「川口浩探検隊」が目指したのは『インディ・ジョーンズ』。番組スタッフから8年にわたって取材した労作ノンフィクション

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更新日:2023/2/14

ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実
ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実』(プチ鹿島/双葉社)

 1976年から1986年までテレビ朝日で放映された『水曜スペシャル』。その中でも型破りな発想とインパクトの大きな映像で異彩を放っていたのが『口浩探検隊』シリーズだ。そして、同番組のファンだったお笑い芸人/コラムニスト、プチ鹿島氏がこの度上梓したのが『ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実』(双葉社)。8年間に及ぶ取材によって、同番組の裏側に肉迫した労作である。

 番組の第一回から第三回の見出しを挙げると、「20世紀の奇跡を見た!!人跡未踏の密林に石器民族は1000年前の姿そのままに実在した!!」「驚異の人食いワニ・ブラックポロサスを追え! 恐怖の毒蛇タイパン狩り!2億年の恐竜は存在した!」「暗黒の魔境アマゾン奥地3000キロに幻の原始民族を追え!! -第1部-」といったところ。

 著者はこれらの映像をすべて事実だと思っていたそうだが、実態は違う。著者は「川口隊長、歴史的発見!原始猿人捕獲」などの回を見るごとに、なぜこんな歴史的発見が新聞などで報道されないのか!?と憤りと落胆を同時に覚えていたようだ。今のようにインターネットがあれば検索して済ませられることだが、当時は視聴者と番組制作者がロマンを共有していたのだろう。

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 主役の川口浩氏は既に亡くなったが、当時番組に関わっていたスタッフに話を聞けないだろうか――そう思ったプチ鹿島氏は、躍起になってリサーチを敢行。行く先々で貴重な証言や新たな事実に出合うことになる。例えば、番組に頻出した蛇や虎や原始猿人らの多くが造りものだったのが、改めて明白になる。

 だがしかし、実際に使われなかった映像については、著者もおおいに驚いたという。川口氏がピラニアに噛まれて大怪我を負った話は有名だが、それ以外にもスタッフは大変な目に遭っている。こうもりの糞が敷き詰められた洞窟に入ると、ムカデなどがいっぱいで、ダニらしきものに噛まれて足に卵を産み付けられていたとか。あるいは、スタッフが8日間山奥の村で人質にとられ、死にかけたなんてエピソードも出てくる。

 番組のもうひとつの特徴として、過度に煽情的なナレーションと、壮大で劇的な音楽を挿んだ演出が挙げられる。そして、その番組の調査に乗り出す著者の姿は、完全に自分たちが秘境への冒険に出た気分になっているかのよう。読み進めるうちに、脳内でナレーションや音楽が鳴りやまなくなってくる。

 なお、『川口浩探検隊』とほぼ同時期に、TBSのテレビ番組が徳川幕府の埋蔵金を発掘する番組を放送していた。同番組は糸井重里氏を中心としたチームを結成し、約2年半にわたって計10回の発掘作業が行われたのだ。これは『川口浩探検隊』と同種の系譜にある番組に見えるが、実状はまったく違ったそうだ。徳川埋蔵金発掘はヤラセなしで作られたドキュメンタリーであり、『川口浩探検隊』は搾りに搾ったエンターテインメント路線だったという。「『川口浩探検隊』がドキュメンタリーだなんて、一度も言ったことはない」と言う関係者もいた。

 本書の終盤、番組のコンセプトがいよいよ明瞭になってくる。それは、テレビ版『インディ・ジョーンズ』だったという。バラエティでもドキュメンタリーでもなく、目的地は『インディ・ジョーンズ』。彼らのライバルはハリウッド映画だったのである。

 著者はノンフィクションの本を作ることについて、「ある題材を調べているだけでは真相にはたどり着けない。一見、本筋の題材とは関係ないが、まとわりついてくる要素を無視することはできない」と述べる。そのまとわりついてくるものを、あえて番組内には入れなかったのが『川口浩探検隊』だ。未発表の、とてもじゃないが表には出せないような映像は幾らでもあったはず。それは、川口氏らの努力と熱意と根気の結晶のような、代替不可能な宝の山に違いない。

文=土佐有明