同時発売記念! 『探偵はもう、死んでいる。』著者・二語十&『死亡遊戯で飯を食う。』著者・鵜飼有志Wインタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2023/1/31

 2023年1月25日にMF文庫J『探偵はもう、死んでいる。8』『死亡遊戯で飯を食う。2』(どちらもKADOKAWA)が同時発売となった。両作品はともにMF文庫Jライトノベル新人賞から生まれた作品であり、若い読者から支持を集めている。このたび、それぞれの著者である二語十先生と鵜飼有志先生から、自身の作品、そしてお互いの作品について、両作の担当編集がお話を伺った。

探偵はもう、死んでいる。
探偵はもう、死んでいる。』(二語十:著、うみぼうず:イラスト/KADOKAWA)
死亡遊戯で飯を食う。
死亡遊戯で飯を食う。』(鵜飼有志:著、ねこめたる:イラストKADOKAWA)

advertisement

──新刊の同時発売を記念して本日は二語十先生と鵜飼有志先生にお越しいただきました。本日はよろしくお願いします。

二語十さん(以下、二語十)鵜飼有志さん(以下、鵜飼):よろしくお願いいたします。

──まずは自己紹介をお願いします。

二語十:福岡県出身で、経歴としては大学を卒業してから自分探しの旅に出て、フリーターとかもやりつつ、まあ最終的にラノベ作家にたどり着いたという感じです。好きなものはスポーツ、お笑い、アイドルなどエンターテインメント全般。苦手なものは、実はホラーとグロテスクなものです(笑)。

鵜飼:出身は大阪で、大学生になるときに引っ越して以来ずっと神戸にいます。大学を辞めてからラノベを書くようになりました。好きなものは、最近はルートビアっていうアメリカの飲み物をよく飲んでいます。苦手なのは寒さです。

──小説を書きはじめたきっかけを教えてください。

二語十:物語自体は昔から好きでした。子どものころ病弱だったので、ずっと病院で絵本を読んでいた記憶があります。また高校生くらいの時に『バクマン。』(大場つぐみ:原作、小畑健:漫画/集英社)を読んで、漫画原作という仕事があることを知り、その後にライトノベルという媒体というか概念を知って、こういうものだったら仕事にできる可能性があるなと考えました。あとは大学が近代文学専攻だったので文学というものがずっと傍にあり、仕事にする選択肢に小説というものが挙がりました。

──確か書き始めたのは大学生になってからでしたっけ?

二語十:そうですね。趣味で大学1年生くらいから書いてはいたんですけども、仕事にしたいと思って新人賞の公募に投稿をし始めたのは3~4年生からでした。就活が嫌だったので(笑)。

鵜飼:僕も書き始めたのは大学ですね。実は僕は第一志望の大学に落ちているんですよね。その時に大げさかもしれないですけど「まともなコースを外れてしまったから、何かをしなくては」と思ったのが始まりです。その後いろいろあって大学を辞めているんですけども、そこから本格的に書き始めました。

──ライトノベルというものの存在は知っていましたか?

鵜飼:そうですね、中学生くらいから読んでいました。確か最初に読んだのは『バカテス(バカとテストと召喚獣)』(井上 堅二 :著、 葉賀ユイ:イラスト /エンターブレイン)だったと思います。

二語十:自分は一番最初は『俺妹(俺の妹がこんなに可愛いわけがない。)』(伏見つかさ :著、かんざきひろ:イラスト/ KADOKAWA)でしたね。それもはじめはマンガだと思って手に取ったら「何じゃこりゃ」と驚いた、というのが始まりだったかなと思います。でも読んだら最高に面白くてすぐにハマりました。

──続いて、様々な賞がある中でMF文庫Jの新人賞に応募した理由を教えてください。

二語十:一番の理由は〆切になってしまうんですが。「大学を卒業してから3年で働こう」と思っていたので、それにギリギリ間に合う最後のチャンスが春までに結果発表のあるMF文庫Jの第3期(12月〆切)だったんですよね。

鵜飼:正直なことを言ってしまうなら、送れるところには全て送っていますね。ただ回数はMF文庫Jが一番多かったはずです。PDFデータで出せるのと、通年やっているのがありがたく思いました。

──受賞した時の気持ちはどうでしたか?

