著者の毛内拡氏は語っている。脳機能の拡張というと、何だか恐ろしく感じてしまうものだが、メガネや補聴器と同じと考えれば、一般的になっていくかもしれない。

 現在研究されているのが、脳細胞と同じくらい小さな脳インプラント。柔らかなメッシュ状のインプラントによって、脳を傷つけずに脳細胞を刺激できる。これが実現すれば、なんとダメになった脳細胞の働きを復活させることができるのだとか。実用化されれば、アルツハイマーやさまざまな依存症の治療に役立つ技術であり、加齢による老化の防止にも期待されている。

 もし、今後「元々人間が持っていない機能を付加できる」という技術が生まれるとしたら……。まるでSF作品のような能力を手に入れることができるかもしれない。

 本書では最新の脳研究を53項目に分けて紹介している。人間が作り出した「脳」、人工知能についても触れており、物語に出てくるような未来がすぐそこまで来ていることにワクワクすること間違いなしだ。本書で紹介された研究は最新のものであるがゆえに、これから新たな発見によって覆される可能性もあるそう。しかし真実とは、発見の繰り返しで明らかになっていくもの。日々更新される脳研究にワクワクが止まらない。

文=冴島友貴