ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、山田詠美『私のことだま漂流記』

今月のプラチナ本

公開日:2023/1/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『私のことだま漂流記』

●あらすじ●

ラブレターを代筆した幼少期に、辛酸を舐めた学生漫画家時代。小説家デビュー後の誹謗中傷に悩まされた日々と、念願の直木賞受賞。さらに様々な人との出会いと別れ――。作家・山田詠美の半生は、波乱と情熱、そして美しい言葉に満ちあふれている。彼女が「小説家という生き物」になり、その後稀代の女流作家になるまでのすべてが、彼女ならではの鮮やかな言葉で綴られた自伝小説。

やまだ・えいみ●1959年、東京都生まれ。85年に『ベッドタイムアイズ』でデビュー。その後直木賞・読売文学賞・谷崎潤一郎賞などを次々と受賞。他の作品に『ぼくは勉強ができない』『つみびと』『吉祥寺ドリーミン てくてく散歩・おずおずコロナ』など。

『私のことだま漂流記』

山田詠美
講談社 1815円(税込)
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

 

憧れの正体

私にとって小説家は、冒険家でもある。山田さんの航路を辿る中で、憧れの正体が研ぎ澄まされてゆく。「小説家になる以前」、サラリーマン家庭に生まれ育ったことに劣等感を抱いた。家族に売文を試みた少女時代をくぐり抜け、文豪と呼ばれる存在が生身のものだった文壇に身を置くことになる。母親や宇野千代、水上勉らの言霊に編まれゆく中で「ただの作家」となった心境にも痺れる。ドラマティックで厳密な自伝的小説でありながら、小説家集団のガイドブックを兼ねた記念碑的一冊。

川戸崇央 本誌編集長。「頭でっかちからの脱出」で職員室に呼び出された山田さんを迎えにゆく三上さん。大人になった彼女が主人公の小説を読んでみたい!

 

言葉の神さまに出会いスカウターが壊れる

読み始めてすぐスカウターが壊れそうになる。強すぎる。書かれている言葉はどれもさらりとしているが、凝視しているとわかってくる。選び抜かれた言葉で、超絶技巧で編み込まれた文章であるということが。「書いたばかりの文章を頭の中で読んでみる」と、「賛美歌」のような、「供物を捧げているみたいな気分になる」とあるとおり、贅肉のない美しい文章を読んでいると、聖なるものに触れている気持ちになる。この本には何かの神さまがいて、小説を愛している人は、きっと出会える。

西條弓子 ときどき小説っぽい何かを書き始めては、小説っぽい何かでしかないことがすぐ分かり、速攻で消す。小説あるある……ですかね!?

 

“ことだま”は跳ね返ってくるのだ

山田詠美作品。かっこいい!と刺激を受けてきたが、著者がデビュー当時、これほど批判されていたことを本書で初めて知る。〈日本人女性のモラル〉だの、いつの世もそうなん?とため息が出るのと当時に、山田さんが誰からその言葉を受けたのかを覚え、ここに書いているのがまた最高である。“女流”に関しては宇野千代さんのこの言葉で笑ったそうだ。「女ばかり集まって何が面白いのよ。つまンないわ」。ああ、宇野さんも山田さんも素敵! かっこいい女性の影響で今の私はできている。

村井有紀子 元々中田浩二さん好きから始まったサッカーオタクな我、W杯の三苫選手で再燃。気づいたらブライトンのメンバーシップ加入。試合観戦いくぞ〜!

 

すべての感情をことだまに

その昔、ティーン誌の恋愛特集を読んで、すぐさま買いに行ったのが山田詠美さんの『放課後の音符』だった。激しい恋に向き合う登場人物たちは、とてもまぶしかった。山田さんが、当時抱えていた怒りや夢中だった恋の話を知れるなんて何と贅沢なことだろう。「初恋はジャズの音階」「百聞よりワン・ラヴ」と素敵なタイトルにもワクワクする。「小説を書く真剣さに、よこしまな感情が似合わない」。言葉にも恋にも真摯に向き合い、選び抜かれた言葉たちにきっと胸打たれるはずだ。

久保田朝子 トレーニングに関する本を読み、取材をすればするほど、筋肉がどれほどカラダにも心にも大切なのか身に染みてきます。次号の特集もお楽しみに!