二語十:働き始める予定だった前日に受賞の連絡を貰ったので、すごくほっとしたというのが正直な気持ちでしたね。あとこの頃は「小説家で食べていく」ことよりも「1冊本を出す」ことを人生の目標にしていたのですが、MF文庫Jの場合は佳作の時点で本が出ることが確約されるので、電話を貰った瞬間「ああこれで目標が叶った」という感じでした。残りの人生50年くらいはもうボーナスステージだな、と(笑)。

鵜飼:意外と冷静だった気がします。電話がかかってきた時、寝起きだったんですよね。その状態だったのであまり緊張もせずに。

──「そうなんだ~」みたいな?(笑)

鵜飼:まあそうでしたね(笑)

──受賞時の気持ちを伺いましたが、次に今の心境はいかがですか? 鵜飼有志先生は初めて本を出されて、二語十先生は第1巻を出してから3年が経ち、アニメも放送されてというところですが。

鵜飼:生殺しの気分です。

──どういう意味ですか(笑)

鵜飼:今後、どうなるのかまだ分からないですから。2巻を出していただけることになりはしましたけれど、「作家の力量が試されるのは2巻から」とも言いますので、まだまだ安心とはいえない心持ちです。

──読者の反応が色々あったと思うのですが、どうでしたか?

鵜飼:刊行前に想像していたよりも受け入れてもらえてありがたい、というのが正直な感想です。こんなん出していいのか、とんでもないことになるんじゃないか、と思っていたので、ひそかに胸を撫で下ろしております。

死亡遊戯で飯を食う。
『死亡遊戯で飯を食う。』1巻で殺し合いのゲームに参加する少女たち

──私もそんなことを想いながら感想を読んでいました。二語十先生はどうですか?

二語十:自分の元々の目標はデビューをすることだったので、それについては100%満足しているんですが。今はやっぱり読者の皆さんもそうですし、コンテンツが大きくなると関係者の方も増えるので、そういった意味では自分だけの作品ではないと思うようになりました。色々な意味で責任が重いなぁと思いながら、日々書いていますね。

──プレッシャーのようなものを感じる、と?

二語十:悪い意味ではないです。当たり前なんですが、「自分さえよければ」というわけではないですし、自分ひとりの作品ではないので、良い意味で責任感を持ちながらという感じですね。

──デビューをしてからこれまでで一番嬉しかったことは何ですか?

鵜飼:だいたい全てのことが嬉しかったです。

──(笑)

鵜飼:一番は新人賞の結果が発表されて自分の名前が載って、いわば物的証拠ができた瞬間ですね。もしかしたら壮大なドッキリなんじゃないか、という疑いがミリグラムほど残っていたので、それが払拭されたのが嬉しかったです。

二語十:アニメの2期が決まったことかなと思います。1期の時に凄く思っていたのは、関係者の方々というか、みんなが「この作品をやってよかったね」って思える結果になるといいなというところだったので。それこそこのアニメがほぼデビュー作となるキャストさんがいたりだとか、主題歌のアーティストさんも初めてのアニメの音楽のお仕事でもありましたから。2期ができるっていうことは、ある程度1期が色々なところの現実的なラインをクリアできたということかなと思うので、その意味で一番良かったなと思います。

──ご好評をいただいたが故の続編ですからね。とてもありがたいです。

探偵はもう、死んでいる。Season2
制作が決定したTVアニメ『探偵はもう、死んでいる。Season2』

■お互いの作品について

──二語十先生には『死亡遊戯で飯を食う。』1巻の解説を書いていただきました。ありがとうございました。とても悩んで書いていただいた様子だったのですが、改めて本作を読まれていかがでしたか?

※二語十先生の解説全文はこちら

二語十:自己紹介でも言ったようにグロテスクなものが本当は苦手なんですが、そんな自分が楽しめたぐらい、とても面白かったです。解説にも書かせてもらった通り、賛否両論という側面はあるのですが、一方でそういう言葉で誤魔化す必要もないのかなとも思いました。振り返ってみると『探偵はもう、死んでいる。』も刊行当初は賛否両論だと言われていて、僕自身もその言葉に逃げたくなったことがありました。「面白いと思ってくれる人が少しでもいればいいか」みたいな。でもそういう姿勢はエンターテイメント小説を書く身として良くなかったなと今では反省しています。

 そして『死亡遊戯で飯を食う。』に関しては賛否両論という言葉に逃げなくても十分戦える武器、エンタメとしての強い毒のようなものが圧倒的にあったので、それをどうにか伝えたいと思いあの解説を書きました。(同じく『死亡遊戯で飯を食う。』1巻の解説を書いた)竹町先生(『スパイ教室』著者)も同じようなことをお考えになっているんじゃないかなと思います。

──鵜飼先生は『探偵はもう、死んでいる。』を読まれてどうでしたか?

