2022年話題をさらったアニメ『リコリス・リコイル』の魅力とは? 累計発行部数12万部を突破したコミック版から見えたこと

マンガ

公開日:2023/1/28

リコリス・リコイル
リコリス・リコイル』(備前やすのり:漫画、Spider Lily:原作/KADOKAWA)

 本作の舞台である日本は凶悪犯罪が一切起こらない国になっていた。その状態を秘密裏に維持しているのは“リコリス”と呼ばれる少女たち。彼女たちは今日も街の中に紛れ、人知れずテロリストや犯罪者たちと戦っていた。歴代最強のリコリスと言われている錦木千束(にしきぎちさと)と相棒の井ノ上たきな。このふたりを主人公にしたオリジナルテレビアニメが『リコリス・リコイル』である。

「覇権アニメ」という言葉がある。年間、あるいは季節クールでDVD・ブルーレイディスクを最も売り上げた作品に対する呼称だ。2022年の夏クールにテレビ放送された『リコリス・リコイル』はそんな「覇権アニメ」となった。ディスクは初週で2万枚以上を売り上げ、書き下ろしスピンオフノベルは単巻で累計発行部数25万部を突破している。

 本稿は、発売から1カ月で累計発行部数12万部を突破したコミック版『リコリス・リコイル』(備前やすのり:漫画、Spider Lily:原作/KADOKAWA)を紹介し、作品の魅力を考察していく。

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アニメと異なる構成のコミック版の見どころ

 リコリス・たきなが、とある事件をきっかけに彼女たちが属する組織の支部「喫茶リコリコ」に転属になる。そこには組織から一目置かれているリコリス・千束がいた。彼女は明るい楽天家で、モットーは「やりたいこと最優先」。クールで効率主義のたきなは、そんな千束に最初はいらだつが、徐々に打ち解けていく。ふたりは日本を揺るがそうとするテロ計画と“千束自身を巡る陰謀”に巻き込まれ、立ち向かっていくのだ。

 このアニメのストーリーを、コミック版は忠実かつ丁寧に追っている(単行本1巻時点)。ただそのままというわけではない。冒頭では作品の設定や背景が語られず、それらは物語が進むにつれて少しずつ明らかになっていく。また構成を一部入れ替えており、シンプルに読みやすく(分かりやすく)なっていると感じた。アニメを観た方もその違いを確かめてほしい。

 また本作の大きなポイントであるガンアクションの描写も「分かっている」という印象だ。銃を撃つ前の予備動作や飛び上がる薬莢などもしっかりと描いており、迫力があり緻密に描き込まれた大ゴマもいい。テンポの良さと動きと迫力を最大限に魅せてくれる。また画をじっくりと細かいところまで見られるのはコミック版のメリットだろう。

 そして最大の魅力、千束とたきなのカッコよさとかわいさをちゃんと楽しむことができる。戦闘シーンのふたりは当然キリっとしており、日常シーンとのギャップが最高だ。個人的には銃を持つ手と指の作画が美しいと感じた。またコロコロと変わる千束の表情・愛くるしさはそのままに、たきなはアニメよりも表情豊かになっているように見える。笑顔、照れ顔、崩れたデフォルメ顔……ストーリーはまだ序盤なので、これからもっといろいろな表情を見られると思うと非常に楽しみだ。

読んで確信した「ふたりの少女の物語」ヒットの理由

 このコミック版『リコリス・リコイル』を読んで何に惹きつけられるのかを改めて考えてみた。やはりそれは、千束とたきなのキャラクターの良さに他ならない。重い運命を抱えながらも前向きで明るい千束。一見クールでも芯にマグマのような熱さを隠し持つ、たきな。正反対のふたりがコンビを組んでいることは、作劇上優れた設定であるのは確かとはいえ、やはり単純に面白い。アニメのふたりは声優さんの演技も相まって自然体で人間くさいキャラクターだったが、このコミック版でもしっかりとそれが表現されている。個人的には千束とたきなは2022年最高のペアである。

 そんなふたりが物語を動かしていくのだが、言ってみれば、理不尽な状況や事件に対する千束とたきなの気持ちの変化や行動が作品そのものだ。そしてそれが分かるだけでじゅうぶん『リコリス・リコイル』は楽しめるのだ。前述の通り、冒頭で世界観や詳細な設定が語られていないコミック版では、それが余計に際立っている。

 千束とたきなというキャラクター、ふたりの友情と活躍は、一言で言うと“エモい”である。アニメを観ていなくても、一読で気持ちが動かされるはずだ。

文=古林恭