上坂すみれが中学生時代から神田の古本屋を巡ったわけ。横山光輝『三国志』や江戸川乱歩など、多感な時期に出会った昭和の名作を語る【私の愛読書】
更新日:2023/2/8
声優・アーティストの上坂すみれさんは相当な読書家だ。中学生の頃から神保町や中野ブロードウェイに通い、小説やマンガなどさまざまなジャンルの本と出会ってきた。今でも多忙ななか、必ず一冊の本をバッグに忍ばせているという。
さまざまな分野で活躍する著名人にお気に入りの本を紹介してもらうインタビュー連載「私の愛読書」。今回は2月8日にニューシングル「LOVE CRAZY」の発売を控えた上坂さんにご登場いただいた。
子どもの頃から愛読しているマンガや小説から、つい先日、新幹線の駅で買った短編集まで。バラエティ豊かなセレクトを、上坂さんならではの切り口とともにご紹介する。
(取材・文=金沢俊吾)
横山光輝『三国志』はドラマチックすぎなくて良い
――上坂さんにとって「愛読書」といえるような作品をいくつか教えていただければと思います。
上坂:ひとつ目は、横山光輝先生の『三国志』です。全60巻の長編マンガで、小学生の頃に初めて読んだときはイマイチ理解できなかったんですけど、大人になってから読破できて。とても思い入れのあるシリーズなんです。
――どんなところに惹かれたのでしょうか?
上坂:マンガの基となった吉川英治先生の小説『三国志』を、横山先生がとても好きなことが伝わってくるんです。ドラマチックにしすぎず、横山先生があくまでも語り手に徹してるという感じがすごく素敵だと思いました。重要なキャラクターもそのときがくれば死んでしまう無情なところも含めて、とてもハードボイルドでかっこよくって。一気読み推奨のマンガです。
――全60巻をお持ちなんですか?
上坂:自宅にありますよ! 最初は文庫版を買ったのですが、やっぱり黄色い背表紙の『三国志』を揃えたいなと思って、単行本版を買い直しました。
――全巻買い直したのはすごいです! 『三国志』のなかで好きなキャラクターがいたら教えてください。
上坂:えー、たくさんいて難しいですね! 劉備や魯粛は好きですし、孫策や孫権もいいキャラですよね。呂布は、三国志をモチーフにしたゲームだと無敵キャラとして描かれることが多いんですけど、横山先生の『三国志』だと貂蝉のことが好きだったり、金品に惑わされてあっさりとくら替えをしたり、人間らしいところが描かれていて魅力的ですね。
――上坂さんはマンガがお好きなイメージがありますが、年代やジャンルを問わずなんでも読まれているのですか?
上坂:そうですね。中学生の頃から中野ブロードウェイや神保町に通っていて、絶版になった古本をよく買っていました。最近はKindleでもよく本を買います。常になにかしら本を読みたいなと思って生活しています。
――中学生で神保町の古本屋を巡るようになったのは、どういうきっかけがあったのでしょうか。
上坂:もともと本が好きだったので、最初は「本の街」という情報だけに惹かれて出かけていったんです。そうしたら古本屋さんが連なっていて、軒先に江戸川乱歩とかが目玉商品みたいに置かれていて「あ、知ってる作家さんだ」ってお店に入ってみたりして。それでハマってしまって、しょっちゅう通うようになりました。
――古本屋さんならではの魅力的な雰囲気ってありますよね。
上坂:そうなんですよ! 手書きの値札や、状態のよくない絵本、古い雑誌のバックナンバーなんかが並んでいて、すごくノスタルジックな気分にさせてくれるんです。
昭和サブカルの教科書 江戸川乱歩『パノラマ島奇談』
――では、もう1冊お願いします。
上坂:江戸川乱歩先生の『パノラマ島奇談』です。パノラマ島という、ちょっと偏屈な男が人工的に作ったユートピア島でさまざまな事件が起きるというストーリーです。私はもともと、あんまりホラーやミステリーを読まないんですけど、江戸川乱歩の作品は舞台設定がアニメっぽいというか、ぶっ飛んでることが多いんです。それが楽しくて、中学生の頃からよく読んでいました。
――どういったきっかけで中学生の上坂さんが江戸川乱歩に辿り着いたのか気になります。
上坂:当時から筋肉少女帯が大好きだったんですが、曲のモチーフで江戸川乱歩の作品が出てくるんです。そこから興味を持って読むようになりました。乱歩作品をモチーフにする作家さんやアーティストさんは多いのですが『パノラマ島奇談』は丸尾末広先生がマンガにもされていて、それも好きでしたね。
――江戸川乱歩のエログロな世界観って、中学生からするとショッキングな感じもありませんでしたか?
上坂:もちろんストーリーは怖いんですが、それよりも「昭和のサブカルチャーの人がみんな通ってきた道はここなんだ!」という感動のほうが強くて。サブカルの教科書みたいな感じで読めていたのかなって思います。
――乱歩に影響を受けた作品を含めて、サブカルの系譜みたいなものを読み取って楽しまれてきたわけですね。
上坂:そうですね。あとは、江戸川乱歩作品の犯人や主人公って、社会的に弱かったり重大な欠損があったりすることが多いんですが、弱者が勝つわけでもなく、ハッピーエンドにはならないっていう話がまず子どもの私にとっては衝撃的で。でも、なぜか「めでたしめでたし」で終わらないほうが納得できるような気分にさせてくれるんですよね。それがすごいなっていまでも思います。
自分が生きる時代とのズレを楽しむ『昭和の名短篇』
――では、もう1冊教えていただけますか?
