平野レミと夫・和田誠の初デートの思い出「左ひらめの右かれい」/平野レミ『エプロン手帖』

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公開日:2023/2/19

私の料理の原点は、やっぱり母の味でした――
エプロン手帖』(平野レミ:著、和田誠・舟橋全二:絵/ポプラ社)は、平野レミさんが、28年前に出した書籍を大幅にリニューアルしたエッセイ集です。51の食材にまつわるエッセイと、レミさん撮影によるお料理の写真、レシピがエッセイとともに楽しめます。料理を盛る器にこだわり、背景に夫の和田誠さんのポスターや自身のブラウスを敷くなど、スタイリングもご自身で手がけたそう。リニューアルした本書から、厳選した8つのエッセイとレシピをご覧ください。

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エプロン手帖
エプロン手帖』(平野レミ/ポプラ社)

左ひらめの右かれい

 夫と初デートで食事をしたとき、そのお店で突出しに干した小さな変な魚が出た。全員ぺったんこで片側に目が二つついている。「何! 何! どうしちゃったの、この魚」と私は言った。夫は(そのときはまだ夫じゃなかったが)静かに「これはかれいかな、ひらめかな。あ、かれいだな」と言った。「どうしてわかるの」と私はきき、「左ひらめの右かれい」と夫は説明してから、「この連中は海底に住んでて、平らに泳ぐから、この形が都合がいいんだ」と教えてくれた。変なこと知っている人だな、と私は思った。

 このとき夫は、この女はひらめやかれいを見たことがないんだろうかと思ったそうだ。ひらめもかれいも知ってるけど、しげしげ見たことはなくて、魚は全部、目が両側についていて、縦にまっすぐ泳ぐものだと思っていたのだ。

 かれいを知らなかった人が今、料理の先生をやってるなんて信じられないと夫は言う。信じられなくても仕方がない。私だって信じられないのだから。今は私は夫より少し詳しくなって、種類によって左に目のあるかれいがいることや、地方によってひらめをかれいということもあることを知っている。

 かれいもひらめも新鮮なものは刺身がおいしいし、煮つけも、から揚げもポピュラーなもの。

 から揚げ二つ。かれいに小麦粉をまぶして油で揚げて深めの器に入れ、お吸物より濃いかつおだしにたっぷりの大根おろしを加えて熱したものを揚げたてのかれいにジュッとかけ、醬油をタラー。これは日本風。八宝菜のような野菜あんを作って、あつあつを揚げたかれいにかける。これが中国風。
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エプロン手帖
イラスト=舟橋全二

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