自分らしく幸せな100年を生きるには? 102歳おばあちゃんの日常に学ぶ、機嫌よく老いるヒント

暮らし

更新日:2023/1/16

102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方
102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方』(石井哲代、中国新聞社/文藝春秋)

 人生100年時代と言われるが、100歳になった自分を想像するのは難しい。歳を重ねることに漠然と不安を感じ、将来から目を背けている人も多いのではないだろうか。本書『102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方』(石井哲代、中国新聞社/文藝春秋)は、そんな人の心を軽くするとともに、若い世代が「今」を生きる上でのヒントもくれる1冊だ。

 著者は、1920年生まれで『この世界の片隅に』のすずさんの5つ年上という102歳の石井哲代さん。83歳で夫を見送って以来、周囲の人に支えられながら広島県の山あいの町で一人暮らしをしている。20歳で小学校の先生になり、26歳で結婚。56歳で退職してからは、畑仕事に勤しんでいるそうだ。

 本書は、100歳を超えても元気な哲代さんの暮らしを取材した、中国新聞の連載記事をまとめたもの。哲代さんが30年以上書いてきたという日記の形式で、朝ご飯を作って食べたり、畑仕事をしたり、近所の人と柏餅を作ったり、地域の「仲よしクラブ」に行ったりする日常を、ユーモアあふれる語り口で綴っている。

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 若い頃に比べてできないことが増えるが、できたことを褒める。物事は表裏一体、悪いことも良いほうに考える。嘆いたり人をねたんだりする暇があるなら、忙しく動く。よく食べ、よく動き、夜はぐっすり眠り、生きる喜びをシンプルに味わう哲代さんの生き方とチャーミングな人柄が、ひとつひとつの言葉から伝わってくる。穏やかな暮らしの様子と日々の感じたことを語っているだけなのに、毎日忙殺されている私たちが忘れている人生にとって大切なことが、ページをめくるたびに目に飛び込んでくるから不思議だ。

 しかし本書で伝えられるのは、前向きな言葉ばかりではない。畑仕事ができるほど元気とはいえ哲代さんは102歳。皮膚の感染症や、体重の変化による心臓への負担増で入院すると、施設入所の選択肢が哲代さんの頭をよぎる。その間、心が揺れていたことや、周りに迷惑をかけてしまったと落ち込み「弱気の虫が出た」ことも、哲代さんは正直に語る。子だくさんの時代に、子どもを授からずに思い悩んだことや、子どもがいないことに引け目を感じて、仕事や畑仕事を負けん気でがんばったことも打ち明ける。

 読み始めてすぐの頃は、穏やかで前向きな哲代さんの言葉を前に、たとえ自分は100歳まで歳を重ねてもこのような境地に至るのは無理だと感じた。しかし、若い頃は悩みを抱えて「とがっていた」という哲代さんの告白にホッとする。今は達観しているように見える哲代さんもこれまで大いに悩んできたのだとわかると、彼女の言葉は重みを増す。もがいた過去の自分も、ゆったりしたテンポで生きる今の自分も認めてあげたいと語る哲代さんに、仕事や私生活に悩める読者は救われると同時に、今の苦しみも明日へつながるという勇気をもらえるだろう。

 そして本書を読み終わった後にもっとも心に残るのは、哲代さんの強さだ。毎日、食べるものや行動を自分で決めて、人の助けを借りながら自分でやりきるという強い意志、100歳を超えての一人暮らしへのこだわりに滲み出る。長生きには、健康管理も老後を支えるお金も必要だ。しかし、自分らしく人生を楽しむために一番大切な「自律」のあり方を、哲代さんは本書を通じて優しく教えてくれる。

文=川辺美希