鵜飼:テンポよく、展開が次々に移り変わっていくのが印象的でした。普通、物語を成立させるのに必要な量よりも明らかに多い。それが独特の読み感を生んでいるのだと思います。

 長距離走で「あの電柱までは走ろう」を繰り返して走破する、みたいなことに近いかもしれません。次のページを読ませる、を何百回と繰り返してエンディングまで導く。そういうテイストがあると感じました。

■キャラクターについて

──両作にはそれぞれにシエスタ、幽鬼と強烈なヒロイン(兼主人公)がいますが、ご自身のどういうところから生まれたキャラクターなのでしょうか?

二語十:うーん、シエスタを含めてほとんどのヒロインは、僕自身が持っていないものを託しているイメージですね。

鵜飼:僕は多分、自分の一部分の要素を極端に広げた、という感じです。

──正反対で面白いですね。ふたりとも戦うキャラクターなのですが、戦うヒロインの魅力はどんなところだと思いますか?

鵜飼:主体的に動いている方がキャラクターは魅力的に見えると思うので、ヒロインの魅力を強めようとすると戦ったり強かったり、となるのかなと思います。

二語十:僕も同じような感じですね。特に今は停滞した暗い世の中でもあるので、先頭を切って歩いてくれるような、背中を見せてくれるようなヒロインを書きたいです。そういう概念的な強さをもったヒロインが潜在的に求められているんじゃないかなとも思います。

──鵜飼先生はシエスタをどう思いましたか?

鵜飼:(読者ともう一人の主人公・君塚から見て、)手が届くか届かないかくらいのところに常にいるわけですよね。既に亡くなっていたり、生きている頃のシーンでもタイムリミットの制限があったり。それが求心力を生んでいるような感じがします。

探偵はもう、死んでいる
『探偵はもう、死んでいる。』のヒロイン・シエスタ

──常にギリギリの存在ですよね。二語十先生は幽鬼についていかがでしょうか?

二語十:幽鬼は彼女の思考にこちらの理解が及ばないので感情移入は全くできないんですが、それはある意味圧倒的な「ヴィラン」を見ているような感じでした。理解は及ばないがめちゃくちゃかっこいい悪役、というのが他の作品にもいると思うのですが、そういったものとして読みました。

 いつかもっと過去の話などで彼女がああなった理由が出てきてほしい想いもあり、一方でそんな理由は全く無い、でもいいなという想いもあります。敵キャラとして見たときに、敢えて何のバックグラウンドもないというのも魅力的だと思うので。

死亡遊戯で飯を食う。
『死亡遊戯で飯を食う。』の主人公・幽鬼

──これは完全に思考実験になりますが、シエスタが「死亡遊戯」に参加したらどうなると思いますか?

二語十:ある程度は幽鬼に近い、合理的な考えをする部分はあると思います。本当にどうしようもなくなったら、2巻でシエスタが手を下そうとした瞬間があったように、そういうこともするだろうと。もしくは自分のすべてを託すことのできる存在が参加者に居たら、代わりにその子に遺志を継いでもらうこともあるのかなとも思います。

──なるほど。シエスタに君塚がいなかったら幽鬼と近いメンタリティになっていた、と見ることができるかもしれないのですね。鵜飼先生、幽鬼は探偵をできると思いますか?(笑)

鵜飼:いや、向いてないですよ推理は(笑)。

■作品の内容・精神性

──『死亡遊戯で飯を食う。』のゲームの舞台や、『探偵はもう、死んでいる。』の世界観は個性的で独自性のあるものだと思うのですが、何から生まれているのでしょうか?

二語十:ある意味で、お笑いの大喜利みたいな感じですね。大喜利というのはあるテーマがあって、それに対して解答を少しずらすか正反対に振り切るか、という遊びだと思っていて。「お客様の中に、探偵の方はいらっしゃいませんか? 」というフレーズも元は大喜利的に、「飛行機の中でこんなアナウンスが聴こえてきたら嫌だ」というところから考えています。笑いを求めている大喜利ではないんですけど。

──もともとカクヨムにも『探偵はもう、死んでいる。』を投稿していたと伺っています。その時から今言ったような一つのフレーズから入って、面白くなりそうな方向に拡げたり、ずらしたりしていく書き方を毎話していたのですか?

