今年は現実と仮想が繋がる年。『このライトノベルがすごい! 2023』はソードアート・オンライン特集に注目!

文芸・カルチャー

公開日:2022/12/31

このライトノベルがすごい! 2023
このライトノベルがすごい! 2023』(『このライトノベルがすごい!』編集部/宝島社)

 いまが旬のライトノベルを紹介するライトノベル総合情報誌『このライトノベルがすごい! 2023』(『このライトノベルがすごい!』編集部/宝島社)が11月26日に発売された。

 本誌は、読者アンケートによる人気ランキングに加え、今年の第1位作家へのスペシャルインタビュー、ジャンル別作品ガイドなどを掲載し、ライトノベルの流行を読み解くガイドブックとなっている。

 注目を集めるベストランキング「文庫部門」では、夏季にアニメ第二期が放送された『ようこそ実力至上主義の教室へ』(衣笠彰梧/KADOKAWA・MF文庫J)が1位を獲得した。

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『ようこそ実力至上主義の教室へ』は、優秀な生徒だけが特権を得られる完全実力主義の超名門高校を舞台にした学園青春物語。普段は実力を隠して凡人のフリをしている主人公・綾小路清隆が、駆け引きや取引、謀略を駆使して落ちこぼれのDクラスを率いて上位クラスに勝負を挑む下剋上ストーリーだ。10代の読者からの支持がとくに厚く、勉強や青春で悩む同世代からの共感が今回の受賞に繋がったようだ。

 ランキングを見ると、毎年恒例の『千歳くんはラムネ瓶のなか』(裕夢/小学館・ガガガ文庫)や、『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』(佐伯さん/SBクリエイティブ・GA文庫)などの人気作品が健在だが、ここで新たにトップテンにランクインした新作を紹介しよう。

わたしはあなたの涙になりたい』(小学館・ガガガ文庫)は、母を亡くした主人公・三枝八雲と、天才ピアニストの五十嵐揺月のせつない物語。揺月の音楽に惹かれて、自分も小説を書き始める八雲の小学生から高校生までの半生を振り返る。さまざまな心の喪失や欠落にそっと寄り添うピアノの音がせつなく胸を締め付ける。読者コメントでは卓越した比喩表現や美しい描写が絶賛されている。

 続く新作の『竜殺しのブリュンヒルド』(東崎惟子/KADOKAWA・電撃文庫)は、楽園の島エデンを守る竜に育てられた人間の娘ブリュンヒルドの悲しい復讐劇。ブリュンヒルドが親子のように愛した父竜を殺したのは、実の父親のシギベルト。実の父親への強烈な憎悪と、誰も憎まず正しく生きるようにと願った父竜への思いの狭間で揺れるブリュンヒルドの愛憎渦巻く葛藤が読者の反響を呼んだようだ。

 また、今年は表紙にもなっている『ソードアート・オンライン』(川原礫/KADOKAWA・電撃文庫)の特集記事に注目だ。作者の個人サイトでの連載が始まり、今年でちょうど20年目となるシリーズの歩みを振り返る内容になっている。本作に登場するゲーム《ソードアート・オンライン》は、2022年11月6日に正式サービスが始まっている。つまり現実の時間が作品に追いついたのだ。かつてはフィクションの中だけだったVRやメタバース世界が現実化し、そして今年は進化したAIや、バーチャルな配信者であるVTuberが大きな話題となった。著者インタビュー内ではこれらの技術についても語られている。

 最近のトレンドを扱う作品紹介や、総括などから、これからの時代のライトノベルに求められる「面白い」「新しい」「好き」を考えさせられる一冊となっている。

 最後に『このライトノベルがすごい!』編集部からダ・ヴィンチWeb読者へのメッセージをご紹介する。

『このライトノベルがすごい!2023』編集担当 岡田勘一

 新型感染症が拡大し「コロナ禍」が始まってから約3年が経ちました。その最中でライトノベル市場も大きなダメージを負い、エンタメとしての在り方を問われる状況が続いています。書店の閉店も相次いでいるのが悲しいところ。
 その最中でも、ライトノベルは新しい物語を生み出し続けてくれています。出版不況と言われる中でも約1650シリーズもの作品を世に送り出しているのです。それらの状況を俯瞰して見渡すのは至難の業。『このラノ』が新たな作品との出会いの一助となれば幸いです。好きな作品が見つかったら、どんどん応援していきましょう!

文=愛咲優詩