中島敦『山月記』あらすじ紹介。周りを見下す、意識高い系男子はなぜ虎になったのか?

文芸・カルチャー

更新日:2023/4/4

山月記』と聞いて懐かしさを感じる方もいるのではないでしょうか? この小説は多くの教科書に掲載されている短く面白い作品ですが、内容を忘れてしまった方もいるかと思います。そこで、『山月記』について、結末までのストーリーに沿ってわかりやすく解説します。

山月記

『山月記』の作品解説

 中島敦による短編小説で、国語の教科書にも掲載されている、非常に知名度が高い作品です。本作は1942年に文芸雑誌『文學界』に掲載された著者のデビュー作。内容は高名な詩人になるという夢にやぶれ、虎へと化けてしまった李徴という男が、その業を友人の袁傪に語るというもの。プライドの高さから才能を磨く努力から逃げ、社会から孤立をしてしまう李徴の最後のシーンは、現代でも強い共感を呼んでいます。

『山月記』の主な登場人物

李徴(りちょう):秀才であるが非情な自信家
袁傪(えんさん):李徴の旧友である監察御史

『山月記』のあらすじ

 唐代の中国、若くして科挙に合格した李徴は、役人として働いていた。博学で才能にあふれていたが、自尊心の高さから俗悪な大官に屈するのを良しとせず、役人を辞め、詩家として名を残そうと考えた。

 数年の時が過ぎたが名は上がらず、妻子を養えないほど困窮した李徴は、一地方官吏の職に就いた。しかし、蔑んだかつての同僚たちは出世し、今の李徴はその命を聞く身。屈辱に耐えられなくなった李徴は発狂し、姿を消してしまう。

 翌年、監察御史の袁傪とその部下たちは、旅の途上で一匹の虎に襲われる。その虎の正体は旧友の李徴であった。李徴によると、虎になった理由はわからず、日に日に人の心が保てなくなりつつあるという。そして、李徴は袁傪に「人でなくなってしまう前に己の詩を後代に残してほしい」と頼む。

 併せて即席の詩まで書きとらせた後、李徴は「虎になってしまった理由は、自分に才が無いことが露呈することを恐れ、人々から遠ざかった“臆病な自尊心”と“尊大な羞恥心”である」と告白する。

 別れ際、李徴は袁傪に残された妻子のことを頼む。そして、「妻子よりも、詩業ことを先ず頼むような男だから獣に身を堕とすんだ」と、自嘲しながらも虎になってしまった理由に辿り着く。

 茂みの中から漏れる悲涙の声を背に、袁傪もまた涙し李徴のもとを後にする。やがて丘の上に着き、振り返った袁傪が見たものは、一匹の虎が茂みから躍り出る姿だった。虎は月を仰ぎ、咆哮すると元の茂みに躍り入り、再び姿を現すことはなかった。

<第43回に続く>