クラブエリー・ここりく支配人/歌舞伎町モラトリアム⑧

エンタメ

公開日:2023/2/14

 歌舞伎町の様々な「エモい」ホストと対談し、現代のホストクラブについて語りつくす新連載、歌舞伎町モラトリアム。

クラブエリー・ここりく支配人

<対談者プロフィール>
ここりく/山形県出身。1993年3月4日生まれ。O型。L’s collectuon Smile group club ellie所属。2022年度年間売上1億3200万over、指名本数100本over。キャッチコピーが「愛の戦士」なだけあって、愛の探求心が強い玄人系ホスト

 第5回は自らを「愛の戦士」と名乗る、クラブエリーの「ここりく支配人」にホストの仕事について、歌舞伎町の愛について語っていただきました。

特殊な環境だが高額の稼ぎのチャンスがあるホストクラブ

佐々木:ホストが通算9年目ということは、辞めていた時期もあるんですか?

ここりく:そうです。一度、かなり売れっ子だった先輩が「不動産業を始めたい」と誘ってくれたんです。それで、同じタイミングで辞めて、まずは勉強のために就職しました。

 ちなみにその先輩は、お客様とお付き合いをしていて、結婚したんです。それを見ていたら、自分も結婚したいという願望が爆発しました。

佐々木:もともと結婚願望はあったんですね。

ここりく:そうですね。やっぱりプレイヤーはいつまでもできる訳ではないし、昼の仕事も考えたいな…って。それでホストを辞めたんですが、勤め先がかなりブラックで。給料も年間5000円ずつしか上がらないって言われて。ホストをやっていたというのも強いけれど、「こんなに頑張ってもボーナスは200万なのか…」と色々と考えてしまって。またホストに戻りました。

佐々木:昼職も経験してみて、ホストクラブの特殊性などは働き方から感じますか?

ここりく:全然違いますね。ホストクラブでは、言葉遣いひとつで滅茶苦茶怒られる、みたいなものないですし。そもそも仕事中にタバコを吸ったりできる環境も、今はほとんどないじゃないですか。(笑)

佐々木:そうですね、学歴不問でルールも緩いけれど、組織としてはまとまっていたりするから……。少年院卒と大学院卒がチーム組んで仕事する環境って考えると稀有だなと思います。

 9年もホストをやっていると、求められている接客や時間の使い方など、お客様のニーズも変わってきていると感じますか?

ここりく:ガラケーからスマホになって、連絡手段がラインに変わって……以前よりも即レスを求められることは増えたかなとは思います。あとは電話が減りましたね。今はラインでポンポン送れるしSNSを見れば、お互いが何してるか分かるじゃないですが。昔は、会っていない時間は担当が何をしているか、今みたいに知ることができないから、やきもきしたお客様から電話がくるっていうのが多かったですね。

佐々木:確かに電話をかけてくるのは30代に近いホストが多いかもしれないです(笑)。あと「実家まで送るよ!」で住所を抑えられたりとか。ラインは簡単にブロックされるから、それ以外の連絡手段や個人情報を抑える風潮は未だにある気がしますね。

ホストも仕事とはいえ9割は普通の人間

ここりく:ホストという仕事上、女の子を騙して~みたいな印象を持たれることもありますが、基本は普通の人ですから。あまりに理不尽なことには耐えたくないし。俺は一時期、使ってくださるお金以上に痛かったら、どんなに高額でも店外やアフターは一切しなかったりしていました。

佐々木:お金を払っていることを盾に、理不尽な要求を積み重ねる子もいますもんね。一本釣りとかだとそういう子を切るに切れなくて病んでいくという…。

ここりく:俺の思う自己中は、「今から来て」とか「寂しい」のような理由で電話をかけてきて、出なかったら「女といるんでしょ、無理切る!」と言ってくるようなお客様ですね。そんな妄想で俺を決めつけて切るなら勝手にどうぞって。本当に俺のことを想ってくれるお客様はだいたい謝ってきてくれます。

佐々木:おお、バッサリ…。まぁそもそもどんな接客を提供するかはホスト側の自由だし、合わないなら切ればいいだけですもんね。

ここりく:冷静に考えて「寂しいから」という理由だけで、相手側の事情も考えずに深夜に呼び出すような行動は「社会人としてどうなの」って思います。俺は、そういう行動を許容できないんです。そういうのに対応してほしいならほかのホストさんにどうぞーって思っちゃいますね。

佐々木:でもそうやって酔っぱらって限界が来た時しか甘えられない乙女心もあって…「お金使って察して!」って子だったり、傷つくのが怖いから店外とか会いたいとか誘えない子も多いと思いますが、そういうのっておねだりしていいんですか?

