平野レミが「煮干のおじさん」に感謝する理由/エプロン手帖
公開日:2023/2/21
『エプロン手帖』(平野レミ:著、和田誠・舟橋全二:絵/ポプラ社)は、平野レミさんが、28年前に出した書籍を大幅にリニューアルしたエッセイ集です。51の食材にまつわるエッセイと、レミさん撮影によるお料理の写真、レシピがエッセイとともに楽しめます。料理を盛る器にこだわり、背景に夫の和田誠さんのポスターや自身のブラウスを敷くなど、スタイリングもご自身で手がけたそう。リニューアルした本書から、厳選した8つのエッセイとレシピをご覧ください。
煮干のおじさん
父の友だちに「煮干のおじさん」という人がいた。本当はちゃんとした名前のある立派な学者なのだが、子どものころの私はいつもそう呼んでいた。どうしてかというと月に一度ほどおじさんは父を訪ねてきて、必ずお土産に煮干をひと袋持ってきてくれるからだ。私は玄関で待ちかまえていて、おじさんから袋を受け取り、ポリポリと食べる。母はだしにしようとしていたらしいが、たいてい私が先にみんな食べてしまっていた。
私は今でも煮干が好きで、デパートで煮干を買って、かじりながら買い物をする。先日、知合いのお医者さんで〝骨量〞というのをはかってもらったら、若い人と同じくらいあるということだった。子どものころから煮干を食べていたせいかしら。だとしたら煮干のおじさんに感謝しなくてはいけない。
煮干は〝だしじゃこ〞ともいう。じゃこは雑魚がなまった言葉だけど、じゃこというとおいしい食べ物だし、ざこというと下っ端の魚みたいで、かわいそうな気がする。
じゃこを細かく砕いて、削りがつおと白ごまと焼きのりを混ぜ、醬油で少し湿りけをつけて、あったかご飯にのっけて食べるとバツグンにおいしい。ご飯じゃなくて、ほうれん草のおひたしにのっけるのもいい。
じゃこ丼。ちりめんじゃこをサラダ油でカリカリに炒め、花椒塩をふってあったかご飯にたっぷりのせて、もみのりをふる。花椒塩というのは、山椒の粉と塩を混ぜたもの。市販品もあるけど、山椒の実を砕いて塩と一緒にから炒りすると、いい香りがたちのぼって素敵な調味料になる。
じゃこ山椒。実山椒の塩漬け大さじ三とじゃこ八十グラムを用意し、小鍋に酒三分の一カップ、醬油、砂糖各小さじ二、みりん大さじ一を沸かして、じゃこに吸わせる。仕上げに実山椒を混ぜ合わせる。実山椒の風味は格別。じゃことのコラボでご飯がエンドレスになる。
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