ドラマ『サ道』プロデューサーのサウナ愛が凝縮! 全国の名所やサ飯、そして人間ドラマも網羅した、サウナー必読の一冊

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公開日:2023/1/15

サイコーサウナ
サイコーサウナ』(五箇公貴/文藝春秋)

 熱さに耐えて、したたる汗に全神経を集中させる――。今や一大ブームとなったサウナ。ひとたびハマると、今日も、明日も、明後日も通いたくなる不思議な魅力を持つ。

 ブームの火付け役となったドラマ『サ道』のプロデューサー・五箇公貴氏の著書『サイコーサウナ』(文藝春秋)は、著者自身が巡った全国津々浦々のサウナ施設や、その経営者の経歴を綿密な取材をもとに紹介する一冊だ。著者やドラマの演出を担当する長島翔氏、キャストの原田泰造氏、三宅弘城氏、磯村勇斗氏らの座談会も収録。ビギナーからベテランまで、すべての「サウナー」の心をくすぐる内容となっている。

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全国のサウナを疑似体験。にじむのは著者の「サウナ愛」

 五箇さんのサウナレポートは、今まさに足を運んでいるかのような錯覚に陥るほどリアルだ。そこには「サウナはいつも僕のそばにいてくれた。サウナがなければいまの僕も、未来の僕もきっと存在しない」と主張するほどの著者による「サウナ愛」がにじむ。

 そうした思いのもとで綴られたレポートの数々を読むと、経営者によるこだわりも様々だと知ることができる。兵庫県・神戸市の「神戸サウナ&スパ」はその一例で、著者は「このサウナには品がある」と紹介する。

 この施設では「オートシャワー付きの塩サウナ」や「セルフロウリュ(※)ができる静かなフィンランドサウナ」(※熱したサウナストーンにみずから水をかけ、蒸気を発生させる入浴法)など、4種類のサウナを設置。入浴後に食べるサウナ飯=「サ飯」として名物の「西宮サラダ」や「肉団子」などのメニューもある。

 フィンランドで語り継がれる小人の妖精で「サウナの守り神」である「トントゥ」の像が見守る施設でもあり、著者は「いわばサウナ界のパワースポット」とすすめる。

地元に恩返しを。老舗サウナの背景にある人間ドラマ

「神戸サウナ&スパ」の経営者・米田篤史氏は、元々は「特に決まったコンセプトがなかった」と本書で語る。祖父の時代から受け継ぐ「庶民のための街場のサウナ」で、昔は「終電後にいらっしゃったお客さまが床で、廊下で、隙間があれば寝てる」といった環境であったが、阪神淡路大震災で建物が傾いたことで「営業ができない状況になったのでイチから作り直そう」と決心したという。

 著者は取材により、米田氏の歩みをたどる。大学卒業後は、東京の会社に就職。しかし、阪神淡路大震災を機に地元へ戻った米田氏は、「当時50歳だった父」と共に「ほぼ全壊」の建物を見て「とにかく周りの迷惑になってはいけないから建物を潰そう」とも考えた。

 そんなとき、背中を押してくれたのは「神戸サウナ、いつになったら再開してくれるんですか」という街の人たちの声だった。「地域のみなさまにこんなにも愛されていた施設だったんや」と気付いた米田氏は「1日も早く再建せなあかん」と奮起。「地震から2年と3カ月後」に「神戸サウナ&スパ」は「再オープン」を果たした。

 再建から現在へ至るまでには、「何度もフィンランドに足を運び、本物のサウナがどういうものか」を身をもって体感するなど、努力もあった。そして現在は、泥酔客の入店禁止やアメニティの充実といった「ホスピタリティ」を重視。父の日に「お父さんの背中を流した子どもにはアイスクリームをあげる」などのユニークな企画も展開しながら「地元に恩返ししたいという想い」を胸に、経営を続けているという。

 本書では、北海道から福岡までのサウナ施設を紹介するだけではなく、「日本サ飯紀行」として、施設やその周辺で食べたくなる「サ飯」の食べ歩きレポートも収録されている。単なるガイドブックとしてではなく、サウナとサウナを取り巻く人々のドラマにふれられるのも、この本ならではの魅力だ。

文=カネコシュウヘイ