 

ひとつひとつの言葉が染みわたる

「約束は全力で守ろうね。守れないと思ったら、すぐにそう言わなきゃ。それも勇気なんだからね」。家庭内で本を売ろうとした山田さんが作品を完成できず、家族に返金を求められた際に父が伝えた言葉だ。山田さんはこの言葉を受けて、「自分のつたなさを受け入れる勇気は、いつだって未来の自分を助けてくれた」と綴っている。この“勇気”という言葉が暖かくて、じんわり心に沁みる。みんな、上手くいかない日がある。そんな時は本書の言葉たちを思い出して、勇気を大切に生きていきたい。

細田真里衣 最近眉毛の描き方に悩み中。太眉と細眉どっちが流行ってるの? そもそも、みんな濃さってどうしてる? 今さらですが悩みが尽きません。

 

本書と出会えた幸せとともに

本が、小説が好きだ。本書を通じ著者の原体験がひも解かれていく中で、読書することの喜びを改めて噛み締める。特に印象的だったのは、「読書は、タイムマシンに乗るようなものだ。ここではないどこかへ。現在ではない時の流れの中へ。自分ではない誰かの心へ。」という一文。読書にのめり込んでいった自らの原点も自然と思い返され、私もまたこの自由に魅了された一人だったことを思い出す。著者の記憶を辿りながら、小説が自分自身に与えてくれた、たくさんの幸せを知るのだ。

前田 萌 年末年始は念願の愛犬のもとへ。会うたびに「猫吸い」ならぬ「犬吸い」をしますが、犬アレルギーがあるためくしゃみがとまらなくなります。

 

ひとりの小説家が抱える鮮やかな記憶の数々

山田さんの幼少期から現在までの軌跡が描かれた本書は、自伝でありながらも、まるで物語のようでもある。「小説家は格好いい」と思っていた幼少期から、漫画家として活動をしてみたり、夜遊びに夢中になったりと、たくさんの遠回りをしながらやがて作家・山田詠美となっていく。山田さんのそばにはいつも小説があり、言葉があった。その小説と言葉が、彼女の人生の中で起きたそれぞれの出来事を一本の「線」としてつないでいく。そうして生まれた一冊の尊さに思わず胸が熱くなる。

笹渕りり子 私は幼い頃、本を読み始めると何時間でも同じ姿勢でいたそうな。時を経て今、こうして本に関わる仕事をできているのは不思議なものです。

 

「読書の効用」を生んでいるもの

山田詠美さんの自伝小説であり、女流文学の来し方を描いた本作。特に印象的なのは、周囲の人々との出来事と、そのことに対する怒り、悲しみといった感情が、今起きたことのように鮮明に描かれていることだ。小説家は「いちいち言語化して文字にする、愚直なまでの働き者の自分を心に住まわせなくてはならない」と言う山田さん。自分の身に起きたことを引き受け、見つめ直し、愚直に書かれているからこそ、その物語は胸を打ち、その中に自分、そして希望を見つけることが出来るのだ。

三条 凪 年賀状じまいのはがきが売れているそう。小中学生のとき、両親に倣って100枚近く手書きしたのが思い出。その時もらった年賀状は今でも宝物です。

 

魔法のような言葉たちに導かれて

高校生のときに何度も山田詠美さんの小説を読み返したことを今でも覚えている。そんな彼女の自伝は一文一文に痺れる。正確には読んだ後、何度も反芻してしまう文章。出会った言葉たちに導かれるように小説家になった山田さん。そしてこの本に綴られた魔法のように美しくたくましい言葉たちは、これからまた別の誰かの人生を導いていくのだろう。人も言葉も一期一会なのだと改めて実感する。すべての人に読んでもらいたい一冊。それにしても、山田さんは本当にかっこいい。

重松実歩 編集部に新規加入しました。初めてのことばかりですが、ドーパミンが大量分泌されてワクワクの毎日です。自分らしく精進してまいります。

 

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