ここりく:あくまで俺の意見ですが、いつ、どこで、なにをしたいかというのが明確なほうがありがたいです! そうやって誘ってくれたら、スケジュールが空いていたら普通に行きますし。

 俺は顧客の数が多いので、逆に提案がないとスケジュールを自分から立てるのが結構大変だったりするんです。それに誘ってくれると「求められてる」って感じられるので嬉しいしそういうお客様は可愛いって思いますね。

かりそめの優しさと正論の優しさ

佐々木:ホス狂の子とホストって、そういう承認欲求の共依存なところありますよね…。ラインとか店外とか、しんどくならないんですか?

ここりく:基本的には大丈夫です。人としてお客様と向き合うようにしているので、相手の言ってることが間違えてるなと思ったら納得いくまで話します。もちろん自分が間違えたときはしっかり謝りますし。だから俺のお客様は歌舞伎町で揉まれてきた玄人の子が多いかもしれません…(笑)。

 あと、俺は駆け引きが好きじゃないので、そういうのは一切しません。それがない分、一緒にいてお互いに成長できるようなホストではあると思います!

佐々木:やだ!笑 正論って時に暴力だし、甘い嘘がほしくてお金使ってるのに笑顔で正論パンチしないで!

ここりく:少しモラハラっぽくはなってしまうことは、あるかもしれないです…(笑)。人としてちゃんと向き合うのが前提なので。

佐々木:歌舞伎町はモラハラホストも多いですよね…。でもその中で理不尽なモラハラじゃないだけましなのかも…? 危ない危ない、歌舞伎町に引きずられすぎている!笑

真実の愛に自己犠牲はつきもの?

佐々木:そもそも、どうして愛の戦士なんですか?

ここりく:俺が名乗り始めた訳じゃないんですよ。酔っぱらうとすぐ愛について語りだすから周りからそう呼ばれるようになって…。

佐々木:なるほど(笑)。いろんな愛があると思いますが、ここりくさんにとって通っている女の子に対する愛ってなんですか? 歌舞伎町の愛って特殊だと思うんですよ。本当に好きだからこそ店に来てほしい、お金使ってほしいとか。自分のために夜の仕事をしているくらい本気だから愛せるとか。

ここりく:この仕事をしているからこそ、自分にお金を払ってまで会いに来てくれる方々の愛は感じますね。店に来ない女の子に「好き。結婚したい」って言われても、何も思わない。頑張って働いたお金を使ってくださるお客様への方が愛は深いです。

佐々木:自己犠牲的な愛ってことですか…?

ここりく:自己犠牲は誰かと一緒にいるという選択をしたときに必ず出てくるものだと思うので。結婚して相手のために働くとかもそうだし。だから、相手のためにどれだけ尽くせるか、っていうのは将来結婚とかそういうのを考えてホストを上がった先もいたい、という話をするお客様に対しては見てしまう部分もあるかもしれないです。

佐々木:その自己犠牲には、職種も含まれてるんですか? 女の子の中には「嫌な思いして稼いだお金なんだから尊重してほしい」みたいな意見もあって。嫌なことをどれだけ頑張れたか、に愛が宿っているという言説も見受けられるんですが…

ここりく:うーん。俺は職種に関しては関係ないかなと思います。例えば、どんな仕事でも1000万円を稼ぐとなったら、それだけの労力を人生で費やしているわけで。昼の仕事で100万円稼ぐのも、夜の仕事で100万円稼ぐのも労力は一緒なんじゃないかなと。

 何を捨てるかの話だと思ってるんですよ。今、昼の仕事でそこまで頑張らなくても100万円を稼げている人は、そこに到達するまで時間も頭もたくさん使ってるわけで。

 突き詰めれば仕事って、誰かがやりたくないことを代わりにやってるからお金が入ってくるものだと思うんです。だから好きなことを仕事にしている人は本当にすごいと思う。みんながやりたくないことを好きって言えるのは才能です。