上坂:じゃあ、いちばん最近読んだ本でもいいですか? 中公文庫から出ている『昭和の名短篇』というアンソロジー本です。これは、品川駅で新幹線に乗る前に本屋さんで何となく買ったんですけど、すごくおもしろくて。
――どのようなアンソロジーなんですか?
上坂:「戦後」がテーマになっていて、1945年からの数年間で発表された14名の作家の短編が年代順に収録されているんです。最初の志賀直哉『灰色の月』は、本当に終戦直後の電車の様子が描かれていて、とてもいい小説でした。
――なるほど。1冊のなかで時代が進んでいくわけですね。
上坂:そうなんです。だから昭和をざっと素通りできるような。小林勝の『軍用露語教程』とか佐多稲子の『水』のあたりまでは生きていくのが大変な昭和が描かれていて、終盤の吉行淳之介『葛飾』や色川武大の『百』は現代に近づいた感じがするんです。最後に載っている『百』は、もうすぐ100歳になるおじいちゃんが家族に迷惑をかけつつ、死なずにぼんやりしながらも生きてるみたいな短編で、なんとも悲しくなる小説でこれもよかったですね。
――ありがとうございます。挙げていただいた3つの愛読書は、どれも上坂さんが生きていなかった古い時代を描いている作品でしたね。
上坂:現代の本だと小説よりも新書やノンフィクションをよく読みます。小説となると、生まれる前に書かれた作品から、自分の生きている時代とのズレを楽しむみたいな、そういう工程が好きなんです。「昔の渋谷駅って、いまと全然違うな」とか、なくなってしまったものや、形を変えてしまったものを小説の中から見つけるのが楽しいんです。
作詞はなじみのあるモチーフを参考に
――上坂さんご自身の作品のことも少し聞かせてください。昨年、2nd写真集『すみれのゆめ』を発売されました。女性の写真集を見るのもお好きなんだそうですね。
上坂:はい。グラビアを見るのがすごく好きで、自分でもそういった表現ができたらいいなって思い写真集をセルフプロデュースしました。昨年30歳になって、今だからできることをやっておきたかったんです。それで、写真集やグラビアで見るようなベタなシチュエーションを一生やらないのはもったいないと思い、あえて水着やチャイナドレス、浴衣やバニーを着てみました。
――2/8にリリースされるシングル「LOVE CRAZY」には、上坂さんが作詞した「道がわからないのうた」も収録されています。作詞にあたって、ご自身の読んできた小説に影響を受けていると感じたことはありますか?
上坂:具体的に何かを模して、という感じではないんですけど、自分になじみのあるモチーフを参照することはあります。たとえば前回のアルバム(2022年10月発売 5th ALBUM『ANTHOLOGY & DESTINIY』)だとシティ・ポップの曲が多かったので『ハートカクテル』というマンガの世界観を参考にしたりしました。今回、作詞をした楽曲は「かっこいい曲にラフな歌詞を乗せる」というイメージがあったので、いろいろ難しいことは考えず、ちょっと肩の力を抜いた作詞をしようと心がけました。
■13th SINGLE『LOVE CRAZY』
発売日:2023年2月8日(水)
ご購入はこちら▶︎https://sumire-uesaka.lnk.to/13thSG_LOVECRAZY
【収録内容】
【CD(収録楽曲)】※3形態共通
01.LOVE CRAZY
作詞:ヨシダタクミ(saji)/ 作曲・編曲:KoTa
★TVアニメ「イジらないで、長瀞さん 2nd Attack」オープニングテーマ
02. リベリオン
作詞・作曲・編曲:R・O・N
★「マジデス壊 魔法少女マジカルデストロイヤーズ」主題歌
03. 道がわからないのうた
作詞: 上坂すみれ/ 作曲・編曲: 渡辺 徹(Blue Bird’ s Nest)
04. LOVE CRAZY(off vocal ver.)
作曲・編曲:KoTa
05. リベリオン(off vocal ver.)
作曲・編曲:R・O・N
06. 道がわからないのうた(off vocal ver.)
作曲・編曲: 渡辺 徹(Blue Bird’ s Nest)
【Blu-ray】
「LOVE CRAZY」Music Video
「LOVE CRAZY」MAKING
※収録内容、特典内容は予告なく変更となることがございます。
■「SUMIRE UESAKA LIVE 2023 TALES OF SUMIPE 運命の書/同人の書」
■日程
【DAY1:運命の書】
2023年3月18日(土)
17:00開場/18:00開演
【DAY2:同人の書】
2023年3月19日(日)
16:00開場/17:00開演
■会場
立川ステージガーデン
(〒190-0014 東京都立川市緑町3-3 N1)
■チケット代金
8,800円(全席指定・税込)
※2階、3階席の最前列は⽴⾒での観覧ができませんので予めご了承ください。
・本公演は行政機関及び会場の規定に基づき、収容人数を設定しております。そのため、最大収容人数での開催となる場合やチケットが連番のお客様同士でお席の間隔が空く場合がございます。
★現在プレイガイド先行受付中!
チケット申し込み方法などの詳細は、LIVE特設サイト内NEWSをご確認ください。
<第7回に続く>
http://king-cr.jp/artist/uesakasumire/live/talesofsumipe2023