M-1グランプリ2022/オズワルド伊藤の『一旦書かせて頂きます』㉟

小説・エッセイ

更新日:2023/4/12

オズワルド伊藤
撮影=島本絵梨佳

こいつなんて苦しそうに漫才してるんだ

初めてあの大会で漫才をする自分を見て、最初に出た感想はこれだった。

もう年末の国民的TV番組として何年も国民の皆様を楽しませてきたM-1グランプリ。今年18回目となるこの大会に我々オズワルドも出させて頂いていた。去年まで3年連続でM-1の決勝に進出することが出来た。今年と今までの一番大きな違いは『進出した』と『出させて頂いた』の感覚の違い。というのも今年のM-1では、僕らは準決勝で敗退していて、決勝当日の敗者復活戦という枠の中から国民投票によって決勝の舞台へと引き上げて頂いたから。これはもう完全に『出させて頂いた』感覚なの。冗談抜きで顔も知らない国民の皆様に心の底から感謝が溢れ出た。普通に生きてたら、なんならすんなり優勝していたらこの感覚は絶対に味わえなかったと思う。こんな禁煙ブームにポケットマネーで喫煙所作るような奴に国民が投票してくれるなんて思わなかった。ありがとう国民達。国民達まじいい奴。これからは花を見ても月を見ても国民達を思い出すだろう。

ただ問題はここから。国民達や敗者復活戦を共に戦った17組の漫才師達に見送られ、決勝の舞台へと舞い戻った我々オズワルドであるが、結果だけ見た事実は、敗者が復活しただけだった。M-1を昔から見てきた国民達ならわかると思うが、敗者復活を勝ち抜いた1組には例年圧倒的な勢いが纏われていた。過去の例で言えば、サンドウィッチマンさんやトレンディエンジェルさんは敗者復活から見事に優勝しているし、オードリーさんも和牛さんも大会自体に大きな風穴を開けている。敗者復活した1組は、一度負けた者の覚悟や期待をそのままパワーに変えることが出来るのである。故に我々オズワルドにも無論その勢いを纏った時間が確かに発生したはずなのだが、自分の体感では、敗者復活に選ばれて決勝のステージで漫才を開始してから1分の間にはもう纏った勢いを脱ぎ捨てていた。見えた俺には。勢いを脱ぎ捨てた彼らが。えっ暖かいとこ行ったから脱いだの? 勢いってそういうんじゃないよ? そこからは本当にあんまり覚えていない。ネタの最中もネタ終わりの審査員の方々との絡みも。冷静に分析して、去年とのギャップを考えたらゲボ出なかっただけたいしたもんだと思う。そこからは気がついたらサスペンダーだけ置いて小走りで楽屋に飛び込んでいた。

以上の出来事を踏まえた上で、今回初めて自分達があの大舞台で漫才をする姿を見返してみた。基本的に自分が出たTVはほぼ100%見ないし、見返せるほど自分に厳しくもドMにもなりきれなかったしね。それでも今回、本当に初めて見返してみようと思ったのは、本当にあんまり覚えてなかったから。俺達はあの大好きなネタを、どんな顔でどんな雰囲気を纏いながらやっていたのだろうと思ったから。そして冒頭のセリフが口を出た。

こいつなんて苦しそうに漫才してるんだ

自分のことは自分が一番わかっていたつもりだったが、思っていたよりも色々な感情があって思っていたよりも余計なことを考えてしまっているなあと、勝手に頭の中に作り上げたストーリーを演じようとしているような、そんな顔に見えた。欲丸出し。不安丸出し。情けないったらありゃしなかった。悔しいは薄かった。感謝の分申し訳なかった。ただあのネタは面白いんだと、それだけは言わせて頂きたい。

というわけで、我々オズワルドのM-1グランプリ2022は、敗者復活からの7位という一体どこのMCが食いつくんだといったなんとも言えない結果で幕を閉じた。優勝したウエストランドさんや同期のさや香を見ていて色々と思うことがあった。というか凄くすっきりした。来年のM-1グランプリももちろん出ます。もういいだろうという声も多々頂きますが、そういうんじゃないのよM-1は。恐らく来年から中々厳しいゾーンには入るでしょうが、優勝するまで出るんだよ俺達は。優勝するんだ絶対に。何年言うんだ俺は。国民の皆様、本当にありがとうございました。

最後に、ウエストランドさん。本当におめでとうございます。頼むから塵になるまで炎上してくれ。

一旦辞めさせて頂きます。

<第36回に続く>

オズワルド 伊藤俊介(いとうしゅんすけ)
1989年生まれ。千葉県出身。2014年11月、畠中悠とオズワルドを結成。M-1グランプリ2019、2020、2021ファイナリスト。