自分に感情を向けてくれる時点で愛

佐々木:歌舞伎町における愛として、ホストがつく嘘は愛なのかという問題があると思うんですよ。

ここりく:なるほど~、いい質問しますね(笑)。前提として嘘は良くないけど、女の子がそれで幸せになるのであればっていう考えはあるかなと。

佐々木:でも殴るとか束縛するとか、そういうのも全部「愛だよ」みたいに片づける輩もいますよね。

ここりく:そういう人とは関わりたくないですね(笑)。

佐々木:けど、そういう行為で自分を壊してほしい女の子もいますよね。私も自分の人生と金銭感覚をぶっ壊してくれるホストなら骨の髄まで沈められたいです。自分の人生を考えるのが疲れた時に、好きな人に壊されたいっていう願望はあると思う。

ここりく:それって、自分の人生に責任を持てないから生まれる考えだと思います。代わりに責任を取ってほしいってことですよね。例えばDVとかも、痛みで生きているなって思う人もいれば、リスカとかの後の傷を見て生きてるなって思う人もいるわけで…。

佐々木:暴力って、多分その間は殴ってる相手の事しか考えてないじゃないですか。殴りながらホンカノ抱きてえ~とか思われてたら嫌だけど(笑)。殴るくらい激しい感情を自分に抱いてくれて、殴ってくれる間は自分の事を見てくれていると思うと、ある種の愛なのかなとは。無関心の方が暴力性は高いのかもしれないなと思います。

 ホストから100パーセント愛されてるって自信を持つことは難しいし、自分をある程度だましてお店に通わないといけない。そうなったときに、どんな些細な事でも、例えば噛み痕とか。そういうものも愛だと受け止めたくなる気持ちは少しわかります。

ここりく:ホストは完全に信じられたらダメだと思うんですよ。「確実に私だけを愛してくれてる」って女の子に思われた瞬間に、ホストとしての価値ってなくなる。他の仕事との絶対的な違いが、金銭が発生する関係性ということなので。ホストから愛されてるわ、お金使わなくてもいいわ、ってなったときにホストってその子からしたら価値がなくなると思うんですよね。

佐々木:ホストとして割り切って見て消費するのと、人としてちゃんと見るの、どっちがホストにとってつらくないんだろうとは時たま考えるんですよ。ホストとしてだけ関わってくれよって思うときもあれば、「ホストじゃん」って自分の存在を矮小化されるときもあると思うので。

ここりく:それはありますね。「ホストじゃなかったら絶対関わりたくない!」って思うような子にはホストとしての自分しか見せたくないし。人柄に行きつくのかなぁ。俺は駆け引きしないから無理な人は切っちゃうので。

佐々木:それで売り上げをたてていけるなら一番いいですね、ノンストレス…。

ここりく:好きじゃないと大前提一緒にいることができないから、店外とかアフターとか、同棲営業もできないです。

 仲良くなるきっかけもお店に来てもらって時間を買ってもらって……となるので、彼女や好きな子も、必然的にお客様の中として出会うタイプですね。

 そんな中で外でたくさん会ったけど1年たらずで離れる子もいれば、基本的にはお店でしか会わない友営で5年以上続く子もいるわけで。踏み込みすぎてないほうが、返って長く続くのかな……とか考えることもあります。

佐々木:ホストクラブのメリットって人間関係の濃さを選べるところだと思っていて。普段濃い関係に疲れてる人は薄い関係で楽しく遊ぶし、つながりを求めている子はそういう通い方をする…という。

ここりく:ホストって、関係性のプロだと思うんですよ。接客のプロではなくて、関係性のプロ。友達でも恋人でも、婚約者でもいい。相手が居心地のいい距離感で関係性を築くことが、ホストの仕事なのかなと思います。

佐々木:終始結婚がチラついた対談だった…。やっぱり結婚が真実の愛なんでしょうか!? (笑)ありがとうございました。

 

編集後記

「今日も歌舞伎町で真実の愛は見つかりませんでした」なんて帯文をつけて歌舞伎町モラトリアムを出版した後一発目の対談は愛の戦士。聞いていると、歌舞伎町の愛の形の歪さとそこにあるまっすぐさに触れたような気がしました。そもそも自分に何かを向けてくれることが愛の始まりなんでしょうか。傷でもいいから、身体に刻んで目に見えるようにしていたいですね。そんな短編を歌舞伎町モラトリアムの書籍の中には書いているので、読んでこの街での愛について一緒に考えてくれたらうれしいです。

<第9回に続く>
佐々木チワワ(ささき・ちわわ)/2000年生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)在学中。10代から歌舞伎町に出入りし、フィールドワークと自身のアクションリサーチをもとに「歌舞伎町の社会学」を研究する。歌舞伎町の文化とZ世代にフォーカスした記事を多数執筆。現在、初の書籍『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』(扶桑社)が好評発売中。