二語十:そうですね。毎回どうなったら面白いかを最優先していました。大まかな全体のプロットとして、最後にシエスタと君塚が共闘して敵を倒すというところはあったのですが。

──夏凪や斎川もそうしたライブ感で生まれてきたのでしょうか?

二語十:シエスタが死んだという設定から始まるので、代わりに物語を引っ張ってくれるヒロインが必要で、それを担ってくれたのが夏凪でした。また作品の空気感を明るくするためにアイドルキャラを出したいと思っていたので、そういう意味で斎川を途中で登場させました。

探偵はもう、死んでいる。
『探偵はもう、死んでいる。』のもう一人のヒロイン・夏凪

鵜飼:僕の場合は目に入ったものをそのまま使っているケースが多いです。例えば2巻を考えていた頃にはとあるゲームの世界大会があったのですが、あまり個人的には好きではない人が優勝していて。「これは悔しいな」と思い、今の話になりました。

──登場人物の気持ちの面ですね。『死亡遊戯で飯を食う。』の設定はどこから生まれたんでしょうか?

鵜飼:毎回衣装が変わる、というのだけは元ネタが一応ありまして。新都社に人狼ゲームをやる漫画(『汝は人狼なりや?』)があって、そこでは毎日衣装が変わるんですよ。それが念頭にあった気がします。ライトノベルということで様々な衣装のヒロイン達のデスゲームが見られたら面白いよね、と。

死亡遊戯で飯を食う。
コスプレして「死亡遊戯」に参加する幽鬼たち

──続いて両作のタイトルに入っている「死」について伺います。それぞれの作品で「死」を扱う際に考えていることや、読者に伝えたいことはあったりしますか?

鵜飼:大げさかもしれないですが、問題になるような事件は起こらないで欲しいなとは思います。

──そうですね……それは切実です。

二語十:う~~ん、ちょっとだけ長くなるんですが。今はもう会えなくなってしまった旧友がいまして。自分が20歳の誕生日を迎えた時に、その友人が言ってくれたある言葉がすごく印象的だったんですけど、いまだに毎年誕生日を迎えるたびにその言葉が思い出されて背筋が伸びるんですよね。他にも一緒に見に行った映画だとか、その友人が好きだった音楽だとかは、いまだに観られないし聞けなくて。それぐらい一人の人間がいなくなる、というのは残された側の人間に根深い影響を及ぼすんだなと。

 読者には中高生の方も多くて、まだそこまで「死」というものが身近ではなかったりもすると思います。この作品は個人的な想いも抱えながら執筆はしていますが、たとえば「死」についてこういう風に考えてほしいというような教訓を込めたいとは考えていません。作品はあくまでもエンタメとして楽しんでもらえればいいのかな、と。鑑賞の仕方は自由であってほしいので。

──両作品の直近の展開についてお話をお願いします。

鵜飼:2巻が、出ます。

──(笑)。2巻の見どころは?

鵜飼:1巻よりもまっとうに面白いものになっているとは思うんですが、自分のまっとうが信じられないです。

──新キャラ・御城のキャラクターが立っているので僕もそう思いますよ。二語十先生はいかがでしょうか?

二語十:新刊がまもなくで、もしかしたら前回の7巻は時系列が飛んだりで戸惑わせたりしたかもしれませんが、8巻はある意味読者の皆さんが読みたいものでもあるのかなと思います。自分自身が書いていて良いものを書けたなという自信もあるので、楽しんでいただけたらと思います。

──最後に、読者のみなさまへのメッセージをお願いします。

二語十:いつもシリーズの応援ありがとうございます。本当にSNSなどでのコメントの熱量がそのまま作品の勢いになっている時代でもあるので、引き続き応援いただけたら嬉しく思います。

鵜飼:最後までお付き合いいただきありがとうございます。『死亡遊戯で飯を食う。』の2巻、読んでください。

・二語十(にごじゅう)
第15回MF文庫Jライトノベル新人賞にて《最優秀賞》を受賞し、『探偵はもう、死んでいる。』にてデビュー。同作はシリーズ累計100万部、TVアニメの第二期が制作決定するなど人気作となる。

・鵜飼有志(うかい・ゆうし)
第18回MF文庫Jライトノベル新人賞にて《優秀賞》を受賞し、『死亡遊戯で飯を食う。』にてデビュー。同作は2巻発売前に1巻の重版が決定するなど好調。